ロシアがソレダル掌握に躍起になる理由

ソレダルでの戦闘中に立ち上る煙を見つめるウクライナ軍兵士=11日/Libkos/AP

2023.01.14 Sat posted at 21:30 JST

(CNN) ウクライナ東部にある塩鉱山の町ソレダル。ロシアは13日、軍による町の制圧を発表したものの、ウクライナ政府はこの主張を否定した。

ロシア軍が実際にソレダルを奪取した場合、ドンバス地方における数カ月ぶりの戦果となる。戦場で屈辱的な後退が続く中、プーチン氏にとって幾分前向きなニュースとなる可能性がある。

軍事的にはソレダルの重要性は乏しく、おおむね象徴的なものにとどまる。ただ、制圧が確認されれば、ロシア軍や傭兵(ようへい)会社「ワグネル」は昨年夏以降に目標としてきた近郊のバフムートに注力することが可能になる。

ワグネルを率いる新興財閥(オリガルヒ)のエフゲニー・プリゴジン氏にとっても、ソレダル制圧は広報戦略上の勝利となりそうだ。プリゴジン氏はロシア国防省による「特別軍事作戦」の進め方を批判する場面がしばしば見られる。

以下、ソレダルについて知っておく必要がある情報をまとめた。

ソレダルで何が起きているのか?

戦場の勝敗が往々にしてそうであるように、ロシアによるソレダル進攻の成否についても情報が錯綜(さくそう)している。

ロシア国防省は、ソレダル制圧は「絶え間ない敵の破壊によって可能になった」と主張。「(ロシア軍部隊は)ウクライナ軍の陣地への集中攻撃を続け、予備兵の移動や弾薬の補給、他の防衛線に撤退しようとする敵の試みを禁じた」と述べた。

ワグネルは自社単独で作戦を実施したと主張しているが、ロシア国防省はこれには触れなかった。

一方、ウクライナ軍東部方面部隊のセルヒイ・チェレバティ報道官はCNNに対し「ロシア軍はソレダルを掌握していない」との認識を示した。

バフムート近郊に駐留するウクライナ兵もCNNに対し、ソレダルの「西郊」にまだウクライナ軍が残っていると語った。

ウクライナ特殊部隊のタラス・ベレゾベツ大尉は、ソレダルは「完全破壊」されたため、町内にとどまるのは軍事的意味がないと説明。数日以内に撤退の決定が下されるとの見方を示したものの、決定するのは参謀本部だと述べた。前線の部隊の士気は高いとも言い添えた。

ベレゾベツ氏によると、他の部隊の同僚はできるだけ長く踏みとどまり、可能な限り多くのワグネル戦闘員を殺害するのが任務だと考えている。過去2週間の戦闘の大半は、4~8人の戦闘員で構成される小部隊の間での市街戦だったという。

ベレゾベツ氏は、ウクライナ軍が引き続きロシア軍に甚大な損害を与えているとも明らかにした。拘束されたワグネルの戦闘員は尋問に対し、小隊35人うち生存者は3人のみだと語ったという。

ソレダルにウクライナ兵が閉じ込められているとの情報はなく、各部隊は鉄道駅に近い西郊への撤退に成功したとしている。

ソレダル郊外のCNN取材班は、ロシアが制圧を主張した後、13日午後の時点でも迫撃砲やロケット砲の発射が続いていると報じた。

ソレダルの位置は?、町に何があるのか?

ソレダルはウクライナ東部に広がるドンバス地方の中心部にある。ロシアは昨年夏以降、ドンバスの奪取を最優先してきた。ドネツク州全域の併合を(違法に)主張してからは同地域をロシア領とみなしている。

ソレダルはより大規模な街バフムートの北東わずか数キロに位置する。バフムートはおそらく、ウクライナ国内1300キロにわたって伸びる前線の中で最も攻防がし烈な部分で、今回の戦争でも有数の激しい戦闘の舞台となっている。

