(CNN) 崩壊すれば壊滅的な海面上昇をもたらすことから「終末の氷河」と呼ばれる南極のスウェイツ氷河について、予想外の形で急速に融解が進んでいることが、新たな研究から明らかになった。
スウェイツ氷河は米フロリダ州ほどの大きさで、南極西部に位置する。これを支えている地形の一つが海面に張り出した棚氷だ。棚氷はコルク栓のような役割を果たし、氷河を陸地に押しとどめるとともに、海面上昇に対する重要な防御も担っている。
しかし、海洋温暖化が進む中、極めて重要なこの棚氷は脆弱(ぜいじゃく)化が著しい。
科学誌ネイチャーに15日発表された2本の論文によると、大半の棚氷の下部では従来の想定よりも融解ペースが遅かったものの、深い割れ目や「階段状」の形状をした部分では、それをはるかに上回るスピードで融解が進んでいた。
気候変動が加速するにつれ、スウェイツ氷河は急速に変化している。
スウェイツ氷河は毎年数十億トンの氷を海に放出しており、年間の海面上昇の約4%を占める。特に、氷河と海底が接する地点では融解ペースが早い。氷河と海底の接触地点は1990年代後半以降に14キロ近く後退しており、比較的暖かい海水にさらされる氷の面積が一段と拡大している状況だ。
スウェイツ氷河が完全崩壊した場合、それだけで70センチを超える海面上昇につながる可能性がある。これは世界各地の沿岸地域を壊滅させるのに十分な規模だが、スウェイツ氷河は周囲の氷に対する天然のダムの役割も果たしており、もし崩壊すれば、最終的には世界の海面上昇は約3メートルに達する可能性があると科学者は推計する。
アクセスしにくい南極沿岸部の変化について理解を深めるため、「国際スウェイツ氷河共同研究」に参加する米英の研究チームは2019年後半、南極に向かった。
研究チームは熱水ドリルを使い、氷に深さ600メートル近い穴を掘削。そして5日間にわたり、様々な計器を穴に降ろして氷河の測定データを取得した。
こうした計器のひとつが「アイスフィン」と呼ばれる魚雷型ロボットで、以前はほぼ調査不可能だった部分にアクセスできるようになった。遠隔操作式のアイスフィンは画像撮影を行ったり、水温や塩分濃度、海流に関する情報を記録したりする役割を担った。
スウェイツ氷河上に設置された調査のための掘削拠点/Peter Davis/British Antarctic Survey/ITGC
論文の一つの筆頭著者を務めた米コーネル大のブリトニー・シュミット准教授はアイスフィンについて、「非常にダイナミックな場所まで泳いでいき、海底から氷河に至るあらゆる部分のデータを取得」できたと説明する。
英国南極観測局に所属する海洋学者で、もう一方の論文の筆頭著者を務めたピーター・デイビス氏はCNNに対し、調査結果から「非常に微妙で複雑な状況」が明らかになったとの見方を示した。
調査の結果、南極は後退してはいるものの、棚氷の平らな部分の下では予想よりも融解ペースが遅いことが判明。融解ペースは年平均2~5.4メートルと、従来のモデルの予想よりも少なかった。
しかし、水面下の氷河の地形は予想よりもはるかに複雑で、階段状の段々構造や裂け目が至る所にあり、大きな亀裂が棚氷を貫いていた。
こうした部分では融解速度が特に早いことが判明。暖かく塩分濃度の高い水が亀裂や裂け目を通じて入り込み、亀裂や裂け目を広げ、氷河の不安定さを助長していた。
様々な機器が搭載された「アイスフィン」の先端部/Britney Schmidt/Justin D. Lawrence/ITGC
「氷河は下からだけではなく、中からも融解している」(シュミット氏)
論文の著者らは、裂け目や段々構造の傾斜部の融解が「棚氷崩壊の主な引き金になる可能性がある」と指摘している。