ウクライナ軍、旧ソ連製戦車で戦線維持 西側からの増援控え

部隊の指揮官を務めるデイビッドさん。旧ソ連製の戦車を操り、前線で戦っている/Mathhias Somm/CNN

2023.02.02 Thu posted at 06:00 JST

ウクライナ・バフムート近郊(CNN) ウクライナ陸軍第28機械化旅団の戦車がバフムートの西に連なる丘に身を隠し、激化するロシアの攻撃から前線を維持すべく力を発揮している。

戦車は、1年近い戦闘であちこち損傷しているが、年代物にもかかわらず兵士たちから重宝されている。

戦場では「デイビッド」と呼ばれている指揮官は、自ら率いる部隊が前線を維持し、閑散とした産業都市コンスタンチノフカへのロシアの進軍を防ぐ上で重要な役割を担っていると考えている。

「ひたすら敵を相手に戦っている。そうしないと、向こうがさらに近づいてきて、家屋や家族がやられてしまう。人々が家で安心して暮らせるよう、我々はここで踏ん張っている。もしロシアがコンスタンチノフカに来たらどうなる。街は跡形もなく壊滅するだろう」(デイビッドさん)

第28旅団は戦闘に加わって久しい。国の半分を移動してここに派遣される以前は、南部でヘルソン解放に加わっていた。ウクライナの旅団の中でもとくに損耗率が低いのが部隊の誇りだ。

デイビッドさんが話をする間も戦車や大砲の砲弾はやまず、轟音(ごうおん)が宙を切り裂く。丘の反対側では榴弾(りゅうだん)砲が砲撃を行っている。標的は数キロメートル先、バフムートの南に布陣するロシアの民間軍事会社「ワグネル」だ。

だが、第28旅団は125ミリ口径の砲弾の使用を抑えている。「弾薬が問題だ。在庫が底をつき始めている」とデイビッドさん。「だが、我々が今抱えている問題はそれだけだ。予備部品の在庫は十分だし、部隊長は常に戦車の管理と修理に努めている」

前方に戦車の姿を見せるだけで、大半が軽装備のワグネルの戦闘員を追い払うことができる場合もある。

「こちらが近づいて砲撃すると、敵は2~3日大人しくなる。塹壕(ざんごう)で我々の兵士が狙われることもない。戦車や大砲が攻撃しないと、我々の歩兵が被害を受ける」(デイビッドさん)

CNNがバフムート南部と特定した最近の動画には、ウクライナ軍のドローン(無人航空機)が空からロシアの陣地を攻撃する中、ワグネルの陣地に向かって進む戦車2両の姿が映っていた。

だが、戦況は一進一退だ。ウクライナ軍東部方面部隊のセルヒイ・チェレバティ報道官は27日、「ロシアは甚大な損失もかえりみず、我々の防御をかいくぐろうとしている。以前は砲弾を大量に投下していたが、今は大量の兵士を送り込んでいる」と述べた。

「現在、ロシアの主力兵器は人員だ。バフムートではワグネルがそれにあたるが、ワグネルだけではない。ブフレダルでは、主な攻撃部隊は海兵隊と歩兵部隊、それに徴集兵だ」(チェレバティ報道官)

ドネツク州にあるブフレダルも、ここ数日激しい攻撃を受けている。

増援部隊を送り込むロシア

ウクライナの他の部隊と同様、第28旅団も自分たちがどこにいるか分かるような撮影には神経をとがらせている。位置情報が特定されるような撮影はしないようにと指示を受けてから数分後、上空に1機のドローンが飛んできた。

兵士は目を細めて空を見つめたが、やがて緊張を解いた。ロシアのドローンではなかった。実際のところ、デイビッドさんも言うように、「戦車兵にとって、ここは仕事がしやすい。戦車や車両も敵の大砲から狙われにくい。向こうには我々の車両の位置を特定するだけの兵力がない」

