(CNN) アラブ首長国連邦(UAE)ドバイを拠点に活動するフィリピン人アーティスト、ナサニエル・アラピデさん(45)のキャンバスは、陽光あふれる広大な砂浜と砂漠だ。昨年は「世界最大の砂絵」のギネス記録も達成した。
道具は簡単な庭用の熊手だけ。筆のように角度を変えながら使いこなす。
毎朝、天気や風向き、潮流を確認してから、砂浜や砂漠に巨大で複雑な作品を描く。だがそれは、まもなく風や波に消されてしまう。
作品の大きさは平均で約20メートル四方。メッセージを入れる場合は長さが100メートルを超えたりする。
1時間で完成する作品もあれば、毎日何時間も費やして仕上げる作品もある。
きっかけは2014年、波をモチーフにしたジュメイラビーチホテルの裏手の砂浜に、亡き祖母にささげようと描いた樹木の絵だった。その大きさに感動したホテルから、アーティストとして働かないかと声がかかった。これはアラピデさんにとって、フルタイムの初仕事になった。
アラピデさんはその後、UAEで約1900件の作品を制作してきた。バーバリー、アディダスのような有名ブランドや、米専門チャンネル「ナショナルジオグラフィック」によるドキュメンタリー・シリーズの仕事を依頼されたこともある。
UAE政府の仕事では、新型コロナウイルス感染対策のスローガン「#ステイホーム」を巨大な文字で書いた。
昨年アブダビ航空クラブに依頼され、30日間かけてUAEの歴代首長を描いた2万3000平方メートルの力作は、世界一大きな砂絵としてギネス認定された。
UAE各地の砂漠から4色、計1万2000トンの砂を運び込んでの作業だった。
20日目にほぼ70%が完成したところで雨と強風に見舞われ、ほとんどが消えてしまうという経験もした。
アラピデさんは「そこが面白いところだ」と話す。刹那(せつな)的ではかなく、朝描いても夜までには波に消される。「私にとっては朝の祈りに似た儀式のよう」だという。万物が絶え間なく移り変わっているということを思い知らされる。ドバイのような街は、特に変化が激しい。
アラピデさんによると、人々はこうした作品の中に「美しさ」と「喪失」を同時に見出す。
アラピデさんは、人々が作品と影響を及ぼし合う場面を見るのが好きだ。子どもたちは大人よりも作品に気づきやすいことが分かった。
「大人は忙しい日々に追われて見えなくなってしまうのに対し、子どものほうが自分の環境をよく把握しているのだろう」と、アラピデさんは話している。