このため、ソレダルは昨年5月からロシア軍の制圧目標に据えられてきた。ソレダルの戦前の人口は1万人ほどで、町自体の戦略的価値は乏しいものの、消耗しながらじりじり西進するロシアの中継点となっている。ここ数カ月のロシアは東からバフムートを攻撃しようと苦慮してきたが、ソレダルを奪取すれば、少なくとも別の経路からバフムートに近づけるようにはなる。

ロシア国防省は13日、町の制圧は「ドネツク州での攻勢作戦の継続に重要だ」と説明。「ソレダルを支配することで、バフムートのウクライナ軍への補給を断つことが可能になる」と指摘した。

ソレダルの周辺には大規模な塩鉱山がある。この鉱山は欧州最大の塩の生産者である国営企業アルテムシルが所有するが、アルテムシルは昨年2月の侵攻直後から生産を停止している。

ロシアやワグネルを率いるプリゴジン氏の狙いについて、一部ではソレダルの豊富な石こうが目当てだとの見方もある。プリゴジン氏はアフリカやシリアでワグネルを傭兵として使い、ダイヤモンドや石油を含む資源へのアクセスを確保しようとしてきた。

ただ、ソレダルの塩鉱山の開発には多額の投資や、今よりも静かな環境が必要となる。プリゴジン氏は、採掘で張り巡らされた坑道を防御手段や地下拠点として利用できるとしている。

激戦地ソレダルで砲撃後に煙が上がる様子=8日

ソレダルの重要性は?

ロシア軍は7月初めから戦果がなく、北部ハルキウと南部ヘルソンでは撤退を余儀なくされた。

現在は荒廃した状態にあるとはいえ、ソレダルを奪取すれば数少ない成果となる。ただ、実質的な成果というよりも、象徴的な意味合いにとどまりそうだ。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は、ソレダルを制圧しても「ロシア軍がバフムートにつながるウクライナの重要な地上連絡線を支配できるとは限らない」との見方を示す。

「ロシアの最も大げさな主張を額面通り受け止めた場合でさえ、ソレダル制圧がバフムートの即時包囲につながるわけではない」(戦争研究所)

ただ、ソレダルはプリゴジン氏個人にとっては非常に重要な意味を持つ。ワグネルの戦闘員には多数の元受刑者が名を連ね、第1次世界大戦を思わせる塹壕(ざんごう)や泥だらけの戦場で相次ぐ地上攻撃を行っては、多数の死傷者を出している。ここ数カ月のロシア国防省が撤退しかできなかったのに対し、プリゴジン氏は自分たちなら戦果を挙げられることを示そうと躍起だ。

プリゴジン氏は10日遅く、ワグネルの部隊がソレダル全域を掌握したと主張。市中心部で激しい市街戦が起きているとしたうえで、「ワグネル以外の部隊はソレダルへの攻撃に関わっていないと強調したい」と付け加えた。

ソレダル攻防には伏線として、プリゴジン氏とロシア国防省との間の影響力やリソースを巡る争いも絡んでいる。プリゴジン氏は引き続き「腐敗した無能な軍の階層制」を愚弄(ぐろう)する姿勢を取っており、対立は激しさを増している。

ウクライナのソレダル防衛方法は?

ウクライナは敵に甚大な損失を与えることが可能とみて、歩兵の攻撃を次々に誘い込む戦術を取っている可能性がある。ブフレダールでは昨年後半、この戦術が効を奏した。その後、ウクライナ軍の司令部は機を見てバフムートへの撤退を決めるだろう。

ウクライナ軍第46旅団は10日、ネット上への投稿でこの戦術に言及。「戦況は非常に困難だが、対応可能だ。我々は維持が得策ではないと判断した場所だけを放棄する」と述べた。昨年夏のルハンスク州で最後まで抗戦したリシチャンスクの場合と同様、死傷者が増えて補給がほぼ不可能になれば、ソレダル死守を試みるのは得策ではなくなる。

ウクライナのドネツク州支配地域の各地で縦深防御を敷いており、ロシアはわずかな前進のためにも大量の武器弾薬を消費せざるを得ない状況だ。

CNN記者が見たソレダルの激戦

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