少子化対策に巨額を投じる韓国政府、それでも子育て支援にはまだ足りず

赤ちゃんの姿がほとんどない韓国・ソウルの病院の新生児室/Yonhap/EPA/Shutterstock

2022.12.17 Sat posted at 13:00 JST

韓国・ソウル(CNN) 韓国ではベビー用品フェアの季節が巡ってきた。広々としたカンファレンスホールで開催される大盛況のイベントでは、数百人の業者が出産を控えた保護者に売り込みをかけている。これから生まれてくる赤ちゃんのために望みうるあらゆるものや、まさか必要になるとは思いもしないような品々を。

だがこの業界は縮小し、顧客層も先細りしている。

つい先日、韓国は出生率世界ワースト1の記録を更新した。11月に公表された数字を見ると、韓国女性が一生涯に産む子どもの人数の平均は0.79にまで減少している。

これは人口の安定維持に必要な2.1という数字をはるかに下回る。出生率が低下している他の先進国と比べても低い。ちなみに米国では1.6、日本は国内過去最低の1.3だった。

高齢化が進み、年金制度を支える労働者の不足が懸念される国にとっては厄介な問題だ。

原因としてよく上がってくるのが経済的要因だ――不動産価格の高騰、教育費、高まる経済不安などで、若者が家庭を持つのを先延ばしにしていると言われている。だが歴代政府がどんなに予算を投じても、政府の力が及ばなくなっていることはすでに明らかだ。

批判的な人々は経済以上に根深い問題があることの証しだとして、政策転換が必要だと言う。そうした意見に政府が耳を貸すかどうかはまた別の話だ。

バラまき政策

韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は9月に保育園を訪問した際、過去16年間に人口増加対策として2000億ドル以上(現在のレートで約27兆円)が投じられてきたことを認めた。

とはいえ5月の大統領就任以来、尹政権は問題解決の糸口を見いだせず、同じような政策を続けている。協議委員会を立ち上げ、新生児にさらなる財政支援を約束する以外に手だてがないのが実情だ。政府によれば、1歳未満の子どもを持つ親への月額支給額は2023年には現行の30万ウォン(約3万円)から70万ウォンに、24年には100万ウォンに増額される予定だ。

問題に対する尹大統領の理解について、前任者と大して変わらないのではないかとする懐疑的な世論は、大統領本人の度重なる不適切な発言で強まるばかりだ。

保育園を訪問した際、尹大統領は赤ちゃんや幼児が自宅で世話されていないことに驚きを示した。生後6カ月の赤ちゃんは歩けるのが普通だとほのめかす発言もあったとされ、世間知らずだという批判を招いた(赤ちゃんが歩き始めるのは平均して生後12カ月ごろ)。

現在のバラまき政策はあまりにも一面的で、むしろ一生涯を通じて子どもを継続して支援することが必要だというのが専門家の意見だ。

少子化問題に対する尹錫悦大統領の政策の効果には懐疑的な見方も出ている

最近行われたベビー用品フェアでベビーカーを物色していたキム・ミンジョンさんは、今月2人目の子どもが生まれる予定だ。キムさんはさらなる財政支援を約束する政府を鼻であしらった。「名称を変えて、いくつかの手当を統合したけれど、私たちのような親にはもはや何のメリットもない」

キムさん夫妻には民間の託児所を利用する金銭的余裕がないため、第1子の出産以来キムさんも働けずにいる。それが目下の問題だそうだ。

政府が出資する保育園は無料で利用できるが、保育士が乳児に手を上げるという不祥事がここ数年で何度かあり、多くの保護者が敬遠している。こうした事例は数えるほどだが、大々的に報道された。監視カメラの映像はなんとも胸がつまる。

