ゼレンスキー氏の歴史的な米首都訪問、5つのポイント

共同会見を行うゼレンスキー氏(左)とバイデン氏/Alex Wong/Getty Images

2022.12.22 Thu posted at 20:35 JST

(CNN) 自らの国がロシアに侵攻されてから300日、ウクライナのゼレンスキー大統領は米首都ワシントンへ飛び、次の300日の行方を占う会談に臨んだ。

ゼレンスキー氏の歴史的な訪米は、象徴的な意味合いに満ちていた。本人はくすんだグリーンのスウェットシャツを着用。迎えるバイデン大統領のネクタイは青と黄のストライプというデザインだった。下院の議場でウクライナの戦旗が広げられる一幕もあった。

しかし今回の訪米の意義は象徴的意味合いを大きく超えるものだった。ゼレンスキー氏が危険なウクライナ国外への渡航に踏み切ったのは戦争開始以降初めて。バイデン氏がゼレンスキー氏をワシントンに招待したのは、電話ではなく対面での会談でこそ実質的な成果が得られるという確信があったからだ。

会談を終えた両者は、戦争が新たな段階に突入したとの認識を明確にした。ロシアが前線に送る部隊を増強し、容赦のない空爆を民間の標的に対して行う中、戦局が膠着(こうちゃく)状態に陥るとの恐れが高まっている。

ゼレンスキー氏はワシントンを後にし、長く危険なウクライナへの帰路についたものの、紛争の終結に向けた道筋がいくらかでも明らかになったのかどうかは判然としなかった。

戦争終結の方途を探ろうとするバイデン氏とゼレンスキー氏

戦争の終結を巡るゼレンスキー氏の立ち位置を明確にすることは、同氏をホワイトハウスに招く利点の一つだった。同氏は以前、「公正な和平」によって紛争が終結するのを強く望むと表明。米当局者らは、21日の会談でもこの点が議論の中心になるとの見方を示していた。

しかし同日、ゼレンスキー氏は好戦的な言い回しを用いてそのような和平には近づいていないとの認識を示唆。戦争終結への道はロシアへの譲歩に関連するものとはならないと述べた。

「大統領としての自分にとって、『公正な和平』とは譲歩ではない」とゼレンスキー氏は強調し、ウクライナが領土と主権の明け渡しをのむ形では和平へのいかなる道筋も見いだせないとの考えを示した。

この後、連邦議会での演説でゼレンスキー氏は10項目からなる和平案をバイデン氏に提示したと発表。ただ複数の米当局者らによれば、その内容は先月の主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で提案したものと同じだったという。

ゼレンスキー氏の支援に集結した西側諸国の間では、同氏の長期的な計画がどのようなものになるのかについての懸念が依然として消えていない。

バイデン氏は、どのような形での戦争終結を望むのかはゼレンスキー氏が決めることだと指摘。以前からある見方だが、それにまつわる多くの疑問には答えが出ていない。

聴衆への見せ方を心得たゼレンスキー氏

ゼレンスキー氏は、国会議員に向けた演説の中で米国の歴史への言及をちりばめた。具体的には勝敗に重大な結果を及ぼした独立戦争中のサラトガの戦いや、第2次世界大戦でのバルジの戦いを挙げた。

演説は英語で行い、服装も今や見慣れた陸軍の緑色のシャツに作業ズボン、ブーツを選択。聴衆に対し、自身が戦時のリーダーであることを想起させる狙いがあったと思われる。

ゼレンスキー氏(左)とバイデン氏

米国人の心情をウクライナの苦難につなぎ留めるため、ゼレンスキー氏は同国がもうすぐ電気のないクリスマスを迎えようとしているとの話を持ち出した。ロシアは軍事行動を通じて、ウクライナ国内の電力供給の遮断を図っている。

またゼレンスキー氏は、一部の共和党議員を含む多くの米国人がウクライナへの巨額の支援に疑問の声を上げているのを念頭に置き、支援がウクライナ1国にとってのみ重要なわけではないと強調。「今回の戦いによって、我々の子や孫がどのような世界に生きるのかが決まる」と訴えた。

