飛行機から列車への移行を模索する欧州、その現状は?

イタリアの高速列車「フレッチャロッサ」/Markus Mainka/Adobe Stock

2023.04.29 Sat posted at 20:30 JST

(CNN) 「フライトシェイム(飛び恥)」運動に触発され、旅行者たちは、ジェット機に代わる、より環境にやさしい移動手段を模索し始めているが、欧州では多くの人々が、欧州大陸の大規模な鉄道網が短距離の航空便に取って代わることを期待している。

実際、KLMオランダ航空などの航空会社が特定のルートで鉄道会社と協力関係を結び、さらにオーストリアやフランスなども、列車が利用可能な区間の国内線の運航を制限しようとしている。

このように欧州では航空輸送から鉄道輸送への移行が順調に進んでいるようにも見えるが、その実現は依然としてはるか遠い夢だ。それはなぜか。

象徴的な動き


フランスの措置で削減対象になるのはパリ・オルリ空港を出発する3路線のみだ/Chesnot/Getty Images

フランスは今年、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を減らすため、一部の短距離国内線の運航を禁じる新たな法律を策定すると約束した。欧州委員会も承認しているが、この措置の効果は限定的と見られている。

欧州連合(EU)は、この禁止令が適用されるには、問題の区間に代替の移動手段である高速鉄道が存在し、2都市間を2時間半未満で移動可能な場合に限られると主張している。

また、旅行者が目的地で少なくとも8時間滞在できるように早朝と夜間に十分な本数の列車があることも適用の条件となっている。

そのため、現時点ではパリ・オルリ空港とボルドー、ナント、リヨンを結ぶ3路線のみが削減の対象となる。

フランスの当初の計画では、上記3路線に加え、パリ・シャルル・ド・ゴール空港とボルドー、ナント、リヨン、レンヌを結ぶ4路線と、リヨンとマルセイユを結ぶ路線を加えた計5路線も廃止になるはずだったが、欧州委員会の裁定により、削減対象から除外された。

ドイツ鉄道とルフトハンザは鉄道と航空機を組み合わせた旅を提供している

この結果に対しては、気候問題に懸念を示しながら実際は何もしないのと同じ、との批判の声が上がっている。

「フランスの短距離飛行禁止措置は象徴的な動きではあるが、(温室効果ガスの)排出量の削減にはほとんど効果はない」と語るのは、より環境にやさしい輸送手段を推進する団体、欧州運輸・環境連盟(T&E)の航空担当ディレクター、ジョー・ダルデンヌ氏だ。

T&Eの試算では、禁止令により廃止となる3路線を航行する航空機の温室効果ガス排出量は、フランス本土から離陸する全ての航空機の排出量のわずか0.3%で、フランスの国内線(フランス本土の国内線のみ)に限っても全体の3%にすぎない。

フランス当局が廃止しようとしていた5路線の排出量を含めると、これらの数値はそれぞれ0.5%、5%となる。

それでも全体に占める割合はさほど大きくはない。しかし、現在、世界の総炭素排出量に占める航空業界全体の排出量の割合は約2.5%だが、航空機が排出する他のガスや水蒸気、飛行機雲を考慮すると、気候への影響はもっと大きいと推定される。

さらに航空業界は今、急成長しており、将来は温室効果ガスの排出量が最も多い産業の一つになる見込みだ。EUによると、欧州では2013年から19年にかけて航空業界の排出量が前年比で平均5%ずつ増加したという。

制限はさらに続く

欧州で超短距離路線に対し、強硬な姿勢を取るのはフランスが初めてではない。

20年にオーストリア政府は、同国を代表する航空会社オーストリア航空を救済したが、鉄道で3時間未満で移動可能な区間のフライトを全廃するという条件を課した。

実際に廃止されたのはウィーンとザルツブルクを結ぶ路線のみだったが、同路線の廃止にともない、同区間の列車が増便された。

オーストリア政府はまた、オーストリアの空港から出発する飛行距離が350キロ未満のすべてのフライトに30ユーロの税金を課した。

欧州の他の国々も短距離路線の削減を検討しているとされており、スペインも、列車で2時間半未満で移動可能な区間のフライトを50年までに廃止する計画の概要を示した。

欧州地域航空協会(ERA)など、多くの航空宇宙業界団体の依頼で22年に作成された報告書によると、飛行距離が500キロ未満の路線を航行するフライトをすべて別の公共交通機関に切り替えると、EU内の総炭素排出量を最大で5%削減できる可能性があるという。

欧州の鉄道路線はリヨン駅のような豪華な駅によって結ばれている

しかし、短距離路線を規制する一方で、長距離路線については特に大きな対策は取られていないとの指摘もある。

世界的に見て、炭素排出量が最も多いのは長距離フライトだ。学術誌「ジャーナル・オブ・トランスポート・ジオグラフィー」に最近掲載された学術論文によると、飛行距離が500キロ未満のフライトはEU内から出発する全フライトの27.9%を占めるが、燃料燃焼量は全体のわずか5.9%にすぎない。

それに対し、飛行距離4000キロ超の長距離フライトは、EU内から出発する全フライトのわずか6.2%にすぎないが、燃料燃焼量は全体の47%にも上る。

T&Eのダルデンヌ氏は、「各国政府は、航空業界で炭素排出量が最も多い長距離便を無視し続けており、価格設定も規制もされていない」とし、さらに「政府は、飛行禁止令を人々の注意を真の問題からそらすための手段として利用すべきではない」と付け加えた。

鉄道への移行を阻む障害

権利擁護団体「トレインズ・フォー・ヨーロッパ」の創設者、ジョン・ワース氏は、列車の高額な運賃と本数の少なさが、人々の航空から鉄道への移行を妨げており、特にパリからアムステルダム、フランクフルト、バルセロナに向かうルートなど、主要なルートでその傾向が強いと指摘する。

また、都市間を結ぶ鉄道と空港の接続性が向上すれば、短距離便の必要性は低下する。ワース氏は、列車が遅れて乗り継ぎができなかった旅行者を次の列車に振り替えられるよう、複数の鉄道を組み合わせたきっぷの提供が不可欠と指摘する。

これは、航空会社と鉄道事業者が連携しているドイツ、オーストリア、フランス、スイス、スペインなどで特に有効だ。

ただし、その実現にはクリアすべき課題が多い。例えば、上記のスキームが可能なのは国を代表する航空会社に限られる。欧州委員会は今年、この種のインターモーダル(複数の輸送機関を組み合わせた)旅行をより広範囲で促進することを目的とした「マルチモーダル・デジタル・モビリティー・サービス(MDMS)」と呼ばれる法案を採択する予定だ。

フランスに話を戻すと、列車の移動時間が短縮し、本数も増えれば、現在の飛行禁止措置が見直される時に、より多くの国内線が廃止になるかもしれない(禁止措置の有効期間は3年間)。

その一方で、環境にやさしい飛行技術の進歩により、いずれ地域航空に対する見方が変わる可能性がある。

現在進行中の電気飛行機、ハイブリッド飛行機、水素飛行機の開発プロジェクトの大半は、非常に短い距離を飛行する設計の小型機に特化しているため、航空業界で最初に脱炭素化が実現するのは短距離フライトである可能性が高い。

環境、社会、経済、政治、技術といったこの議論を形作るさまざまな要因が進化し続け、気候危機も続く中、航空が環境に与える影響に関する議論は今後数年間続くと見られる。

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