シリコンバレー銀を破綻に追い込んだ現代の取り付け騒ぎ、ツイッターがパニックあおる

米加州サンタクララにあるSVBの本拠の前に並ぶ顧客ら/Dai Sugano/MediaNews Group/The Mercury News/Getty Images

2023.03.15 Wed posted at 18:41 JST

ニューヨーク(CNN) 米銀行シリコンバレーバンク(SVB)を経営破綻(はたん)に追い込んだ預金者の取り付け騒ぎ。この経緯は昔と何も変わっていない。しかし今回はまさに同銀行が主な取引先とする業界を反映して、事態は大部分がオンラインで展開された。

SVBが規制当局に提出した書類によると、預金者は先週、1日で420億ドル(約5兆6000億円)をSVBから引き出し、これで同銀は10億ドルの現金不足に陥った。オンラインバンキングがこの驚異的な額の引き出しを加速させ、SNSでパニックに火が付いたことも一因となった。その発端は非公開のチャットグループだったと伝えられている。

米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、SVBが破綻する直前、複数の著名ベンチャー投資家が、主にツイッターを使い、一部は全て大文字の投稿を通じて事態に警鐘を鳴らした。一部の投資家はスタートアップ企業に対し、現金の預け先を再考するよう勧告。続いて創業者や経営者がSVBの憂慮すべき状況に関する投稿を、スラックのプライベートチャンネルで共有した。

一方、スタートアップ企業の経営者らは、競ってオンラインで資金を引き出した。あまりにアクセスが集中したため、オンラインシステムがダウンしたようだとの証言もある。この事態を後に米下院金融サービス委員会のパトリック・マクヘンリー委員長は、「ツイッターにあおられた初の銀行破綻」と表現した。

「現代のようなコミュニケーション手段が登場するずっと前から、こうしたうわさは瞬時に広まる傾向があった。それが起きる発端は、街を歩いていて銀行前に立つ人たちを見かけることだった」。イェール大学経営大学院のアンドルー・メトリック教授はそう解説する。「今の私たちにそれはない。だがツイッターがある」

取り付け騒ぎの様相は、大勢の預金者が銀行に詰めかけていた昔とは様変わりした(もっともSVBのビルの前には行列ができていたが)。今ではオンラインやモバイル端末経由で引き出しが可能になった。

SNSによるパニックの拡散に言及したマクヘンリー米下院金融サービス委員長

IT業界に詳しいアナリストのベン・トンプソン氏は13日、SVBの取り付け騒ぎの特徴として、(1)預金者が引き出しを実行できる容易さ、(2)SVBが危ないというニュースが拡散するスピード――を挙げ、「これほどの混乱をもたらしたのは、流通コストゼロのうわさと引き出しにあおられた、このスピードだった」と指摘した。

SVBはIT業界の企業が顧客の中心だったことから、特にこうした要因の影響を受けやすかった。しかもベンチャー支援を受ける企業が多く、預金残高は米連邦預金保険公社(FDIC)の補償の上限25万ドルを大幅に上回っていた可能性が大きい。

「FDICが25万ドルを保証してくれても、自分の8けたの額を取り戻すことはできるのか?」。同銀行の経営破綻を受け、あるスタートアップ企業の創業者はCNNにそう疑問をぶつけた。大手IT企業はさらに多額をSVBに預けていた。そのためオンラインで拡散したパニックの影響が一層広がったと思われる。

平静を呼びかけようとする動きもあった。ベンチャーキャピタル(VC)企業アップフロント・ベンチャーズのマーク・サスター氏は先週、「パニックを鎮めるために声を上げよう」とVC業界に呼びかけ、「集団ヒステリー」の発生に警鐘を鳴らした。

同氏は9日、ツイッターへの連続投稿で、「昔ながらの『取り付け騒ぎ』は制度全体を傷つける」「みんながこれを冗談にしている。冗談ではない。事態は深刻だ。どうかそのような扱いをしてほしい」と訴えている。

しかし事態は収まらなかった。翌日にはFDICが介入に乗り出してSVBを管理下に置き、それがツイッターで一層パニックをあおった。

投資家のジェイソン・カラカニス氏は12日、全て大文字の投稿で「今こそ絶対、恐怖に駆られるべき時だ」「それが正しい反応だ」とツイートした。

その数時間後、バイデン政権が介入し、利用者の預金は全額保護すると発表した。

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