かつての空港が臨海公園に、歴史の一部も再利用 ギリシャ

ギリシャ首都アテネで、使われなくなった空港を公園に作りかえるプロジェクトが進んでいる/Sasaki

2022.12.18 Sun posted at 13:25 JST

(CNN) ギリシャの首都アテネといえば、くすんだ丘の頂にたたずむ代表的な古代建築が有名だが、開放的な緑地とはあまり結びつかない。だが、それも近いうちに変わるかもしれない。市内の旧国際空港および周辺の沿岸地区が、ロンドンのハイドパークをゆうに超える巨大臨海公園に生まれ変わろうとしているのだ。

かつてギリシャの玄関口としてにぎわっていたエリニコン国際空港の敷地は、20年近くも廃墟(はいきょ)の状態だ。2004年の夏季オリンピック期間中にソフトボール競技、ホッケー競技、フェンシング競技の会場として一時期使われたのを除けば、01年に廃業してから建物は放置されたままだった。今では古ぼけたスタンドの合間から、太陽で干からびた赤茶色の草が顔をのぞかせている。過去の栄光とはかけ離れたわびしい光景だ。

来年初頭にエリニコン・メトロポリタン・パークの着工が予定されている。600エーカー(約2.4平方キロメートル)におよぶ復旧計画はこの地域に新たな息吹を吹き込み、公園や遊技場、文化施設として機能する一方、市の気候変動対策強化にも期待が寄せられている。

「ギリシャにとっては一世一代の画期的なプロジェクトだ」と語るのは、ボストンを拠点とするササキ社のランドスケープアーキテクト、マイケル・グルーブ氏だ。この会社がプロジェクトを担当する。アテネ市民は「重要な公共用地が20年間も空き地状態だったことに不満を募らせている」と同氏は付け加えた。景観設計や都市開発で有名なササキ社は、これまでにニューヨークのグリーンエイカー・パーク、チャールストンのウォーターフロント・パーク、08年の北京五輪のオリンピック公園を手がけている。

過去に目を向ける

空港の歴史の一部は、新たな姿に生まれ変わって保存される。フィンランド系米国人の有名建築家エーロ・サーリネン氏が1960年代に設計したターミナルホールは、そそり立つ滑走路の照明塔とともにそのまま残される。滑走路に使われていた30万平方フィート(約2万8000平方メートル)を超えるコンクリートとアスファルトは、ベンチや道路の舗装など様々な用途に再利用される。

グローブ氏は、こうした「アップサイクリング」的なアプローチが、公園の環境貢献度の上昇に役立っていると語った。「敷地内にあるものを利用する。こんなに美しいコンクリートがそこら中にごろごろしている。ゴルフボール大の大理石の骨材が入った厚さ30インチ(約76センチ)のコンクリート片だ」。グローブ氏は、公園が一般公開されたあかつきには、メンテナンス用の車両を電気自動車(EV)化し、有機肥料や有機殺虫剤を使い、二酸化炭素排出量を最小限に抑えるつもりだと付け加えた。

公園全域には、86種の樹木3万1000本と300万本以上の植物を含むギリシャ原産種のみを植樹する。設計者はギリシャの種苗園と協力して、環境保護に有益で、乾燥化が進む現地の気候でも繁茂する複数の原産種を調達した。

すでにアテネでは、気温上昇や異常気象の頻発など、気候変動の影響が感じられる。18年にニューキャッスル大学が欧州571都市を対象に気候変動のリスクの分析調査を行ったところ、アテネでは50年までに、最悪の水準の深刻な旱魃(かんばつ)と熱波を何度か経験するだろうとの予測が出た。

都市部ではヒートアイランド現象により気温上昇はさらに悪化しているが、それは市内のコンクリートや石やアスファルトが熱を吸収・保持するためだ。こう説明するのは、アテネ市の猛暑対策主任で、米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」のアーシュロック・レジリエンス・センターの上級顧問を務めるエレーニ・ミリビリ氏だ。ミリビリ氏は「アテネは建物が非常に密集している。建物の表面がまちまちな状態は気温上昇にまったく適さない」と言い、建物の表面が水を吸収しないため、日常的になりつつある土砂降りの際には河川が氾濫(はんらん)する場合もあると付け加えた。

