パリに戻ってくる世界最大のスポーツの祭典、不満の声も

エッフェル塔の前に見えるオリンピックの輪/Benoit Tessier/Reuters/FILE

2023.06.17 Sat posted at 20:24 JST

パリ(CNN) 日付は決まった。会場選びも終了し、チケット販売も始まった。

最後に街がオリンピックムードに彩られてから100年、世界最大のスポーツの祭典は来年パリに再び戻ってくる。

大会組織委員会とフランス政府は史上もっともインクルーシブ(包摂的)な大会を標榜(ひょうぼう)しているが、多くの人々は納得していない。

一番の懸念事項は、アクセシビリティー(利用しやすさ)だ。金銭的なところでは高額なチケット価格、障害のある人々にとっては老朽化したパリの交通インフラでの移動が悩みの種だ。

手の届かない五輪チケット

フラビアン・ラルマンさんはなんとかパリ2024のチケット販売サイトにたどり着いたものの、最終的に無駄骨だったと判断した。

23歳の開発者は販売対象のチケット価格について、「ふざけている、とにかくクレージーだ」とCNNに語った。

「残念だ。僕らの街で、目と鼻の先で開催されるのに、観光客ばかりになってしまう。僕らにも影響はあるだろうが、プラスの影響ではないだろう」とラルマンさんは言い、結局は自宅でTV観戦することになるだろうと付け加えた。


五輪は世界最大のスポーツイベントだ/Alex Pantling/Getty Images

多くのフランス人がソーシャルメディアでチケットの価格に反発し、販売価格が平均的な予算をはるかに上回っていると不満の声を挙げている。

アクセシビリティー完備の大会になると高らかに謳(うた)っている大会組織委員会にとっては、面目丸つぶれの騒動だ。

「パリ2024は連帯とインクルージョンに重点を置いた最初の大会になるだろう」と、公式ウェブサイトも豪語している。

オリンピックのチケットの最安価格は24ユーロ(約3700円)、パラリンピックの場合は15ユーロだ。だが、安いチケットは販売枚数が限られている上、パリ以外の都市で実施されるバスケットボールやサッカーなどの大会だ。大勢のスポーツファンがチケット購入にこぎつけた時には、手ごろな価格のチケットは品薄状態だった。

過去の大会とは違い、パリ大会では「セット販売」システムが導入された。チケット購入のチャンスを手にするには、一般市民はまず抽選への登録を求められた。販売スタート以降、抽選で選ばれた市民は48時間以内に少なくとも3競技のチケットを購入し、各競技につき同数のチケットを予約するという仕組みだった。

フランスの陸上競技選手ジミー・グレシエ氏。チケット価格が法外だと不満をもらす

1つの競技だけで満足という人にしてみれば、当初の予算より3倍の費用がかかる場合もある。もっとも、大会組織委員会は、不要なチケットは来年春から転売できると約束している。

「あの価格にはうんざりする」。体操の欧州選手権メダリストで五輪出場経験をもつマリーヌ・デボーブ氏は、690ユーロという体操決勝のチケット価格についてこう語った。

「この国では選手として五輪出場する方が、観客として参加するよりも楽かもしれない」と同氏はフェイスブックに投稿し、家族の分のチケットを確保できないと怒る現役選手に同調した。

CNN提携局のBFMTVによると、陸上5000メートル種目のフランス人選手ジミー・グレシエ氏はソーシャルメディアで、10人の親族をレースに招待したら6000~7000ユーロはかかると投稿した。

同氏はチケット価格について、「基本的にすべての人々が手ごろに、かつ気軽に楽しめ、ビッグなスター選手がいるわけでもないスポーツ」にしては「法外だ」と付け加えた。

「状況は理解している。皆さんをがっかりさせて申し訳ない」。パリ2024大会組織委員会のトニ・エスタンゲ会長は今年3月、CNN提携局BFMTV―RMCスポーツにこう語り、5月の2次販売では1枚ずつ個別に購入できると付け加えた。

「需要が供給をはるかに上回っているのは我々も認識している」と、エスタンゲ会長はチケットについて付け加えた。

販売される約1000万枚のうち、価格が24ユーロのチケットは10%前後、50ユーロ以下は半数にとどまる。2012年のロンドン五輪ほど高くはないというのが大会組織委員会の言い分だ。

過去の大会とは違い、パリ五輪の開会式は街を貫くセーヌ川沿いで行われ、大会の幕開けをこれまでにない形で(しかもほぼ無料で)目の当たりにすることができる。

とはいえ、水上パレードをベストポジションで見られる河岸の観覧席は有料だ。中には2700ユーロで販売されている席もある。

会場に行くまでにもハードルが

パリ2024大会組織委員会は、インクルージョンが大会運営の肝だとし、来年9月に行われるパラリンピックは「史上もっともアクセスしやすい」大会になると豪語して、アクセシビリティーの旗頭的存在と位置づけている。公式マスコット――にっこり笑った1組のフリジア帽――のひとつは義足を装着しており、大会組織委員会によれば公式マスコットとしては史上初だそうだ。

2024年パラリンピックのマスコットは初めて義足を装着する

エスタンゲ会長は昨年11月の公式マスコット公表の際、「目に見える障害のあるマスコットがいるのは、力強いメッセージだ」と述べ、障害者の社会参加と存在価値をメッセージとして発信していると続けた。

だが、これで障害のある来場者もほっと一安心とはいかない。市内を移動する際、障害者も利用可能な手段はほぼ皆無だろう。

1世紀以上も前に建設されたパリの地下鉄網は階段だらけでエレベーターがなく、障害のある乗客には不便なことで有名だ。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は4月、政府が15億ユーロを拠出してフランス国内のアクセシビリティーを改善し、移動が制限されている人々向けに「アクセシビリティーを100%完備した」大会にすると公言した。

障害者の権利を擁護する活動家ステファヌ・ルノワール氏は、大会中のパリ市内の障害者向けアクセスについて「かなり心配だ」という。障害者のニーズに対応した路線は1つしかなく、それも「雀の涙」だからだ。

現在パリ市内を走る地下鉄のうち、完全なステップフリーが実現されている路線は14号線のみ。パリ市内332駅のうち、開幕までに車いす対応になるのはわずか10%と推定されている。

これに対してロンドンの場合、「チューブ」と呼ばれるロンドン地下鉄網は、パリよりもずっと深く、世界最古であるにもかかわらず、2012年の開幕前に約4分の1の駅がステップフリー化した。大会が延期され21年開催となった東京もまたしかりで、20年には地下鉄駅の95%以上でステップフリー化が実現した。


パリの地下鉄で完全にステップフリーなのは1路線のみだ/Bertrand Guay/AFP/Getty Images

大会主催者はパリの主要駅と競技会場間をシャトルバスでつなぐと約束しているが、バスの利用や収容人数に関する情報が不足しているとルノワール氏は懸念を示している。とくにチケットを購入した障害者に同行する家族への情報が足りないという。

障害者の権利を訴えるフランス国内の団体「APFフランス・ハンディキャップ」のニコラ・メリル氏はこうした問題について、アクセシビリティー全般に対するフランスの考え方が原因だと言う。

障害者は「社会や医学の問題として認識され、市民とはみなされていない」と同氏。

「車いすでの移動はつねに油断できない。トラブルなしで移動できる保証はまったくない」(メリル氏)

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