(CNN) SFドラマ「スタートレック」の通信士役で知られる米女優で歌手のニシェル・ニコルズさんが7月30日に死去した。89歳だった。
息子のカイル・ジョンソンさんが公式サイトを通じて31日に訃報(ふほう)を知らせ、老衰だったことを明らかにした。
ニコルズさんは、テレビシリーズのスタートレックやその続編でニヨータ・ウフーラ通信士を演じて有名になった。スタートレックの放送が始まった1966年当時のテレビ界ではまれな存在だった。それまで黒人女性は家政婦などの脇役で出演することはあっても、主要登場人物を演じたことはなかった。ニコルズさんが演じたウフーラ通信士は、スタートレックの多文化クルーにとって欠かせない存在だった。
マーティン・ルーサー・キング牧師は「テレビ史上初めて黒人女性が演じる非ステレオタイプの役柄」と評した。
ウフーラ通信士は、カナダ出身の白人俳優ウィリアム・シャトナーが演じるジェームズ・T・カーク船長とキスを交わす場面もあった。黒人と白人のキスは、実質的にテレビ史上初めてだった。ニコルズさんは2014年のCNNのインタビューの中で、このキスシーンについて「テレビを永遠に変え、人々の互いに対する見方も変わった」と振り返っていた。
スタートレック後は米航空宇宙局(NASA)の多様化にも貢献し、女性宇宙飛行士や黒人宇宙飛行士の採用にかかわった。
スタートレックでUSSエンタープライズ操舵(そうだ)手のヒカル・スールーを演じた俳優のジョージ・タケイさんは、ニコルズさんを追悼するツイートを投稿した。
「ウフーラ通信士としてUSSエンタープライズのブリッジを共にした素晴らしい先駆者のニシェル・ニコルズさんが今日、89歳で亡くなりました」「今日、私の心は重く、私の目はあなたが眠る星々のように光っています」
タケイさんは「私たちは共に長く生き、繁栄しました」という言葉に、2人でバルカン式の敬礼をする写真を添えている。
ニコルズさんは1932年、シカゴ近郊でグレース・デリ・ニコルズとして生まれ、グレースの名が気に入らなかったことから10代の時に自らニシェルに改名した。祖父は米南部出身の白人で、黒人女性と結婚したことで一族に亀裂が生じていた。
4オクターブを出せる歌声に恵まれていたニコルズさんは、14歳になるまでに地元のクラブでパフォーマンスを披露。作曲家のデューク・エリントンに才能を認められ、後のツアーに同行している。
60年代にロサンゼルスに移り住み、後にスタートレックを手がけたプロデューサーの故ジーン・ロッデンベリーの作品に起用された。スタートレックへの出演依頼があったのは、欧州滞在中だった。
ウフーラの名は当初の脚本にはなく、命名したのはニコルズさんだった。本人の回想によると、スワヒリ語で「自由」を意味する「ウフール」という本を読んでいたニコルズさんは、自身のキャラクターにこの名前を採用するよう提案。ロッデンベリーに堅すぎると言われたため、「ではAを付けて柔らかくしたらどう?」と提案すると、「それだ。それを君の名にしよう」とロッデンベリーが応じたと振り返っている。
米女優ニシェル・ニコルズさん死去、「スタートレック」の女性通信士役