ウクライナ情勢、今後の戦闘で戦車が決め手となる理由

ドイツがウクライナへの供与を発表した主力戦車「レオパルト2」/Patrick Stollarz/AFP/Getty Images

2023.01.28 Sat posted at 15:45 JST

(CNN) ウクライナでの戦争に突入した1年前、一般的な通念では戦車はもはや時代遅れということになっていた。ドローン(無人機)や自動追尾機能のあるミサイルには太刀打ちできないというのがその理由だ。


デービッド・A・アンデルマン氏

この考えは明らかに間違っている。かなり明確になりつつあることだが、ウクライナのような戦場において、装甲車両による優越性は形勢を逆転させ得る。それも劇的に。

数週間にわたる緊迫した熟慮を経て、ドイツは25日、主力戦車「レオパルト2」をウクライナに供与すると発表した。米国もまた、自前の主力戦車「M1エイブラムス」を供与するとしている。他の欧州諸国も後に続く構えだ。

しかし西側は、これら最新世代の戦車の配備を急ぐ必要がある。この瞬間にも、時計の針は音を立てて進んでいく。

「今ロシアがやろうとしているのは部隊の再編だ」。アンドリー・ザゴロドニュク元ウクライナ国防相は、首都キーウ(キエフ)からの電話インタビューで筆者にそう語った。ドイツによる戦車の提供が表明されてすぐのことだ。

「彼らは時間を使い、改めて動員をかけようとしている」。こう付け加えた同氏は2019年から20年にかけて国防相を務め、現在は安全保障関連のシンクタンク、国防戦略センターの共同創設者に名を連ねる。

ザゴロドニュク氏はロシアについて、「より大きなグループを作ろうとするだろう。軍隊の規模を拡大して、再び挑んでくる。春季に新たな攻勢をかけるというのが我々の予想だ」と述べた。

言い換えれば、今がウクライナにとっての軍備増強のタイミングに他ならない。そしてザゴロドニュク氏と西側の国防専門家が考えるように、戦車こそがウクライナでの次なる戦闘にとって文句なしに最適の兵器となるだろう。

春季攻勢への危惧

世界はその光景を驚嘆しつつ眺めていた。相手の不幸を喜ぶ気持ちも多分に含みつつ。昨年2月、開戦から数日でキーウを落とすべく仕掛けたロシアによる電撃戦が、ものの見事に崩壊した際のことだ。

あの当時、約64キロにわたって続く装甲車両の列を捉えた衛星画像を見れば、ウクライナの首都に対する総力を挙げた攻撃が今にも始まるように思われた。ところがそれから後には、ほとんど動きが止まってしまった。

なぜか? 第一には単純にガソリンがなくなった。米国の複数の国防当局者によれば、重大な欠陥を抱えた供給システムのおかげで、燃料と食料の尽きた隊列は身動きが取れなくなった。

次に泥土の問題があった。ロシアの戦車は、冬から春にかけて雪解けのために起きる土壌のぬかるみにはまった。中には砲塔まで泥に沈んだ戦車もあった。

そうした戦車は戦うこともできず、ウクライナ軍に狙い撃ちにされた。侵攻の過程でロシア軍が失った戦車の数は1400両を超える。

あれから1年近くが経過した現在、ロシア軍は教訓を得たと思われる。「彼らにとって、冬の後半や春の初めに攻撃を開始するのは得策ではないだろう」「春の終わりまで待つはずだ。その時期なら土壌の水気は格段に抜けている」と、ザゴロドニュク氏は指摘する。

技術的な進歩

それでも、最適なタイプの戦車が持つ価値を考慮に入れないわけにはいかない。こうした戦車の投入には、戦争の潮目を変える意図がある。現時点で戦争は長い膠着(こうちゃく)状態に陥る恐れが出ている。

西側は現状を好機ととらえ、自国の最新鋭の主力戦車を実際の戦争という状況下でテストしたい考えだ。対する敵側は、長い間そうしたシナリオへの準備を全く整えていなかった。

筆者が初めてソ連の戦車の操縦手に出会ったのはモスクワで、1980年代に遡(さかのぼ)る。当時の北大西洋条約機構(NATO)は依然として、明らかにわずかなものだったとはいえ、ソ連の侵攻の可能性に備えていた。想定されたのはソ連軍の装甲車両が大挙してフルダ・ギャップ(ドイツ中央部の地形)を抜け、西欧に向かって押し寄せるパターンだ。

この操縦手は、そうした予測を一笑に付した。彼によると、ソ連の戦車操縦手には大型のハンマーが支給される。頻発するギアの不具合が起きた際には、それでトランスミッションをたたいて対処するのだという。

