ウクライナ生まれの米共和党議員、祖国の政府を痛烈批判 同僚から「乱暴者」と苦言も

ウクライナ生まれながら同国政府を厳しく糾弾し続ける米共和党のV・スパーツ下院議員/Jacquelyn Martin/AP

2022.08.08 Mon posted at 17:45 JST

(CNN) 米国の超党派の議員グループが今年3月にウクライナ国境を訪問した際、思いもかけないゲストが姿を現した。共和党のビクトリア・スパーツ下院議員(インディアナ州選出)だ。

スパーツ氏は米連邦議会初のウクライナ生まれの議員で、歯に衣着せぬ発言を通じて祖国を擁護する。この時の議員団への参加について関心を表明していたものの、招待はされていなかった。議員団の構成は下院外交委員会が中心で、スパーツ氏は同委の所属ではないためだ。

そこで同氏は自腹でポーランドに渡航。ウクライナとの国境で議員団に合流し、現地での会合の一部に加わった。事情に詳しい複数の情報筋が明らかにした。

事前に伝えられていなかったスパーツ氏の参加は議員らを驚かせたが、当初は歓迎ムードだった。議員らはウクライナのため、西側諸国から支援を集めようとしていた。同国は1週間前からロシアによる残虐な攻撃にさらされていた。

ところがウクライナ訪問に参加した複数の議員らによると、スパーツ氏の「論争的」で「非難めいた」姿勢は、北大西洋条約機構(NATO)の関係者らを交えた会合にとって「無益」だった。その場にいることがむしろ有害ではないかという懸念も浮上したという。

共和党議員の1人は当時のスパーツ氏について、「我々議員代表団をぶち壊した。物事を台無しにする乱暴者といった感じだった」「鬱積(うっせき)した不満があったのか、正しい情報が十分得られていないと感じていたのか、それは分からないが、とにかく非難がましく無礼な態度だった」と振り返った。同僚議員に対してより自由に発言するため、また話題の性質が繊細なものであることを念頭に、この議員は他の議員と同様に匿名を条件に取材に応じた。

スパーツ氏はCNNに宛てた電子メールで匿名の批判に反論。「こうした非難は卑劣で、事実を正しく説明していない。一部の妬(ねた)み深い議員やスタッフによるものだ。極めて実りある活動を超党派で行ったのが、3月の議員代表団だった」と述べた。

スパーツ氏の言動への党派を超えた不満は、これだけで終わらなかった。戦争開始からおよそ6カ月の間、スパーツ氏はウクライナ政府に対する公の批判を継続。同国政府並びにゼレンスキー大統領の最側近らが絡むとされる汚職疑惑を広めている。これに対して同僚議員らからは、親ロシア派の主張をそっくり代弁しているとの非難の声が噴出している。

43歳の実業家であるスパーツ氏は公私において、ウクライナに勝利してほしいとの主張を繰り返す。自分が攻撃するのはあくまでもウクライナ政府であり、それがロシアに対する勝利の妨げとなり得るあらゆる障害を取り除く一助になるとの認識を示す。侵攻開始以降、6回にわたってウクライナを訪れ、ロシアにも常に非難の声を浴びせている。2日にはツイッターに、ロシアをテロ国家と宣言するべきだとのコメントを投稿した。

それでもスパーツ氏がゼレンスキー氏とその顧問らに向ける敵意に満ちた物言いは、共和・民主両党の議員やホワイトハウスの当局者、ウクライナの国会議員を一様に苛(いら)立たせている。彼らはスパーツ氏によって、団結してウクライナを支えようとする自分たちの取り組みが台無しになるのではないかと危惧するほか、一体同氏がどこから情報を得ているのか率直に疑問を呈してもいる。そうした状況は十数人あまりの議員、側近、政権内の情報筋にインタビューした結果明らかになった。

バイデン政権による度重なる状況説明や、共和党の有力議員からの私的な嘆願にも、これまでのところスパーツ氏の声高な批判を抑え込む効果はほとんどないと、情報筋は話す。

ウクライナ首都近郊のブチャで、損壊した建物を視察する=4月14日撮影

ここへ来てスパーツ氏は、国防強硬派にとってもある種厄介な存在となりつつある。彼らはすでに、国外で続く戦争に対する倦怠(けんたい)感が米国内で生まれるのを懸念している。また同氏がウクライナ批判を続ける中、「Make America Great Again(米国を再び偉大に)」をスローガンに掲げる共和党の一派からは、ウクライナに兵器と支援物資を送り続けることについて懐疑的な見方が出てきてもいる。

スパーツ氏自身は、ウクライナへの兵器などの迅速な供与を可能にする重要法案成立を強く支持してきた。ウクライナ向けの兵器に対するより厳格な管理も呼びかけており、これには議員らも党派を超えて賛同している。その強い物言いに不満を抱きつつ、祖国を救いたいという必死さの表れだとしてスパーツ氏の擁護に回る議員も一部にはいる。

スパーツ氏はCNNへのメールで自らの情報源について説明。情報の入手先は現地にいる真のプロフェッショナルたちであるのが常で、ウクライナに足を踏み入れたこともない学者や雇われ政治家たちからではないとした。またロシアのプーチン大統領の術中にはまっているのはいわゆる「外交エリートたち」であって自分ではないとも付け加えた。

