エルサレム(CNN) イスラエルのネタニヤフ首相は26日、同国で物議を醸している司法制度改革の停止を求めたギャラント国防相を解任した。政権内にも溝が生じた形で、イスラエル政治は混迷の度を深めている。
首相の事務所は「ネタニヤフ首相がギャラント国防相の職務を解くことを決定した」との1文の声明を発表した。司法改革案を巡っては、数週間にわたり市民の抗議活動が続いている。
ギャラント氏は、ネタニヤフ氏が訪英で国を離れていた25日夜の演説で、改革案を強行すれば国の安全を危険にさらす可能性があると述べ、改革案の停止を訴えた。一部の予備役の兵士は改革案への反対を理由に、軍務への就任を拒否する事態となっている。
27日未明には、さらに3人の閣僚が司法改革の立法を止めるべきだとの姿勢を示した。全員がギャラント氏と同様、与党リクードに所属する。
ゾハル文化スポーツ相はツイッターへの投稿で「家が火事の時は誰が正しいかを問うのではなく、まず水をかけて中にいる人を救う」と述べ、「首相が国内に生じた分断を回避するために立法化を停止するなら、我々は首相の立場を支持する必要がある」と続けた。
バルカット経済相は、ネタニヤフ氏が改革案を「止めて再考慮すべき」であり、同国は内戦の瀬戸際にあるとの考えを示した。「改革は必要であり、我々は進めていくが、それは内戦の対価を払って行うものではない」と述べた。
ギャラント氏の解任発表後の26日夜には市民数千人が通りに出て抗議。テルアビブでは群衆が主要な幹線道路を封鎖し、火を付ける様子も見られた。
ラピド前首相はギャラント氏解任を「新たな最悪の出来事」と述べ、「イスラエルの首相がイスラエル国家の安全保障に対する危険になっている」とツイートした。
ガンツ前国防相もイスラエルが安全保障の危機に直面しており、「ネタニヤフ氏が今夜、政治と自分自身を安全保障より上位に置いた」と指摘した。
米ニューヨークのイスラエル領事館のザミル総領事は、ギャラント氏の解任に抗議して辞任した。ザミル氏はツイッターで公表した辞表の中で、ネタニヤフ氏の動きを「危険な決定」と述べ、「この改革は我々の民主制度の根幹を損ない、我々の国の法の支配を脅かすものだと信じる」と記した。
イスラエルの複数の大学は27日からストライキに入ると発表。同国最大の労働組合と財界リーダーらは同日共同記者会見を予定している。
物議を醸す司法制度改革案
ネタニヤフ政権の司法制度改革案では、政府が裁判官の任命をコントロールし、議会は最高裁判所の決定を覆せるようになる。
政権は最高裁を視野が狭くエリート主義で、国民をもはや代表しているとは言えない機関だとみなしている。最高裁を抑制するために改革が必要だと主張する。
一方、改革案に反対する人々は、同案がイスラエルの民主主義の根幹を脅かすと批判している。
軍の予備役の抗議は政権にとって特に心配の種となっている。予備役は平時でも定期的に訓練や就役のために招集されている。
極右のベングビール国家安全保障相は、ギャラント氏の25日の演説後に同氏の解任をネタニヤフ氏に求めた。ベングビール氏はツイッターで、ギャラント氏について「抵抗を呼びかけ(国防軍を)交渉の道具に使う無政府主義者のゆすりと脅しに屈した」人物であり、「右派の有権者の投票で選ばれながら、実際には左派の政策課題を推進している」などと記した。
ネタニヤフ氏に対する圧力が高まる中、イスラエルの裁判所はネタニヤフ氏を法廷侮辱罪に問う申し立てを受け、同氏に1週間の応答の猶予を設定した。
この申し立ては市民団体の「クオリティー・ガバメント運動」が行った。検事総長がネタニヤフ氏に対し、同氏の司法改革への直接関与は違法で、利益相反に関する裁判所命令に違反するものだとの公開書簡を送ったことを受けた動きとなっている。
司法改革案は一部がすでに議会を通過している。具体的には、首相を職務不適格と宣言する権限を裁判所から奪う法案だ。
ネタニヤフ氏を批判する人々は、同氏が司法改革を進めるのは自身が被告となる汚職の裁判が理由だと主張する。同氏は汚職を否定している。
ネタニヤフ氏は23日の演説で「両サイド」の懸念に対応する姿勢を示したが、同時に改革案を進めるとの意思も表明。引き下がる様子はない。
リクードのダニー・ダノン議員はCNNに対し、党内で立法化を止めるのに十分な離反者が出るかは議員が集まる27日にならないとわからないと述べた。
議会の全120議席のうち連立与党は64議席を占める。リクードから5人の離反者が出れば半数の60人を切るが、議員の欠席などで法案通過に必要な票数は変わる。
司法制度改革に抗議 イスラエル