ウクライナ・リマン(CNN) ウクライナがロシアからの奪還を宣言した東部ドネツク州の要衝リマンに2日、CNNの取材班がいち早く足を踏み入れた。すでにロシア軍部隊の痕跡はほとんどなく、9月30日のうちに撤退するのを見たと話す住民もいた。
取材班がリマンに到着したのは、ウクライナのゼレンスキー大統領が同市からロシア軍を完全に排除したと発表してから約30分後のことだ。
この時すでに街は静まり返り、所々でウクライナ兵のグループが歩き回っているだけ。ロシア軍が残した戦車や遺体、捕虜の影もなかった。
火をつけて燃やされたロシアの国旗や宣伝用の物品/Brice Lâiné/CNN
破損した建物の横を移動するウクライナ兵=2日、ウクライナ・リマン/Brice Lâiné/CNN
静けさを破って時折、銃声や砲撃音が響く。住民が何人か、自転車に乗って食料を探していた。
リマンの市民は度重なる支配者の交代に困惑していた。「ある日はこの帽子をかぶり、別の日は違う帽子。こんな生活は無理です」と、1人の女性が涙ながらに訴えた。
ウクライナ当局はリマンの包囲を繰り返し伝え、市内で多くのロシア兵が立ち往生していると発表してきたが、その痕跡はほとんど消え去っていた。当局者らによれば、遺体の片付けや捕虜の退去もすでに完了したという。
一方で住民からは、ロシア兵が30日に整然と撤退したとの目撃談も出ている。
今も共同の防空シェルターで夜を過ごしているという女性が自転車で通りかかり、ロシア兵は「戦車に乗って出て行った」と話した。
ウクライナ軍の報道官はCNNの取材に対して、30日撤退説を否定し、戦闘は1日まで続いていたと説明。ロシア兵は車列を組んで包囲を突破しようとしたが、その過程で撃たれた者もいたと主張した。
市庁舎の前で声明を発表するウクライナ軍兵士/Courtesy of 81 Airborne Brigade of the Ukrainian Armed Forces/Reuters
ロシア軍部隊がたとえ一部でも30日に整然と撤退していたのが事実なら、ロシア側にとっては都合が悪い。プーチン・ロシア大統領はこの日、リマンを含むウクライナ4州の併合を一方的に宣言する文書に署名し、首都モスクワの「赤の広場」で勝利を祝う集会を開いていた。ところがその裏では、要衝リマンで周囲のロシア占領地に影響を及ぼしかねない大敗を喫していたことになる。
リマン市内では、ウクライナへの移管にともなう作業が急ピッチで進行中だ。警察署のゲートは金と青のウクライナ・カラーに塗り替えられ、建物の補修や室内の片付けも済んでいた。
リマン市内を走る線路/Brice Lâiné/CNN
占領下では電気や水道が止まり、ロシア併合をめぐる先週の住民投票では、市民を集めて参加させるために行政機関のビルが使われたという。リマンの住民投票は、ウクライナ軍の進撃を受けた砲火の中で実施されたとみられる。
市内の鉄道は大きな被害を受け、駅の屋根が吹き飛ばされたり、列車が損壊したりしていた。街では多くの建物が破壊されたが、2日の時点で道路はきれいに片付いていた。
ウクライナ兵の多くはすでに、さらに東方の戦線へ移動し、ルハンスク州クレミンナの奪還に向けた作戦に入っている。
奪還の東部要衝、取材班が現地入り