バフムートに留まった男性、友人と右腕、生活の糧を失う

バフムートへの爆撃で右腕を失ったヴャチェスラフ・タラソフさん/Peter Rudden/CNN

2022.12.14 Wed posted at 12:09 JST

ウクライナ・コンスタンチノフカ(CNN) ウクライナ東部の前線にあるヴャチェスラフ・タラソフさんの自宅外の道路には、砲弾による穴が開いている。周囲の建物は大半がもぬけの殻で窓もなく、冷え切っている。

バフムートはこの数カ月間、いら立つロシア軍の容赦のない砲撃にさらされている。ロシア政府はロケット弾やミサイルで建物を跡形もなく破壊。歩兵隊を絶え間なく送り続け、損壊した家屋の間で戦わせている。

48歳のタラソフさんは砲撃から逃れるため、地下での生活を余儀なくされていた。しかし先週、危険を承知で外へ出ることにした。野菜を買ってきて国民食のボルシチを作るためだ。

「何を使ったのかは分からない」「しかしその力はすさまじく、腕が吹っ飛ぶほどだった」と、タラソフさんは振り返る。

この時の爆撃はタラソフさんの体を引き裂き、友人の命を奪った。大量に出血したタラソフさんも死を覚悟したが、何とか生き延びたいと神に祈ったという。

熱心なキリスト教徒のタラソフさんは、「目に見えない力」で命が助かったと信じる一方、ウクライナ軍の兵士にも感謝している。兵士らはタラソフさんをピックアップトラックに乗せ、コンスタンチノフカの病院まで運んだ。そこは戦争による民間人の負傷者を治療できる残り少ない病院の一つだった。

病院に着いたタラソフさんは、まず医師に対し、腕を元通り縫い合わせることは可能かどうか尋ねた。爆発でちぎれたタラソフさんの右腕は、衣服の袖の中でぶら下がった状態だった。裂けた腹からは腸らしき臓器が飛び出し、辺り一面血まみれだったという。

負傷した民間人が連日運び込まれてくるコンスタンチノフカの病院

ロシア軍による度重なるエネルギー供給網への攻撃のため、コンスタンチノフカの病院の医療スタッフらは停電や水不足の中での業務を余儀なくされた。先週は1日8時間発電機を動かし、照明や暖房を維持しなくてはならなかった。

医師のユーリ・ミシャスティーさん(62)によると、爆弾の金属片で負傷した人が連日運び込まれてくるという。

ロシア軍がバフムート制圧作戦を強化する中、爆撃はこれまでにないほどコンスタンチノフカへ近づいている。同市はバフムートの西25キロに位置し、今月に入ってからはほぼ毎日爆撃に見舞われているという。

地元当局は市民らに対し数カ月の間当該地域を離れるよう要請しているが、タラソフさんをはじめとする多くの住民らはそれを不可能なことと捉えている。

「大金があるなら、外国ででも暮らすだろう」「しかし金はないし、これまでの蓄えは全てここでの生活につぎ込んできた。金もなければ行くところもない」と、タラソフさんは話す。

バフムートにとどまることは、残された本来の生活にしがみつくことに他ならなかった。侵攻前は建築業者として懸命に働いてきたタラソフさんだったが、その人生は今や一変し、もう元には戻らない。

「右利きだったが、今はメジャーを使うことさえできない」「半分は人間で、半分はゾンビだ。正確に言うなら、人間なのは半分だけだ」(タラソフさん)

バフムートに留まった男性、友人と右腕失う

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