それでも、戦車は頻繁に持ち場を変える。「移動して、砲撃し、また持ち場に戻って来られる」

そうした優位性も、ロシア軍が榴弾(りゅうだん)砲や多連装ロケットシステムなどを追加投入すれば意味がなくなるかもしれない。ウクライナは今もなおドネツク地方の約40%を掌握しているが、守り抜く上ではこの数日から数週間が重要になるだろう。

問題は、ウクライナ軍が現在の陣地を維持できるかどうかだ。西側から到着する大量の戦車で軍備を増強するまでに、長くて2カ月かかるとみられている。

第28旅団がロシアから奪った「戦利品」の戦車を撮影していいかと尋ねると、兵士たちは笑いながら「エイブラムスと引き換えなら」と答えた。

先ごろ供与が決まった西側の主力戦車は、そうすぐには届かない。戦車での戦闘が重要になった今、西側の戦車があれば火力も生存率も上がるだろう。

英陸軍第1王立戦車連隊で指揮官を務めた経験を持つハミッシュ・デ・ブレトン・ゴードン氏によれば、英国が供与する戦車チャレンジャーはロシア所有の戦車をはるかにしのぐという。

「険しい土地を移動しながら、かつ夜間でも正確に砲撃できる。T72型の砲弾搭載数が30発なのに対し、チャレンジャーはそれ以上(50発以上)可能だ。防備もはるかに優れている。チャレンジャーL2はT72型から4~5発攻撃されてもおそらく持ちこたえられるだろうが、T72型は(チャレンジャーから)1発でも攻撃されれば破壊される」

西側が供与を決めたレオパルト2やエイブラムス、チャレンジャーは、さらなる火力をもたらしてくれるはずだ

西側の戦車があれば、ウクライナ軍は歩兵隊や砲兵隊の援護の下、諸兵科連合部隊として作戦を実行に移すことも可能になる。チャレンジャーは給油なしで、1日最長300マイル(約482キロメートル)の走行が可能だ。

戦争の流れを変えるためには、西側から400~600両の戦車が必要だとウクライナ当局者はCNNに語っている。

デ・ブレトン・ゴードン氏によれば、300両の戦車は1師団に相当する規模で、「ウクライナ軍は広範囲におよぶ壊滅的な攻撃を行って、停滞したロシア軍を一掃できるだろう。その上、ウクライナがすでに所有する(ロシア製の戦車)1000両前後も助けになる」という。

戦車に理想的な地形

ウクライナ南部および東部の大半は、西側の近代戦車と装甲戦闘車両を組み合わせて反撃を仕かけるには理想的な地形だ。

西側の戦車があれば、続々と投入されるワグネルの戦闘員の脅威にも対処できる。レオパルト2、エイブラムス、チャレンジャーはいずれも重機関銃を搭載しており、開けた場所で歩兵隊を制圧することが可能だ。

ウクライナでは弾薬が異様なペースで使用されていることを考えると、レオパルト2には別の利点もある。レオパルトで使用される120ミリ口径の砲弾は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の軍隊で広く使われている点だ。

NATO連合軍の最高司令官を務めるクリストファー・カボリ米陸軍大将は「結局のところ、理論上、戦車は火力と機動性、防護のバランスに尽きる」と述べた。西側の戦車はいずれの点でもロシア製の戦車を上回る。

ウクライナが旧ソ連時代の戦車を使用する利点のひとつは、なじみ深さだ。

「事を左右するのは戦車ではなく、兵士だ」と、デイビッドさんはT64型戦車にもたれながら言った。「経験豊富な兵士はどんな状況にも対応できる。数ある戦車の中でも、私はT72型、T80型、T90型がお気に入りだ。兵士はみなどんな持ち場もカバーできる。仮に私が負傷したら、修理工が指揮官を務めることもできる」

デイビッドさんによれば、戦車兵は自らT64を修理している。「戦闘中に銃が故障しても、十分に経験を積んでいるので修理できる」

そうした戦闘任務は、西側の戦車の大群が春に到着するのを待たずして、数週間のうちにも次々と増えそうだ。

ウクライナ戦車部隊、前線での様子は

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。