ロシア産エネルギーを運ぶ「灰色の船団」、壊滅的な石油流出への懸念高まる

ロシア産石油の輸出に、所有者不詳の「灰色の船団」が関わっているという/Alberto Mier/CNN

2023.04.28 Fri posted at 08:45 JST

ロンドン(CNN) ギリシャ・ペロポネソス半島の南東側にあるラコニア湾。海は鮮やかな青緑の水をたたえ、海岸地帯はウミガメの重要な営巣地だ。

ただ、ここは自然が美しいだけの場所ではない。一帯はロシアのエネルギー輸出品を運ぶタンカーの重要拠点にもなっている。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州連合(EU)は海上輸送による石油輸入の大半を禁止した。通常であればEUに向かう原油製品や石油精製品がアジアに行き先を変える中、積み荷は長旅に備え、ここラコニア湾でより大型の船に積み替えられる。

調査会社S&Pグローバルによると、ロシア産原油の船から船への積み替えはこの数カ月で急増し、今年1~3月には過去最多の水準に達した。ギリシャ付近では今年3月、暖房や輸送機関に使われるロシア産軽油350万バレル以上が船舶間で積み替えられた。これはS&Pグローバル調べで前年同月比の7倍を超える。

こうした積み替えは、ロシアのプーチン大統領が1年2カ月近く前にウクライナ全面侵攻を命じて以降、世界の石油市場が一変したことを浮き彫りにしている。これまで最大の買い手だった欧州の穴を中国やインド、トルコが埋めるなか、航海の距離は伸び、以前に比べ多くの船が必要になっている。S&Pグローバルのデータからは、航海途中での積み替えが増えている状況がうかがえる。

データ企業クプラーのシニアアナリスト、マシュー・ライト氏は「地中海における船舶間の積み替えが急増した」と指摘。「ロシアの港から小さめの船が現れ、より大きな船に積み荷を移し替えた後、大きな方の船はアジアに向かう」と説明する。

こうした船の多くは「灰色の船団」と呼ばれる船舶の一部だ。ライト氏のような業界関係者は、過去1年の間にロシア産石油の輸送を始めた船を指して、この言葉を使っている。船の所有者についてはほとんど知られておらず、ペーパーカンパニーの可能性もある。

「灰色の船団」は必ずしも不正を行っているわけではない。しかし、ライト氏のような西側のウォッチャーは、所有者が伏せられていることが多い船の登場で石油市場の透明性が薄れ、規制当局による監視が難しくなっていると指摘する。

オーストラリアとカナダ、米国は国際海事機関(IMO)に最近提出した書類で、トランスポンダーを切り、「姿を消して」、公海上で石油を積み替える船が増えていると指摘した。位置情報を送信するトランスポンダーの切断は制裁逃れの手段になりうると、これらの国々は主張する。

IMOの法務・渉外ディレクター、フレッド・ケニー氏はCNNに対し、海上積み替えへの警戒感がここ1年で高まったとの見方を示した。このような状況では衝突が起きやすく、壊滅的な石油流出事故の確率が高まる。

ケニー氏によると、船の所有者がはっきりしない場合、石油の海上積み替えに関する厳格な規則を順守しているかどうかの確認も難しくなるという。

「きれいな海での安全な輸送を確保する規制体制が損なわれているとの懸念が高まっている」(ケニー氏)

ロシア産燃料油を船舶間で移し替える様子を捉えた衛星画像

怪しげな事業

国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシアの石油輸出量はウクライナ侵攻前の水準に回復したものの、輸出から得られる収益は依然として大きく落ち込んだ状況にある。主要7カ国(G7)はロシア産石油や石油製品の価格に上限を設定したほか、買い手の減少で値引き交渉力が増しているとの事情もある。

クプラーのデータによると、中国によるロシア産石油の輸入は今年1~3月、前年同期比で38%増大。インドの輸入量は10倍近い水準に激増した。

ロシア船石油の取引がより複雑になるにつれ、欧米の船荷主の多くは手を引いた。現在はそこに怪しげなプレーヤーが参入し、「灰色の船団」の形成を促している状況だ。

英国を拠点とする市場情報会社、ベッセルズバリューによると、今年のタンカーの取引のうち、新設企業や非公開の買い手への石油タンカーの売却は約33%を占める。非公開の買い手への売却が全体に占める割合は2022年は10%、21年は4%にとどまっていた。

船を追跡する

CNNは宇宙テクノロジー企業マクサーの人工衛星画像を用い、ラコニア湾に停泊する2隻の石油タンカーを精査。クプラーと協力して、積み替えの詳しい様子を調べた。

2隻のトランスポンダーのデータによると、小さい方のタンカーは2月下旬にロシアのサンクトペテルブルクに寄港し、燃料油の貨物を積み込んだ。CNNはその後、同船が西欧沿岸をぐるりと回って地中海に入る様子を追跡。ここまで来たところで、同船は黒海沿岸にあるロシアの港湾ノボロシスクの方向から来た大型船に貨物を移し替えた。クプラー氏はこの船を「灰色の船団」の一員だとみている。

大型タンカーはそこからさらに航海を続け、欧州とアジアを結ぶ主要航路であるスエズ海峡を進んだ。

こうした取引が頻繁になるにつれ、専門家の間ではリスクへの懸念が高まっている。

IMOのケニー氏によると、一つの船から別の船に石油を積み替えること自体は珍しくないが、所有者が不明確で追跡が難しい「灰色の船団」の場合、最善の慣行に従っていない可能性もあるという。

ケニー氏は「船から船への積み替えで発生しうる問題は無数にある。積み替えに関する複雑な業界ルールがあるのはこのためだ」と述べ、流出の可能性に言及した。

カナダや日本、英国は、船がトランスポンダーを切っていれば、偶発的な衝突のリスクが高まると指摘。トランスポンダーの切断はほぼ常に違法であり、クプラー氏は2022年以降、こうした例を複数記録している。

「トランスポンダーを切っている船を目撃したり、そうした報告を受けたりすれば、私たちにとって憂慮すべき事態になる」(ケニー氏)

ロシア産エネルギー、輸出の陰に「灰色の船団」

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