3年間クルーズ船で暮らすことを決めた米国人女性、その理由とは?

シャロン・レーンさんは今年、3年間にわたる世界一周の船旅に出発する/Courtesy Sharon E. Lane

2023.06.18 Sun posted at 17:30 JST

(CNN) シャロン・レーンさん(75)は、3年間におよぶ世界一周の船旅を提供するクルーズ会社の話を聞きつけると、すぐに船上での生活を空想し始めた。

ライフ・アット・シー・クルージズは、11月1日にトルコ・イスタンブールから出航し、主要な寄港地を巡る壮大な世界一周の船旅を提供するMVジェミニ号の客室販売を行っている。

高校教師を退職し、カリフォルニア州に住むレーンさんは、大の旅行好きだ。外国語を教えていたレーンさんはかつて、生徒たちを欧州旅行に連れて行くのが好きだった。1990年代には、南アフリカのケープタウンに2年間滞在し、冒険を楽しんだ。

最近になって、レーンさんはクルーズの虜(とりこ)になった。世界中を旅できるからという理由だけでなく、海上を漂う感覚がたまらないからだという。

「実は終日航海日のほうが好きなのです。船が海をひたすら航行している時や力強く進んでいる時、とにかくわくわくします」とレーンさんはCNN Travelに語っている。

クルーズ船上で生活することはレーンさんの長年の夢だったが、高額な費用がネックとなっていた。だがある金曜日の夜、「ズーム」通話をしていた友人から3年間の船旅の話を聞いたレーンさんは、通話を終えると、その日は残りの時間をすべて船旅のリサーチと予算計画に費やした。

MVジェミニ号の最も安い客室は、1人旅用の割引を含めて年間およそ3万ドル(約400万円)だった。この値段ならなんとかなると考えたレーンさんは、船旅に出ることを決めた。

「深夜までには十分なリサーチができたので、部屋を予約しました 」

現在レーンさんは、11月のMVジェミニ号出航に向けて大忙しだ。所持品のほとんどを売却し、賃貸契約も解消して、長い海上生活への準備を進めている。

「旅の準備は本当に大変」とレーンさんは言う。「根拠はないけれど、旅から戻ってきたら、自分の居場所はまたここで見つかるはず。あるいは、別の国に住むことになるかもしれない。分からないけど、可能性は無限大です」

新生活に向けた準備

レーンさんは、船内で最も安い客室の一つで、ライフ・アット・シー・クルージズが「バーチャル・インサイド」ルームと呼ぶ部屋を選択した。広さ約12平方メートルのこの部屋には窓がないが、船外からのライブ映像を放映するスクリーンが備えられているという。

「これがあれば、文字通り窓の外に見えるものが映し出されます。それで十分なのです、本当に」

レーンさんが3年間を過ごす予定のMVジェミニ号

自然光の入らない部屋で3年間生活することに抵抗はないと、レーンさんは主張する。客室を寝室と捉え、就寝以外の時間を客室内で過ごすつもりはないという。日中は船内を歩き回りながら海を眺めるなどしてリラックスした時間を過ごすほか、小旅行を楽しむ計画だ。

レーンさんは出航前に「所持品の95%」を売却予定だが、家族の写真を数枚持参し、客室を自分仕様にアレンジするつもりだ。今は成人した孫たちがまだ小さかった頃、レーンさんが彼らをホエールウォッチングに連れて行った時の写真がお気に入りだという。

「その写真をラミネート加工したものを、マグネットで客室のドアに貼るつもりですが、それには理由が二つあります」とレーンさん。「一つは、客室に戻るたびに孫たちの顏を見られるのは楽しいから。もう一つは、孫たちがほほ笑み返してくれるので、どのドアが自分の客室のものなのかが一目瞭然だからです」