その上で、「あなた方の資金は慈善事業ではなく、世界の安全保障と民主主義への投資だ。それらについて我々は、最も責任あるやり方で対処する」と、付け加えた。

以前からの提案をようやく受け入れたゼレンスキー氏、武器も獲得

ロシアがウクライナで戦争を開始した当初、ゼレンスキー氏は首都キーウ(キエフ)から自身を脱出させようとする米国の提案を拒否。「欲しいのは武器であって乗り物ではない」と返答していた。

10カ月後、同氏はそれらの両方を手にした。今回の訪米実現に当たっては、米国とウクライナの当局者らが10日がかりで危険な戦時の移動を調整。目的はロシアの侵攻に抵抗するウクライナへの支援を結集させることにあった。

ゼレンスキー氏の到着直前、バイデン政権はウクライナに対する20億ドル近い追加の安全保障支援を発表。この中にはゼレンスキー氏が数カ月にわたり要請していた高性能の地対空ミサイル「パトリオット」も含まれる。

訪米を検討するに当たり、ゼレンスキー氏は顧問らに対し、米国との二国間関係に著しい進展が見込めないのであればワシントン行きを望まない考えを示していたという。事情に詳しい情報筋が明らかにした。同氏は米国によるパトリオット供与の決定を、両国関係の大きな転換ととらえた。

それでもバイデン氏と並んで立ったゼレンスキー氏は、率直に当該のパトリオットミサイルシステム1基では不十分だとの考えを表明。「もっとパトリオットが欲しい」「申し訳ないが、我が国は戦争中なので」。ゼレンスキー氏がそう言うと、バイデン氏は笑った。

複雑な関係の中での共同戦線

議会での演説で、ゼレンスキー氏は改めて米国の支援が十分だとは思わないと改めて訴えた。同氏が率直により多くのパトリオットを要求し、バイデン氏がそれに対し気楽な反応を示したやり取りからは、世界で最も複雑な部類に入る両国の関係が垣間見える。

ゼレンスキー氏(左)とロシアのプーチン大統領

表向き、バイデン氏とゼレンスキー氏は盤石な連携を維持しているものの、水面下で緊張が走っているのは容易に察知できる。バイデン氏がウクライナ向けに実施した軍事支援は数十億ドルに上るが、それでもゼレンスキー氏は常に追加支援を求めてくる。

こうした状況にバイデン氏とそのチームは必ずしも納得していない。ただ他国の多くの首脳との場合と同様、直接対面することで相手への理解を深めようというのがこの日のバイデン氏の意図だったようだ。

戦争の「新たな段階」を象徴

バイデン氏が今週ゼレンスキー氏をワシントンに招待したのは、ウクライナでの戦争が「新たな段階」に突入したと確信しているからだ。訪米前に複数の当局者が明らかにした。冬季に入り、ロシアが民間インフラへの攻撃を続ける中、ゼレンスキー氏が一般向けに劇的なアピールを行って国際社会の支援を訴える機は熟したように思われた。

しかし、新たな段階に入ったのは戦場だけではない。世界中の指導者たちは現在、ロシアの侵攻がもたらした厳しい影響に直面している。エネルギーと食料の価格高騰はロシア政府に対する過酷な経済制裁が一因だが、欧米の政治家にとっての悩みの種であり続けている。

米下院で多数派となる構えの共和党は、ウクライナ支援に関するバイデン氏の要求を簡単には承認しない姿勢を明確にした。ただ資金の拠出が完全に途絶えるわけではないようで、議会は間もなく総額約500億ドル規模の追加の安全保障・経済支援を承認する見通しだ。

議員への演説で、ゼレンスキー氏はしきりに「両党の」議員に言及。自身の語る大義を超党派のものと位置付けようとしていた。

それでも一部の共和党議員はゼレンスキー氏の演説への出席を拒否し、巨額の資金が際限なく流出するとの主張から現状への抗議の意思を表明した。

こうした状況が背景にありながらも、バイデン氏は米国の支援が今後数カ月にわたって続くと明言した。ウクライナでの戦闘や、2023年も団結を維持する必要性についてゼレンスキー氏の口から直接聞くことは重要だとの認識も示した。

バイデン氏とゼレンスキー氏、会談後に共同会見

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