また戦車内には冷暖房がないため、搭乗員は冬の寒さに凍え、夏は暑さに息が詰まる状態を余儀なくされる。とりわけ砲塔を閉じる時にはそうだった。

開戦当初、衛星画像が捉えたウクライナ首都近郊で停止するロシア軍の車列

数十年が経ち、こうした問題の一部は解決したものの、ウクライナでのロシア軍の戦車が脆弱(ぜいじゃく)な存在であることに変わりはなかった。中でも「ビックリ箱」に例えられる設計上の欠陥は深刻だ。

ロシア軍の戦車のほとんどは、大砲の弾薬を操縦手や砲手のすぐ隣に搭載している。その数最大40発。戦車は前部こそ頑丈な装甲で覆われているが、側面や砲塔はそれほどでもない。

従って米国製の「ジャベリン」や、英国とスウェーデンが合同開発した「NLAW」といった対戦車ミサイルが標的とするエンジンを直撃すると、最も装甲の薄い部分に影響が及ぶ可能性がある。その場合、搭載する弾薬全てが爆発し、搭乗員は焼け死ぬことになる。

これに対し、米国のM1エイブラムスやドイツのレオパルト2など西側の戦車は、搭乗員を弾薬から厳重に隔離。双方の間には爆発にも耐えられる壁が設置されている。

ロシア軍の保有する新型戦車「T14アルマータ」は、あらゆる点でM1エイブラムスとレオパルト2に匹敵するが、わずかな数しか製造していないという問題がある。昨年のメーデーに赤の広場で行われたパレードには、3両しか登場しなかった。それより前には、2015年のパレードに向けたリハーサルで走行した数両が、途中でエンストを起こしている。

最近の情報報告によると、同戦車の開発と配備は、コストの上昇など複雑な問題が絡んで停止しているとみられる。

ソ連時代の戦車

従って、仮にウクライナでの戦争が戦車戦に変わるとしても、またそれがエイブラムス、レオパルト対最新のロシア戦車の戦いだとしても、実際には全く勝負にならない可能性がある。西側の戦車の到着が間に合えばなおさらだ。

しかしこうした強みがない状況であれば、問題はウクライナ軍が現在保有するソ連時代の戦車の改良型ということになるだろう。これらの戦車が同種の、おそらく数で圧倒的に上回るロシアの戦車とどう戦うのかが重要だ。

「それらをいかに活用するか、どういった種類の作戦を構想するか、どれだけ効果的に戦えるかといったことにかかってくる」「昨年明らかになったように、ウクライナの方が効果的に戦える。つまり装備で劣っても、より大きな成果が出せる」(ザゴロドニュク氏)

とはいえ、少ない装備でやりくりするという点では、ロシアも同じかもしれない。 兵器の配備と損失を追跡するオランダの軍事情報サイト「Oryx」のブログによると、ロシアはここまで、戦前に3000両だった戦車の在庫の少なくとも4分の1を失っている。第4親衛戦車師団のように精鋭の機甲部隊でありながら、損失の割合がより大きいケースもみられる。

ウクライナの当局者は、最新の戦車300両があれば自軍の装備を補完しつつ、ロシアに対しても数の上で全く同等の立場に持ち込めるとみている。ザゴロドニュク氏が国防省の推計を引用して筆者に説明した。

ただ今のところ、その数字に遠く及ばない数ですら、西側各国が供与を約束する公算は小さいようだ。これまで米国がM1エイブラムスを31両、ドイツがレオパルト2を14両、英国が「チャレンジャー2」を14両供与すると約束。このほかポーランド、ポルトガル、ノルウェー、スペイン、フィンランド、オランダも供与を約束している。

フランスが引き渡しを予定しているのは軽戦車「AMX―10RC」のみで主力戦車「ルクレール」は対象ではないが、マクロン大統領はルクレール供与の選択肢を排除していない。

しかし車長や砲手、操縦手、技術兵、整備士を訓練するには最低でも3カ月を要する。それだけ複雑な戦車を相手にするのであり、時間が極めて重要になる。

今後4カ月もしないうちに春の雪解けは終わり、地面は乾き始める。間違いを犯す、もしくは躊躇(ちゅうちょ)するような余裕はほぼないと言っていい。

デービッド・A・アンデルマン氏はCNNへの寄稿者で、優れたジャーナリストを表彰する「デッドライン・クラブ・アワード」を2度受賞した。外交戦略を扱った書籍「A Red Line in the Sand」の著者で、ニューヨーク・タイムズとCBSニュースの特派員として欧州とアジアで活動した経歴を持つ。記事の内容は同氏個人の見解です。

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