クルーズに参加することは、娘や孫たちにはまだ伝えていない。「やめるよう説得されるのが嫌だから」という。レーンさんは、娘や孫たちが彼女の決断を応援してくれると信じている。それでも3年という歳月は長く、世界を一周している間、陸にいる大切な人たちとはほとんど会えなくなる可能性がある。

だがレーンさんは、遠く離れた家族や友人らとビデオ通話をすることや、船上で新たな人脈を築くことを楽しみにしている。一人でクルーズに参加する人も多いと聞いているため、交流も盛んになるはずだという。実際、クルーズ会社はすでに多くのゲストをアプリでつないでおり、「楽しい時間はすでに始まっている」とレーンさんは言う。

「お互いに助け合ったり、アイデアを出し合ったり、質問に答えたり、計画を立てたりして、私たちはすでにお互いのことを知っています。すでに楽しいのです」

レーンさん長い間、幸せな独身生活を送っているが、船内で誰かとロマンチックな関係になり得るという考えについては否定している。

「そんなことは起こりません。毛頭考えていないうえ、興味もない。私は友人を作りたいのです」

3年間のクルーズに参加することを決めたとき、レーンさんは自分が独身であることをありがたく思ったという。参加したいけれど、パートナーや配偶者が興味を示さないから実現できない、という人たちとレーンさんは話したことがあった。

「私にはそれがないのです。家にいようと思えばいられる。どこかに出かけようと思えば出かけられる。私を唯一阻むものは健康ですが、それさえコントロールできれば大丈夫です」

MVジェミニ号のプールデッキ。レーンさんは旅が待ちきれないと語る

レーンさんは肺に疾患があり、新型コロナウイルスやその他の呼吸器系ウイルスの影響を受けやすいという。パンデミック(世界的大流行)が起きてからは、休暇はおろか、自宅からもほとんど出なくなった。

だがレーンさんは、乗船に不安を感じるどころか、むしろ陸上よりも船上のほうが快適に過ごせるのではないかと考えている。クルーズ船のコロナ対策や船内の医療施設に信頼を寄せており、自分でも予防策を講じる計画だ。

「船内や他の人がいる場所ではN95マスク、サージカルマスク、ゴーグルを着用します」

またレーンさんは、南極など、冷たい空気が肺を悪化させる可能性のある場所では下船しない予定だ。だが、先祖の出身地とされるスコットランドやアイルランドなど、これまで一度も訪れたことのない場所への寄港を含め、今回の旅程には大きな期待を寄せている。

船上での生活

MVジェミニ号は、3年間の航海で計375の港に寄港し、そのうちオーバーナイトステイ(寄港地で1泊以上停泊すること)をする寄港地は208港。インド、中国、モルディブ、オーストラリアなど、あらゆる場所に停泊し、中には数泊するところもある。

レーンさんは、世界中を旅できることや、寄港地を満喫できる時間がたっぷりあることをうれしく思っているが、他の乗客よりも船上で過ごす時間は長くなると考えている。

「私にとっては海が重要なのです。海に浮かぶ船そのものが魅力なのです」

レーンさんは、自分の体験をブログに書くつもりだ。「毎日何かを書くのが目標」だという。ブログではペンネームを使用し、旅を堪能しながら、故郷にいる愛する人たちや会ったことのない人たちとも自身の冒険を分かち合いたいという。

またレーンさんは、自分のブログが、他の人たちにとってリスクを冒してでも快適な生活から抜け出せるきっかけになればと願っている。中年期に旅を先延ばしにして過ごした年月を、レーンさんは今でも後悔しているという。

「人生ですべてがうまくいっている時、お金がある時、予定が合う時、他の人たちが行きたがる時、私はそんな完璧な出発のタイミングをいつも待っていたのだと思います」

「家に閉じこもってはいけない」とレーンさんは訴える。「家は心が休まる所かもしれない、家ほどくつろげる場所はないかもしれない。家でくつろいだ後は、船に乗り、飛行機に乗り、車に乗り、どこかに出かけましょう」

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