全ての国を回った男性、今度は自ら「建国」 米

自称国家であるスロージャマスタンのスルタンを名乗るランディ・ウィリアムズ氏/Republic of Slowjamastan Ministry of Communications

2023.07.09 Sun posted at 14:00 JST

(CNN) 「手短に言うなら」とランディ・ウィリアムズ氏は言った。米サンディエゴ出身の「スロージャム」を専門とする深夜のラジオDJは、「Rダブ!」という愛称の他に、「スロージャマスタンのスルタン」という肩書も持つ。「他に行く国がなくなったので、自分の国を作った」

夜はラジオ局で働きながら、ウィリアムズ氏は世界のあらゆる国々を訪れることに命を捧げてきた。国連加盟国のうち訪問先が残り1カ国となったところで、人気のない乾燥したカリフォルニアの砂漠に11.07エーカー(約4万4800平方メートル)の土地を購入し、ラジオ番組にちなんだ新しい「国」を作ることにした。

2021年12月1日午後0時26分、スロージャマスタンのスルタンは一張羅のスーツとサングラス姿で、米合衆国からの独立を宣言した。この時の様子は「スロージャマスタン共和国」の首都ダブランディアにある「行政府」から生中継された。

それから2年。スロージャマスタンでは「クロックス」の着用禁止令など十数もの奇妙な法律が制定された一方、新興国家らしい特徴にあふれている。独自のパスポートを発行し、独自の国旗がはためいて、独自の通貨「ダブル」も流通している。国家行事の際には国歌も演奏される。

スロージャマスタン共和国には500人以上の国民もいる。条件付きでの市民権取得者や申請待ちの人々は4500人以上にのぼる。世界の国々を全制覇するという生涯の目標を達成した今、ウィリアムズ氏はスロージャマスタン共和国の観光誘致に力を入れ、世界随一の「ミクロネーション」化計画を立てている。

スロージャマスタンのスルタン

「ラジオをやっていない時は、誰も聞いたことのないような国を旅しているだろう」とウィリアムズ氏はCNNに語った。国連で承認された193カ国のうち、最後の訪問国となったトルクメニスタンへの旅行に向かう前のことだ。「スロージャマスタンを建国しようと思った理由のひとつは193カ国の次に194カ国目が欲しかったから!」

正式名称は「スロージャマスタン人民共和国主権国家連合領土」。ウィリアムズ氏が独立を宣言した「自称国家」は、サンディエゴから北西に車で2時間半、カリフォルニア州道78号線沿いにある。狭い土地には砂漠の他何もないが、ウィリアムズ氏は幹線道路のそばに「ようこそスロージャマスタンへ」と書かれた巨大な看板を設置し、入国管理局も設けた。屋外の行政府の上には、色鮮やかなスロージャマスタンの国旗がはためいている。

ウィリアムズ氏が国家建設を考えたきっかけは、世界旅行の途上で様々な自称国家、いわゆる「ミクロネーション」を訪れたのがきっかけだった。

スロージャマスタン共和国への「入国」を歓迎する看板

ウィリアムズ氏は21年8月、ネバダ州にある11.3エーカーのミクロネーション「モロッシア共和国」を訪れた。1998年に米合衆国から独立を宣言したこの国で、ウィリアムズ氏は「ケビン・ボー大統領閣下」から直々に国内を案内してもらった。モロッシア共和国が旧東ドイツと今もなお「戦争」を継続していること、地域通貨「ヴァローラ」が金本位ではなくチョコレートチップクッキーの生地を単位にしていることを学んだウィリアムズ氏は、合衆国との「国境」でパスポートに入国スタンプを押され、記念撮影もした。

サンディエゴに戻ったウィリアムズ氏は、すぐさま自らのミクロネーション建国に向けて壮大な計画の構想に取りかかった。21年10月、同氏は1万9000ドルで土地を購入し、12月にはスロージャマスタンの独立を宣言した。

砂漠の専制国家

「ほぼ専制君主制だ」とウィリアムズ氏は言い、共和国「政府」の制度を説明した。「時には特別採決式や国民投票を行うこともある。最近では国果や国技に加え、国獣の名前を国民に投票してもらった」

「共和国」と言いながら、専制君主が国家元首を務めるのは矛盾しているように見えるかもしれないが、そこがポイントだ。ウィリアムズ氏は世界でも有数の興味深い国々を訪れ、奇妙なカルト的特徴や矛盾が存在するのを目の当たりにしてきた。北朝鮮が良い例だ。

偽の勲章がずらりと並び、金の肩章が付いたライトグリーンのスルタンの衣装に身を包み、色のついたサングラスをかけたウィリアムズ氏は、喜んで写真撮影に応じ、公の場で演説を行う。国境警備隊を雇い入れ、スロージャマスタンの国家行事の際には「ボディーガード」に身辺警備を任せる。国民も観光客も「国外追放」されたくなければ、施行されている数々の禁止令を順守しなければならない。現在は「クロックスの着用」「ラップを口ずさむこと」「車のダッシュボードに足を乗せること」などが禁じられている。

スロージャマスタンのスルタンの人格といでたちは、政治や専制君主制に見られる不条理をウィリアムズ氏なりに表現したものだ。同氏のミクロネーション計画に賛同する人々も後を絶たない。スロージャマスタンのウェブサイトからは市民権の申請や閣僚への立候補が可能だが、非常な人気ぶりで数千件の処理が追い付かない状態だ。

現在は観光客にも国境を開放している。同氏はとくに人気の観光アトラクションとして、スロージャマスタンの看板の前での自撮りや独立広場の訪問、国獣でもあるすばしっこいアライグマの探索などを挙げた。

ウィリアムズ氏によれば、スロージャマスタンには多くの人々が訪れるという

次の構想は、十分な資金を集めて「のどかな川と、アルマジロ飼育園、モンゴル風バーベキュー食べ放題のレストラン、そしてもちろん、偉大なる指導者(つまり自分)の巨大な像または記念碑」を建設することだという。

「年間を通して、わずかながらもイベントを実施している」とウィリアムズ氏は続けた。「スロージャマスタンのパスポート証印、新国家誕生の記念式典、スルタンとの面会などだ」

国交樹立を目指して

ウィリアムズ氏は他国との国交樹立にも取り組んでいる。同氏のスロージャマスタン国籍のパスポートには、最近訪れた南アフリカやニュージーランド、バヌアツ、米合衆国など16カ国の証印が押されている。

ウィリアムズ氏によれば、法的に見て、スロージャマスタンは1933年のモンテビデオ条約で定義される「独立国民国家」の基準を満たしている。この条約は、国家の定義の例としてよく引き合いに出される。

モンテビデオ条約は、恒久的な住民、定められた領土、行政府、他国と外交関係を結ぶ能力の存在を国の条件として定めている。スロージャマスタンはこれらすべての条件を満たしているとウィリアムズ氏は主張する。

スルタンが次に目指す段階は、米合衆国からの分離独立承認を勝ち取ることだ。だがさすがのウィリアムズ氏も、少々無理があると感じているようだ。

「認めるのはしゃくだが、バイデン大統領のフェイスブックやツイッター、インスタグラム、マイスペースにメールやDMを送ったものの、どれも既読にならない」とウィリアムズ氏は説明した。「おそらく迷惑フォルダーに残ったままなのだろう。それも仕方ない」

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