イタリア大統領、上下両院を解散 首相の辞任受け

イタリアのドラギ首相=21日/Remo Casilli/Reuters

2022.07.22 Fri posted at 12:23 JST

ローマ(CNN) イタリアのマッタレッラ大統領は21日、ドラギ首相の辞任を受け、議会の上下両院を解散した。総選挙は9月25日に行われる。

マッタレッラ氏は大統領公邸からの演説で、ドラギ氏や閣僚に過去1年半の取り組みに対する感謝の言葉を述べた。

さらに「政治的状況が決まってこの決定につながった」と説明。これまでの議論や前日の上院での投票の様子から「政府に対する議会の支持が失われ、新たな多数派形成の見込みもないことが明白となった。こうした状況から両院の早期解散は不可避となった」と述べた。

上下両院議長との会談後に出した声明では、同国の現状は「立ち止まることを許さない」と言及。市民や企業に大きな影響を及ぼす物価高騰の影響など経済的、社会的危機を抑えるための介入に躊躇(ちゅうちょ)する暇はないと述べた。

ドラギ氏の辞任は、連立政権を組む「五つ星運動」、中道右派の「フォルツァ・イタリア」、極右の「同盟」が政権に対する信任投票を棄権したことを受けたもの。

ドラギ氏は国内で人気が高く、世界各国の首脳からも支持を得ていた。同氏はロシアのプーチン大統領や同国のウクライナ侵攻に対抗する欧州の重要な発言者と位置づけられていた。

政治的なパンドラの箱

ドラギ氏は2021年2月、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への対応を理由に辞任したコンテ前首相の後任として、過去8年間で5人目の首相として就任した。

元欧州中央銀行(ECB)総裁で、欧州債務危機で通貨ユーロを救った功績からファーストネームの「マリオ」にちなんだ「スーパーマリオ」のあだ名もつけられた。自身はどの政党にも属さず、閣僚は様々な党派から構成された。

最近はフランコ経済財務相と連携して、欧州新型コロナ復興基金から2090億ユーロ(約29兆円)の支援を受けるための改革案を準備していた。

だが先週、五つ星運動が生活費危機への経済対策で支持を撤回。さらに同盟とフォルツァが五つ星運動との連立解消の意向を示し、政権は崩壊の瀬戸際となっていた。ドラギ氏は以前、五つ星運動のいない政権を率いるつもりはないと言及していた。

議会が解散となった今、国民は改革案や23年度予算の成立、復興資金からの援助を総選挙まで待たなければならない。

ドイツのショルツ首相、ウクライナのゼレンスキー大統領、フランスのマクロン大統領、ルーマニアのヨハニス大統領らと会談を行ったイタリアのドラギ首相=6月16日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)

ウクライナへの打撃

ドラギ氏はロシアのウクライナ侵攻に対する西側の対応形成で、重要な役割を果たしていた。対ロシア制裁を最も早く唱えた欧州首脳の一人であり、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)や中央銀行を対象とした制裁も提案した。

ウクライナの欧州連合(EU)加盟候補国入りも支援。先月には他の欧州諸国の首脳とともにキーウを訪れゼレンスキー氏と会談し、支援の姿勢を強調した。

一方、イタリア国内では対ロシア制裁やウクライナへの支援に反発が高まっている。

ドラギ氏は辞任前の最後の演説で上院に対して、イタリア政治の混乱はロシアに好機を与えうると警告。「我々の政治や社会にロシアが介入するのを阻止する必要がある」と述べた。

ロシアが注視

イタリアのディマイオ外相は米政治専門サイト「ポリティコ」に、ドラギ氏の政敵はロシアに好機を作り出したとの考えを示し、「ロシアはまた一つ西側の政府が陥落したと祝っている」と語った。

さらに「我々は(ウクライナに)武器を送れるのだろうかと疑問に思っている。多くの重大な問題の一つだ」とも述べた。

権力の座を狙う者の中には、プーチン氏に同調する人もいる。選挙後には同国の対ロ姿勢が変化する可能性もある。

同盟のサルビーニ党首は何度もモスクワを訪れており、赤の広場でプーチン氏の顔が描かれたTシャツを着て自撮りした写真で有名だ。中道右派連合にいるプーチン氏の盟友、ベルルスコーニ元首相も西欧の同盟を揺るがす可能性がある。

イタリアのドラギ首相(右)とマッタレッラ大統領(左)

自国と欧州の頭痛の種に?

ドラギ氏の辞任は、欧州が近年最大の課題を抱え、リセッション(景気後退)入りの危険もある時期に重なった。

EUのインフレ率は先月9.6%で、ユーロ導入国だけでも8.6%に達する。またスペインやフランスで広がる山火事は経済活動の障害となりうる。

イタリアの総選挙入りを受け、投資家からは右派が選挙で支持を広げるのではないかとの懸念が出ており、EUの結束に疑念が生じる状況となっている。

イタリアの中道右派は「イタリアの同胞」党のメローニ党首など欧州懐疑派の人物が率いている。一方、同派連合の中にはEUに対してより柔軟な姿勢を示す政党もある。

民主党はEU支持の姿勢を維持するものの、政権入りはしそうにないと予測されている。五つ星運動は欧州懐疑派とEU支持派から構成されているが、選挙で善戦するとはみられていない。

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