(CNN) 英国のトラス新首相は、黒人や他の民族的少数派の議員にいくつかの大臣職を任せ、英国史上最も民族的に多様な内閣を組織した。
首相、財務相、内相、外相という、いわゆる4つの「要職」全てに史上初めて白人男性以外が就いた。
財務相として悲惨な状況に陥っている経済を担当するクワシ・クワルテング氏は、1960年代に両親がガーナから移住した後にロンドンで生まれた。新外相のジェームズ・クレバリー氏の母親はシエラレオネから英国に渡り、新内相のスエラ・ブレーバマン氏はケニア人とモーリシャス人の両親を持つ。
政府の中枢メンバーがこれほど多様な国は主要7カ国(G7)にはなく、過去10年間に英政界のトップに躍り出た少数派の政治家が急速に増えていることを反映している。
しかし専門家によると、この事実は英国の政治制度にはびこる他の不平等を覆い隠してしまう可能性があるという。
批評家たちは難民や亡命希望者、恵まれないコミュニティーに対して不和を生じさせる保守党政権の一連の政策が続くことを懸念しており、英国の最も決定的な政治的隔たりを象徴するものとして新閣僚の階層と学歴を指摘する者もいる。
移民、統合、国民性の問題に取り組むシンクタンク「ブリティッシュ・フューチャー」のディレクター、サンダー・カトワラ氏はトラス新内閣の構成について「極めて重要で、変化のスピードも尋常ではない」と述べた。
しかし「より多様な政治エリートたちだ。教育、法律、ビジネスで成功した人たちのための実力主義的な前進であり、社会階層という意味のものではない」とカトワラ氏はCNNに語った。
ロンドン大学クイーン・メアリー校の政治学教授で、保守党に関する本の著者であるティム・ベール氏は「下院、政党、政府が性別や民族の面でより多様になったことは本当に素晴らしい」と述べた。
「しかし、労働者階層の人々が政治から消えつつあるという事実は隠されており、それは政策や投票率の面に影響を及ぼしている」とも指摘した。
英国では2002年に初の黒人の閣僚が誕生した。10年前には要職に非白人の政治家はいなかった。そのため、トラス内閣の多様性は英政治の大転換を反映している。
「今世紀に入るまで黒人やアジア人の閣僚はいなかった。この10年間で驚くほど急速に変化した。ごく最近のこととはいえ、すでに新しい規範として確立された」とカトワラ氏はCNNに語った。
ブレーバマン氏は連続して3人目の少数派出身の内相となり、クワルテング氏は4人目の少数民族出身の財務相となった。
10〜16年に首相を務めた保守党のデービッド・キャメロン氏は、多文化国家と乖離(かいり)していると言われていた当時の保守党の近代化を優先させ、これがこうした変化の大きな要因だと言われている。キャメロン氏は党が地方候補を選出する際に女性や少数民族を候補者名簿に加えるよう主張した。
「キャメロン氏は決定的な影響を与えた。保守党が現代英国の一部となる意欲を示すための、彼の政治的プロジェクトだった」とカトワラ氏は話した。
保守党の多様化は政権を担ったこの12年間で進んだが、支持者の構成はそうではない。歴史的には労働党が非白人票で優勢を保っていて、19年の総選挙では黒人や他の少数派有権者の64%が労働党に投票した。保守党に投票したのは5人に1人だった。