「手で歩く」希少な魚の撮影に成功、個体数回復の取り組み進行中 豪

手のように見える胸ビレを使って動き回る「スポッテッド・ハンドフィッシュ」/Nicolas REMY

2023.02.21 Tue posted at 16:19 JST

(CNN) オーストラリア南部タスマニア島を流れるダーウェント川。水中を泳ぐのではなく、川底を「歩く」珍しい魚がいた。この魚「スポッテッド・ハンドフィッシュ」は、手のように見える胸ビレを使って動き回り、暗い水底に潜み、口の上の突起を揺らしておびき寄せた獲物に飛びかかる。

白っぽい体と茶色い斑点は川底の砂に溶け込んで見えにくく、写真撮影はさらに難しい。この種は深刻な絶滅の危機に瀕(ひん)しており、野生の個体数は3000匹に満たないと言われる。

それでもフランスの写真家ニコラ・レミーさんは、どうしても自分の目でこの魚を見てみたいと思い、2022年に拠点としていたシドニーからタスマニア州を訪問。水温11度というダーウェント川の冷たい水の中で撮影に臨んだ。

待つこと約1時間、最初のハンドフィッシュを発見。しかしカメラのフラッシュに驚いて逃げてしまい、とらえることができたのはぼやけた沈泥だけだった。テクニックを駆使しなければこの魚は撮影できないと悟ったレミーさんは、3日連続で合計9時間、川の中で過ごした。

足に着けたフィンで川底の砂を巻き上げない特殊な泳ぎ方を身に着けると、別の種類の照明器具を使って照準の狭いスポットライトを作り出し、ついにスポッテッド・ハンドフィッシュのクローズアップ写真を撮影。「両手」と頭の突起をはっきりととらえることに成功した。この写真は、水中写真コンテスト「オーシャンアート2022」のコールドウォーター部門で1位に選ばれた。

自分の写真が一助となって、ほとんど知られていないこの希少種が脚光を浴びてほしいとレミーさんは期待する。

さらに深刻な絶滅の危機に瀕している「レッド・ハンドフィッシュ」

スポッテッド・ハンドフィッシュや、さらに深刻な絶滅の危機に瀕している「レッド・ハンドフィッシュ」「ジーベルズ・ハンドフィッシュ」については、既に保全の取り組みが進められている。いずれもオーストラリア南東部に生息する種で、残された成体はレッド・ハンドフィッシュが100匹のみ。ジーベルズ・ハンドフィッシュは2007年以来、自然界での目撃情報が途絶えている。

この3種の再生を目指す国立ハンドフィッシュ・リカバリーチームの専門家によると、ハンドフィッシュは分散能力が低く、個体数が少なく、繁殖力も比較的低いために環境の変化の影響を受けやすく、生息地の減少や汚染、都市開発によって脅かされている。さらに、泳がずに歩く習性のため、海流に乗って環境が悪化した場所を離れるのが難しいという。

この3種の回復を目指し、個体数の観察、生息地の再生、侵襲種や繁殖しすぎたウニの駆除、水族館と連携した繁殖などの取り組みが進められている。ダーウェント川では産卵を促すための生息環境を人工的に作り出した結果、個体数の安定に向けた有望な結果が出ているという。

それでも事態は依然として差し迫った状況にあり、復活チームは長期的な資金を必要としている。オーストラリア政府が種の絶滅を防ぐ目的で打ち出した行動計画では、レッド・ハンドフィッシュが優先種に指定され、専門家はこれが助けになることを願うと話している。

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