「道徳的に厳格な態度」

親予備軍の前には、他にも数々の問題が立ちふさがる。それらは本質的に、経済的というよりも社会的な問題で、どんなに潤沢な予算が割かれようともしぶとく残るだろう。

そうした問題には、子育ての暗黙のルールと呼ばれるようなものもある。

韓国では、結婚した夫婦は子どもを授かることが大いに期待される。一方で、ひとり親はいまだに怪訝(けげん)な目で見られる。病院の公式データによると、対外受精治療は独身女性には適用されていない。

「シングルマザーに対しては非常に厳格な態度が今も残っている」と言うのは、社会問題について新聞にコラムを寄稿するチョ・ヒギョン教授だ。

「婚外妊娠をしたことで、何か悪いことをしたかのような言われようだ。子育てができる状況なら、必ずしも結婚している必要はないではないか?」

一方で、伝統にとらわれないカップルも差別を受けている。韓国では同性婚は認められておらず、法規制ゆえに未婚のカップルが養子縁組みを行うこともままならない。

結婚や出産を選択しない若者世代の傾向について著書を出したイ・ジンソン氏いわく、出生率増加の政策では、伝統的な男女間の結婚以外の考えを受け入れるべきだという。

「伝統的な結婚観では、異性愛や当たり前を重視する話し合いばかりのように感じる。(そのせいで)障がいや病気を持つ人々、なかなか子どもを授かれない人々が除外されている」(イ氏)

生涯独身という選択

イ氏は韓国でよく耳にするジョークを例に挙げた。「25歳を迎えた時に交際相手がいない人は、ツルに姿を変える。つまり、シングルはもはや人間ではなくなるのだ」

イ氏のような人々は、結婚や家庭といった伝統的な期待に応えようとせず、「自分の幸せばかりを大事にして、社会の責務を蔑ろにする」自己中心的な人間だと社会からみなされるという。

家父長社会で女性は子どもを持つようプレッシャーをかけられるが、そうした傾向にはなかなか進歩が見られないとイ氏は指摘する。「家父長社会で女性は結婚、出産、育児であまりにも多くの犠牲を強いられる。この10年はとくにそうだ。だから女性たちは結婚せず、充実した生活を送る可能性を探り始めている」

チョ教授も同意見だ。父親は会社に身をささげ、母親はたとえ働いていたとしても、家庭を支えるべきだという世間の期待がいまだに漂っているという。

「実際に女性のほうが男性よりも稼いでいるカップルを大勢知っているが、いざ帰宅すると、女性は家事や育児をこなさねばならず、夫の心理的サポートにも努めなければならない」

ソウルで開催されたベビー用品フェアで展示されたベビーカーを見る男性

会社が終わっても仕事は終わらない

一方、子育てに積極的に関わりたい父親は、必ずしも韓国の企業文化が認めてくれるわけではないと感じている。

統計上、男性の育児休暇は増加傾向にあるものの、ためらうことなくフル活用する人はほとんどいない。

先のベビー用品フェアで、キムさんの夫パク・ギュンスさんは第2子の育児を手伝いたいと語ったが、「幼い子どもがいても、職場から特別な配慮や待遇はまったくない。自分も育児休暇を取ることはできるが、職場での評判を落としたくないので乗り気ではない」と明かす。

家族を優先する会社員はめったに昇進しないという恐れが広がっているのだ。

3歳と5歳の息子を持つイ・セウンさんは、夫からもっとサポートがあれば大歓迎だという。だが夫はほとんど家にいない。

「会社側が、例えば子どものいる社員を夜の会食や行事から外してくれればいいのに」とイさん。

韓国では、会社の就業時間が終了しても仕事は終わらない。むしろ就業後に「チームの結束を高める」文化があり、欠席すると白い目で見られる。

イさんは株式ブローカーとして会社勤めをした後、自ら会社を興したが、もう7年も仕事をしていない。息子たちを託児所に預けたくなかったので、仕事を続ける選択はなかったという。

「個人的な意見では、子育てはとても貴重な、意義のある素晴らしいことだと思う。だが時々、社会ではあまり尊重されていないように感じる」(イさん)

出生率世界ワースト、少子化問題に苦慮する韓国

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