ロシアの戦争、容易にNATOとの大規模戦闘に発展 ポーランド爆発が示す可能性

ミサイルによる爆発が起きた現場近くでトラックから装備を下ろすポーランド軍の兵士/Evgeniy Maloletka/AP

2022.11.18 Fri posted at 07:00 JST

(CNN) 大きな戦争が「事故」によってさらに拡大することは多くはない。だが、ロシアがウクライナに仕掛けた失敗続きの残虐な侵攻では、当初から大幅な事態悪化の脅威がくすぶっていた。15日にポーランドで起きたロケットによる爆発は、この可能性をはっきりと示す形となった。

今回の爆発は、故意か否かを問わずロシアの行為ではなく、ロシアのミサイルに対するウクライナの迎撃行動が誤った方向に進んだ結果のようだ。だが、これはウクライナの防衛行為がもたらす身も凍るような「副作用」と言えるだろう。ウクライナには国民や民間インフラを狙うロシアのミサイルの雨から国を守る責務がある。

北大西洋条約機構(NATO)に加盟するポーランドは現時点で、防衛に関する協議を定める北大西洋条約第4条の発動を見送った。だが、この短いパニックの期間によって、NATOやNATOの役割の立ち位置はどのように変わっただろうか。NATOはロシアの侵攻に対するウクライナの防衛を支え、資金を提供する存在となっている。

ポーランドのドゥダ大統領が今回の件について、ウクライナの防空システムを原因とする「恐らく事故」と発言したことで、NATOが即座に対応する可能性は大きく減った。現地で見つかったがれきは、撃ち込まれたミサイルがウクライナ軍の運用するロシア製S300防空システムのものだと特定するのに役立ったのだろう。最終的に、この事案が事故だと判明したことで、全当事者にとって最も都合のいい結果になった。NATOにとっては、加盟国を誤って攻撃しないようなシステムの提供など、ウクライナの防空機能を容易に強化できる機会となる。

そして何よりも、これはロシアが人類史上最大の軍事同盟であるNATOとの全面戦争への拡大を望むという、ありえそうにない瞬間になりそうな事案だった。

ロシアはウクライナの小規模だがよく組織された軍隊に、さまざまな前線で敗退している。ロシア領だと違法に宣言した土地から自ら退却、受刑者や徴集兵を前線に送り込み、厳しいと予想される冬の到来前に旧式の雑な防衛態勢を築こうとしている。彼らはぞっとするような場所にいる。確かに、もしポーランドへの不意の攻撃があれば、重要都市ヘルソンからの退却を発端とするロシア軍撤退を巡る話から目をそらす効果はあるかもしれない。だが同時に、NATOによるロシア軍の一層の衰退をもたらす可能性が高い、破滅的で短絡的な動きになっていたことだろう。

しかし、我々は依然として危険のはらむ位置にいる。1940年代以降最大の欧州陸戦とNATOとの距離の近さは特筆すべきだ。多くの事象が誤った方向に進む可能性があり、物理法則を考えればいずれはそれが起きるだろう。

ポーランドでの爆発は、戦争がゆっくりと拡大しつつある新たな兆候となっている

ポーランドは今回の件に防空強化で対応せざるを得ないだろう。ドイツも既にポーランドの領空警戒の支援を申し出た。抑止力とは強力な軍隊のことであり、ロシアも虚勢を張りつつ神経をとがらして注視している。もしこの熱い地域により多くの航空機、より多くの防空ミサイルが持ち込まれれば、より多くの事故が起きる可能性が高まる。ロシアが支援する分離主義勢力による民間機マレーシア航空17便の撃墜事件は誤って行われた行為のようだが、ミスだからといって人命の喪失が受け入れられるわけではなく、西側の対応が沈静化するものでもない。

ロシアもまた、戦略的に追い詰められている。それによって早まった行為に走るわけではないだろうが、事態の緩和に向けて動く公の余地は少なくなっている。謝罪をしたり、起きた過ちを認める発言をしたりする行為は難しくなる。

プーチン大統領は16日、自動車産業に関する協議で忙しかったが、ヘルソンからの撤退が必要な理由については公の説明をしなかった。だが、それは同氏がプレッシャーを受けていないということではない。この悲惨な戦争を選択したプーチン氏の行為に疑念を抱いている強硬派が存在する。もし、もう一度誤りや、誤りにつながる事案が起きれば、プーチン氏にNATOとの対立を避ける余地は国内事情から言ってほぼない。ロシアは国家として、この戦闘をNATO全体に対するロシアの戦いと位置付けてきた。既に戦いに入っていると宣言している戦闘から身を引くのは困難だ。

だからこそ、ポーランドでの爆発は、ゆっくりと進む戦争拡大の新たな兆候となっている。ゆっくりとだが、小さなこうした一連の動き――ウクライナの原子力発電所への脅威から始まり、ノルドストリームのパイプライン爆発、ポーランドの穀物工場を直撃し死者を出した爆発へと続く――は、不可能だと思われたことに対する感覚を侵食し、新たな一連の基準を作っていく。この戦争がいつ終わるのか。ウクライナを支援する国々はいつ終わりを望むのか。こうした一連の事態から、時計の針の音は一層大きくなっていく。

ロシアがこの悲惨な作戦を終えるまでに、同国が多大な苦痛と敗退、窮状を耐え忍ぶ意思があることは明白だ。それにより彼らの敗退や撤退の瞬間は遠い先へと追いやられるが、同時に、危険で暴力に満ちた場所に軍の装備が増え、より多くの過ちが起きうる期間も長期化することになる。

本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者の分析記事です。

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