緑地があれば、こうした影響にも対処することができる。「基本的に、我々は80%ハードスケープの土地を80%ソフトスケープの土地に変えようとしている」とグローブ氏は言う。コンクリートや石を樹木や低木に置き換えれば、雨水を吸収し、冷却効果のある木陰を作ることが可能だ。

かつてのターミナルビルも保存される見通しだ

水不足対策として、公園には近隣工場から供給される処理済み排水が引かれる。オリンピックでカヌーとカヤックの会場に使われた3.7エーカー(約1万5000平方メートル)の湖は、豪雨であふれた水を集約する貯水池として再利用される予定だ。

こうした設計面での特徴が気候変動に強い未来づくりには欠かせないと語るのは、欧州環境機関(EEA)の気候変動・保健の専門家アレクサンドラ・カズミエチャック氏だ。「緑地は都市部の気温を下げる手段として非常に効果的だ。都市部をもっとスポンジのように設計して余分な水を吸収できれば、河川が氾濫することもなくなり、数百万~数十億ユーロの被害を出さずに済むため、経済効果も期待できる」

より健全な都市づくり

もうひとつ緑地の大きなメリットは、「心身の健康と社会的結束」への効果が期待できる点だとカズミエチャック氏は言う。緑の多い環境に暮らす人々はストレスや肥満が減る傾向にある。また緑地により騒音や大気汚染が減少し、健康にも長期的なメリットがもたらされるとも付け加えた。

ミリビリ氏によれば、緑が乏しいアテネ市にとって、大規模な緑地開発は大いに期待できる。EEAの調査によれば、欧州各国の首都の緑地面積ランキングで、アテネはワースト5位圏内だ。ここ最近、市内に緑地や「ミニ公園」を作る努力がなされてきたが、規模や自然に根差した解決策に力を入れているという点で、エリニコン・プロジェクトに匹敵するものはない。

「アテネ市民の心身の健康という点でも、ここは憩いの場所になるだろう。人口過密都市の生活バランスを立て直してくれるだろう」とミリビリ氏は言い、さほど裕福ではなく、夏の盛りに避暑へ出かける金銭的余裕のない人々にはとくに重要だと付け加えた。

エリニコン・プロジェクトであらゆる人々が恩恵を受けるだろうとグローブ氏も言う。彫刻広場、スポーツセンター、屋外劇場、飲食店、公共ビーチも併設される予定だ。50キロメートルの遊歩道と30キロメートルのサイクリングレーンもあるため、アテネ市民には積極的に地域を散策して自然と触れ合ってほしいと同氏は語る。

プロジェクトはここまで長い道のりをたどってきた。空き地を公園に変えるというアイデアは空港の廃業前から持ち上がっていたが、度重なる財政トラブルや08年の経済危機、さらには開発業者の選定をめぐる意見の対立などで、プロジェクトは何度も延期された。21年、ギリシャの不動産会社ラムダ・デベロップメント社が正式契約にこぎつけ、ササキ社を含む数人の建築家が設計に起用された。ラムダ社の推定では、公園周辺の住宅や商業施設の開発も含めると、総額費用はおよそ80億ドル(約1兆1100億円)に上るとみられる。

ようやく勢いに乗り、建築家は急ピッチで仕事に取りかかろうとしている。プロジェクトの第1段階である、中央のオリンピック広場や市営路面電車の線路、沿岸全域を含む約250エーカー(約1平方キロメートル)のエリアは25年末もしくは26年上旬に完成予定だとグローブ氏は言う。

グローブ氏は、エリニコンがニューヨークのセントラルパークのアテネ版になると思い描いている。アテネ市民の公共スペース利用法を変え、街の公衆や環境の健全化にも貢献し、時代の荒波にも耐えてゆくだろう。「アテネの歴史を考えれば、この公園も形を変えながら、1000年は存続するだろう」(グローブ氏)

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