「人々の命も深く気にかけている。ごく普通のウクライナ人と、勇敢なウクライナ軍の命を。たとえ受けの良くない真実を口にして政治家たちを怒らせたり、大衆受けする今どきの言説から離れていくとしても、そうした人々を失望させることはできない」「決してあきらめないし、負けを認めるつもりもない。ウクライナを1つにし、ウラジーミル・プーチンを倒すため、できることは何でもやる」(スパーツ氏)

米軍制服組トップと会談

スパーツ氏は米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長との会談も要請した。米政治専門サイト「ポリティコ」が最初に報じたこの会談で、スパーツ氏は改めてウクライナ国内の汚職に関する懸念に言及。米国の供与した兵器が本来向かうべきところに行っていないと主張した。

情報筋によれば、ミリー氏はスパーツ氏の懸念を完全には否定しなかった。米国の当局者らは、依然として汚職がウクライナ国内における問題であり続けているとみている。最近ウクライナ側と交わした電話会談の中で、ミリー氏とサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)、ブリンケン国務長官は、ウクライナが国内の汚職に関して「自分たちの改革政策を実行し続けることが重要だ」と指摘。「戦争により複数の課題が生じていようと」、その点は変わらないと論じた。ホワイトハウスが提供した電話会談の要約から明らかになった。

とはいえ全体を通してミリー氏は、スパーツ氏の懸念が度を越したものであることを本人に説明したと、上記の情報筋は述べた。スパーツ氏はCNNに対し、ミリー氏について、当該の会談以前にも話し合う機会があったと明かした。自分の意見に耳を傾けてくれる相手として信頼しているとも述べた。

ミリー氏との会談から数日後、スパーツ氏はなおもゼレンスキー氏の最側近の1人を糾弾。「戦争の継続を装い、独裁そのものの体制を作り上げている」と非難した。

下院共和党トップのマッカーシー院内総務はCNNの取材に答え、スパーツ氏のウクライナ政府批判について個人的に本人と話をしたことはないと述べた。ただこの問題に対するスパーツ氏の熱意は、戦争への注目を集めることに寄与したと称賛。とりわけ紛争開始当初はそうだったと指摘した。

そのうえで、スパーツ氏自身の家族がウクライナにいるという事情から、本人がこの問題に極めて強い感情を抱いていることは理解する必要があると語った。

批判の対象はウクライナ政府であり、国民のことは深く気にかけていると強調する

国外でも懸念の声

スパーツ氏の言動に対する懸念は米国内にとどまらない。元米中央情報局(CIA)アナリストのエリッサ・スロトキン下院議員(民主党・ミシガン州選出)は、最近受け取ったウクライナの国会議員からのテキストメッセージに言及し、同国でのスパーツ氏評を明らかにした。それによると、スパーツ氏が「利用されている」のかどうかは判然としないものの、「本人のウクライナでの評判はがた落ちになった」というのが議員らの見解だという。

「指導者層は皆、この話題で持ちきりだ。彼らは気分を害している」「彼らには、なぜ彼女がこんなことをするのか理解できない」(スロトキン氏)

過去数カ月のスパーツ氏の言動を巡り、ウクライナの当局者らは一段と警戒感を募らせていると、現地の情報筋はCNNに明かす。とりわけ大統領府の長官を務めるアンドリー・イェルマーク氏に対する執拗(しつよう)な攻撃が問題視されているという。先月のツイートでスパーツ氏はイェルマーク氏の「非民主的な統治」を非難。世界的に「評判の悪い」人物と断じた。また同月8日にはバイデン氏に送った書簡の中で、イェルマーク氏及び「同氏が行ったとされるロシアと関係のある取り引き」に特化した状況説明を求めた。

イェルマーク氏がロシアとビジネス上のつながりを有しているとの疑惑は、戦争前にラジオ・フリー・ヨーロッパが報じた内容と同様のものだ。ただ同氏がクレムリンの影響下にあるとの証拠はなく、本人も疑惑を否定している。

ウクライナの当局者らは、スパーツ氏の動機に疑問を投げかける。6月24日、ゼレンスキー氏の側近の1人に送ったテキストメッセージの中で、スパーツ氏は同側近を「然るべき人物に引き合わせる」と提案している。本人によればウクライナ軍の勝利に貢献できる人物だという。

このテキストメッセージについて尋ねられたスパーツ氏は、ウクライナが戦争に勝てるよう手を貸したい人々との関係作りを手伝いたかっただけだと説明。具体的には、自身の友人でもある複数の退役軍人を指しているとした。

情報筋によれば、ウクライナの当局者らはイェルマーク氏とスパーツ氏の会談の場を設置すると申し出たが、スパーツ氏はこれを辞退した。同氏はCNNに対して会談の申し出があったことを認めたものの、当時ウクライナ外務省がイェルマーク氏への攻撃を「ひねくれた」、「根拠のない」ものと批判したと指摘。

「そのような状況では、会談を開いても得るものがないと判断した」と語った。

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