首都へのドローン攻撃で、ウクライナの戦火がロシアにも

ドローン攻撃によるモスクワの集合住宅の損傷を調査する専門家/Kirill Kudryavtsev/AFP/Getty Images

2023.05.31 Wed posted at 14:44 JST

(CNN) ウクライナ人にとってはおなじみの流れだ。市内で爆発音が鳴り響いた後、上空のドローンの映像が公開される。防空システムが即座に作動し、当局は攻撃を確認する速報を発表する。

だが今回、ガラスやコンクリートが砕け散ったのはロシアの首都で、キーウではない。ウクライナに対するロシアの戦争は、ついにモスクワにも迫ってきたようだ。

今のところ分かっているのは次の通りだ。30日午前、ロシアの首都でドローン(無人航空機)の一斉攻撃が行われた。ロシア国営のRIAノーボスチ通信によると、1機がモスクワ南西にあるタワーマンションの高層階に衝突し、ビルのファサードを損傷した。別の1機はモスクワの幹線道路のひとつ、レニンスキープロスペクトにある集合住宅の14階の1室に衝突した。


ドローン攻撃によるモスクワの集合住宅の損傷を調査する専門家/Kirill Kudryavtsev/AFP/Getty Images

モスクワ市のセルゲイ・ソビャーニン市長はSNSテレグラムに最新状況を投稿し、現場には救急隊員が駆けつけたこと、2人が負傷したものの入院者は出なかったことを住民に伝えた。それから数時間後、ドローンが衝突した住宅から避難していた住民が帰宅を始めたとソビャーニン市長は述べた。

だがロシア政府が遠まわしに「特別軍事計画」と呼ぶウクライナの戦争が続く中、モスクワが不安を抱えながらも現状を維持していたこれまでの生活に戻ることはないだろう。昨年2月にウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの全面侵攻に踏み切ってからというもの、ロシアの大部分はウクライナ人が日々耐え忍んでいる場面とは無縁だった。

それから数カ月間、ウクライナと国境を接するロシアの地域は攻撃を受け続け、地元当局からはウクライナ側からたびたび砲撃を受けたとの報告が出ている。26日にはウクライナのヘリコプター数台がロシア領内を攻撃したとロシア政府は非難しているが、これについてウクライナ政府は肯定も否定もしていない。

今月には複数のドローンが、まさにロシアの権力の中枢であるクレムリン周辺の警護網を突破した。ウクライナ側は30日の攻撃について関与を否定している。政府高官の1人にいたっては、数カ月にわたってウクライナの都市を爆撃してきたロシアがしっぺ返しに遭っていると言い切っている。

「当然だが、攻撃が増し、今後も増えていくと予想するのは小気味いい」と、ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府長官顧問は発言した。「もちろん、我々は直接関与していないが」

「今ロシアで起きていることは、彼らにとって当然の報いだ。ウクライナで行ったあらゆる行為に対し、ロシアは倍返しで代償を払うことになるだろう」とポドリャク氏は続けた。

ドローン攻撃を受けて損傷した建物=30日、ロシア首都モスクワ

だが30日の攻撃は、これまでの攻撃とは意味合いが異なっているようだ。第一に、今回の攻撃はクレムリンへの怪しげなドローン攻撃とは違い、ロシア国家を相手にした象徴的な攻撃ではなかった。むしろ、ロシア政界や経済界のエリート階級の懐に入り込んで攻撃を仕掛けたように見える。明らかにドローンの一部はモスクワ南西郊外の高級エリア「ルブレフカ」を狙ったか、あるいは上空を飛行していた。ここは新興財閥(オリガルヒ)や政治家、政府高官が暮らす、ゲート付きの高級住宅地だ。またプーチン氏が大半の時間を過ごすことで知られる大統領公邸「ノボオガリョボ」からも目と鼻の先だ。

ロシア議会のアレクサンドル・ヒンシュテイン議員は30日、複数のドローンがルブレフカで撃ち落とされたと述べた。そのうち1機はノボオガリョボから約2.5マイル(約4キロメートル)離れたイリンスコエという村で撃ち落とされたという。CNNはドローンが上空を飛行するイリンスコエ村からの映像を解析し、位置情報を特定した。

ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官はオンラインで行われた記者会見で、プーチン大統領が30日のモスクワ攻撃の後クレムリン宮殿で、仕事にとりかかるやまっさきに「警察当局、非常事態省、モスクワ市長、モスクワ州知事から直接報告を受けた」と述べた。

「みな適切に対応した」「防空システムも問題なく作動した。明らかに今回の出来事は、(ウクライナの)意思決定機関の一つを我々が効果的に攻撃したことに対する、ウクライナ政府の報復だ」(ペスコフ報道官)

だがロシアの民間軍事会社ワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジン氏は、ルブレフカの攻撃が象徴する意味を見失っていない。

攻撃の後、ワグネル指導者は記者からの質問に答える形で、ひわいな間投詞をたっぷり交えてロシア国防省高官に批判を浴びせた。

「ドローンにモスクワを攻撃されるなんて、くそったれ」とプリゴジン氏。「ルブレスカのお前らの家にドローンが向かっているというのに、まったく! お前らの家など焼けてしまえ」

ドローン攻撃の後、現場の高層住宅街に到着した救急・消防車両

プリゴジン氏は決して機会を逃さない。ここ数カ月、意外にも政治的野心を表に出している傭兵(ようへい)組織のリーダーは、公の場でロシア軍上層部と辛辣(しんらつ)な丁々発止を繰り広げ、ロシア製ドローンやドローン防衛の近代化にロシア国防省は「全く手を打っていない」と非難した。

「多少なりとも理解のある人間として言わせてもらえば、こうした(ドローン)計画には何年も前に対処しておくべきだった――今となっては敵から数年も遅れをとっている。もしかすると数十年の開きがあるかもしれない」

今回もプリゴジン氏がロシアのセルゲイ・ショイグ国防相に怒りをぶちまける絶好のタイミングになるかは定かでない。遠隔操作されたドローンが厳重警備されているロシア上空にどうやって侵入したのか、どこから発射され、誰が攻撃命令を下したのか、疑問は残る。

ロシア国防省では、防空システムが作動してドローンはすべて破壊されたと主張している。3機は電子戦で制圧し、5機は地対空ミサイルが撃ち落としたという。ロシア国営タス通信からたびたび取り上げられているロシア人のドローン専門家デニス・フェドチノフ氏は、攻撃はロシアの防空システムを探るために行われたのではと推測している。

「おそらくモスクワ市内の防空システムに探りを入れ、弱点を洗い出すのが空襲の目的だろう」

だが発射された経緯はさておき、今回のドローン攻撃がロシア軍の顔に泥を塗ったのは間違いない。間近に控えたウクライナの反転攻勢の兆候が見られる中、果たして今回の攻撃はメディアも注目するさらに大規模な攻撃の前ぶれなのだろうか?

この記事はCNNのネーサン・ホッジ記者の分析記事です。

モスクワの高層ビル、ドローン攻撃を受ける

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