英政府、抗議デモ対応で警察の権限強化へ 民主主義からかけ離れた動きと人権活動家ら

ロンドン西部の道路をふさいで横断幕を掲げる環境保護団体のメンバー/Adrian Dennis/AFP/Getty Images

2023.01.18 Wed posted at 18:50 JST

ロンドン(CNN) 英国政府が、警察に新たな権限を与えようとしている。平和的手段で政治的な抗議活動を行う人々に対し、より強力な措置を可能にするのが目的だ。

人権活動家らから言論の自由を抑圧する試みだと非難する声が上がる一方、野党政治家らは問題が山積する国内状況から目を背けさせたいだけだと、政府への批判を展開している。

政府は15日夜の声明の中で、現在議会で可決されようとしている公共秩序法案の修正に言及。同法案を巡っては、抗議活動を抑え込む度合いの観点からすでに大きな議論が巻き起こっている。

法案が具体的に標的としているのは、人種差別への抗議運動「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命も大切だ))」や環境保護団体「エクスティンクション・レベリオン」、「ジャスト・ストップ・オイル」といった団体だ。いずれも政府への抗議に当たり、破壊的な手法をとることで知られる。

法案では、長く行われてきた抗議の手法であるロックオン(抗議者が鎖や手錠で自分の体を建物などに固定すること)やトンネルを掘ることなどが違法となり、定期的に抗議を行う人に対しては電子タグを身に着けさせることができるようになる。新たな修正では警察に権限を与え、何らかの破壊行為が起きる前から抗議活動を中断させるのを可能にする。

スナク首相は「少人数による抗議活動で、一般市民の生活を破壊させるわけにはいかない。そういったことは受け入れられないし、終わりにしなくてはならない」と述べた。

ロンドン警視庁トップのマーク・ローリー氏も声明を出し、警察からは政府に対して抗議活動を抑え込む権限の強化を求めたわけではないと明言した。

破壊行為の被害に遭うロンドン・パーラメントスクエアのチャーチル像=2020年6月

政府の動きに批判的な人々は警察官の権限について、現行のままでも手に負えないもしくは破壊的な抗議活動には対処できると指摘する。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の英国担当責任者を務めるヤスミン・アフメド氏はCNNの取材に答え、警察が抗議活動を適切に処理できる権限があるのは極めて明白であり、それは数十年変わっていないと主張。「抗議する権利は基本的なもので、生活費の高騰や気候変動の危機にさらされている現状では特にそうだ。公衆衛生サービスも崩壊の瀬戸際にある」とした上で、政府は貧困ライン以下の人々を救うのではなく、余計な時間を使って反対意見を唱える人たちを押しつぶしていると批判した。

このほか第一線で人権問題に取り組む弁護士のアダム・ワグナー氏は、当該の法案によって政府は人権法違反の罪で訴えられる可能性があるとの認識を示した。

野党・労働党で影の閣僚を務めるサラ・ジョーンズ氏は声明で、警察が危険かつ破壊的な抗議活動に対処する権限を行使するのは党として支持するとしつつ、「女性や少女に対する暴力が蔓延(まんえん)していることや、政府が犯罪の訴追で満足な成果を挙げていないことについては十分に言及していない」と批判した。

前出のHRWのアフメド氏は、抗議活動を止める権限が政府にあるとする議論について、専制国家で語られている理屈と同じだと懸念を示す。

「もし人々が抗議や既成のものを破壊する権利を持っていなかったなら、我々は今日のような民主主義の中で暮らしてはいないだろう」(アフメド氏)

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