アレクサンドル・ドゥーギン氏とは何者か、過激なロシアナショナリズムの精神的支柱

ロシアの過激なナショナリズムの精神的支柱と目されるアレクサンドル・ドゥーギン氏/CNN

2022.08.25 Thu posted at 07:38 JST

(CNN) 20日に自動車爆弾で殺害されたダリヤ・ドゥーギナ氏の父親、アレクサンドル・ドゥーギン氏(60)は、ロシア政府内で影響力を増しつつある過激なナショナリズムの精神的支柱といえる存在だ。

ロシア軍将校の家庭に生まれたドゥーギン氏の歩みは特筆に値する。かつて異端の思想家だった同氏はいまや、ロシアを欧米の退廃に対抗する「ユーラシア」帝国の中心に位置づける有力な思想潮流の主導者になった。「ロシアの世界」という言葉の生みの親でもある。

その過程で、この思想潮流はロシアの外で形成されたウクライナのアイデンティティーに対する強い嫌悪感を抱え込むことになった。

ドゥーギン氏はロシアによる2014年のクリミア併合前、ウクライナ領の一部を含む地域を指す「ノボロシア(新しいロシア)」という表現の復活に寄与した。プーチン大統領は14年3月にクリミアをロシアの一部と宣言した際、この言葉を使用した。

ドゥーギン氏は長年、「母なるロシア」への同化に抵抗するウクライナ人に強い嫌悪感を示してきた。14年5月、ウクライナ南部オデーサで親ロシア派のデモ隊数十人が殺害された後には、「ウクライナは地球から消し去られて一から再建されるか、奪取されなければならない。ウクライナ人はすべてのレベル、すべての地域で全面蜂起する必要がある。軍政に対する武装蜂起が必要だ。南部から東部にかけての地域だけでない」と発言した。

さらに「私の考えは殺せ、殺せ、殺せだ。これ以上の対話はありえない。これは私の大学教授としての意見だ」とも述べた。

その翌年、ドゥーギン氏は「ウクライナの平和や安全保障、安定、主権、領土の一体性を脅かす行動や政策に加担した」として、米国から制裁対象に指定された。

ユーラシア主義の誕生

ドゥーギン氏を一躍有名にしたのは1997年の著作「地政学の基礎」だ。同氏はこの中で、アイルランドのダブリンから極東ウラジオストクまで広がるユーラシア帝国のビジョンを披露した。米国内に不安定化と反乱の種をまくことも提唱しており、16年米大統領選の前後の偽情報工作を予告する内容となっている。

同書の一節には「特に重要なのは、米国の国内活動に地政学的混乱をもたらし、あらゆる種類の分離主義や民族・社会・人種対立を促進し、過激派や人種差別主義者、宗派集団による反体制運動を積極的に支持して、米国の内政を不安定化させることだ」とある。

同書は混乱を極めたエリツィン政権の末期に執筆され、ロシアでベストセラーになった。

米スタンフォード大フーバー研究所の上級研究員、ジョン・ダンロップ氏は04年、「ロシアの軍や警察、国家統制主義的な外交政策エリートにこれほど影響を与えた」本は他にないと指摘している。

この本をきっかけにドゥーギン氏は研究者としてのキャリアを歩み始め、一時はモスクワ大学社会学部で国際関係論の教授を務めたこともある。

ドゥーギン氏は常にプーチン大統領への支持を公言してきた。07年には「プーチン氏にもはや敵はいない。仮にいたとしてもその人物は精神病で、医学的な検査を受けるべきだ。プーチン氏はあらゆる場所にいる。プーチン氏は全てであり、絶対的で、替えが効かない存在だ」と述べていた。

徐々に、そして確実に、ドゥーギン氏の見解はロシアの政治的議論の非主流から主流に躍り出た。

同氏の掲げる「ユーラシア主義」は、今やロシアの政治的議論の主流に位置付けられる

11年には、当時首相だったプーチン氏が「ユーラシア連合」について言及し始めた。ドゥーギン氏は当時を振り返り、プーチン氏には「イデオロギー、(3期目の大統領として)再登板する理由」が必要だったと語っている。

ロシアが14年にウクライナ東部ドンバス地方の分離主義者を支援し始めると、ドゥーギン氏は「ユーラシア青年同盟」で存在感を発揮した。この組織は自称「ドネツク人民共和国」のために戦う軍隊経験者の採用を行った。

ドゥーギン氏はまた、ウェブサイト「ゲオポリティカ」を通じて大量のプロパガンダを流しつづけた。米国は同氏がサイトを管理していると主張。米財務省は今年、このサイトについて「欧米人などの視聴者に対してロシアの超国家主義者が偽情報やプロパガンダを拡散するプラットフォームの役割を果たしている」と指摘した。

敵には事欠かず

ロシア拡張主義の思想的支柱の1人であるドゥーギン氏は「2人の」プーチン氏がいると言及しており、「プーチン対プーチン」と題した書物を著したこともある。

ドゥーギン氏はその中で、プーチン氏には現実的で慎重な「月の」側面と、ユーラシア帝国の再興や欧米との衝突に注力する「太陽の」側面があると説明している。

ウクライナ侵攻から1カ月後の3月には、モスクワ紙とのインタビューで「『太陽』のプーチン氏が勝利を収めたこと、これが起こるべくして起こったことは間違いない。私は1年前どころか、何年も前からそう言ってきた」と指摘。「ロシアは一線を越えた。このことを私は個人的に非常にうれしく思っている」とも述べた。

ドゥーギン氏はロシア国内の敵には事欠かない。19年のインタビューでは「ロシアで権力の座にいる人間は全員カスだ。プーチン氏を除いて」と語っていた。

今年には、「ユーラシア主義」を強く信奉する姿勢は「地政学の基礎」を書いた頃と変わらないと説明。「中心となるのはロシア国民だ。ロシア国民と運命を共にすることに前向きな人に対しても開かれている」とも語った。

ドゥーギン氏にとってウクライナ紛争とは、停滞する欧米と、伝統やヒエラルキー、キリスト教正教会に基づく社会との間の存亡を賭けた戦いの一部に他ならない。

ドゥーギン氏の世界では、ロシアの運命は「全ての東スラブ人とユーラシアの兄弟を広大なひとつの空間にまとめ上げるまで完結しない。この運命の論理から全てが導き出される。ウクライナについても同様だ」という。

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