(CNN) 野生動物にとって、道路の横断は困難を極める。米モンタナ州に生息する若いオスのハイイログマ「リンゲンポルター」の場合、46回も試みた末に、ようやく州間高速道路を横断することができた。
研究チームがGPSを装着して調べた結果、リンゲンポルターは2020年秋~21年春の間に、何度も何度も高速道路に近付いては引き返す行動を繰り返していた。
これはリンゲンポルターに限った問題ではない。歩き回る空間を必要とする動物にとって、高速道路は危険な障害物でしかない。横断すれば車にひかれる恐れがあり、横断しなければ行動範囲が狭まって個体群の分断や減少につながる。
この障害を克服するために有効な対策のひとつが、動物たちが歩道橋や道路下のトンネルを使って安全に横断できるようにする「横断歩道」の設置だ。野生生物の生息地を守る活動を行っている団体Y2Yは、米イエローストーン国立公園からカナダ北西部ユーコン地域にまたがる約3200キロの範囲でその取り組みを主導してきた。
「Y2Yが始動した1993年には、野生生物の横断歩道はひとつもなかったが、現在では117になった」。同団体代表のジョディ・ヒルティ氏はそう語る。
今年4月にはカナダ・アルバータ州で、カナダ大陸横断高速道路をまたぐ118番目の横断歩道の起工式が行われた。
全長約8000キロのカナダ横断高速道路は、ハイイログマ、オオカミ、ヘラジカなどの野生動物が生息するロッキー山脈やバンフ国立公園を貫いている。
Y2Yによると、この道路を使う車は1日に2万2000台。観光客が増える夏の間は3万台以上に膨れ上がる。しかし野生生物の生息地に道路が侵入したことで、車と動物の衝突が多発するようになった。
フェンスも野生生物の横断歩道もない約40キロの区間で死んだ動物の数は、Y2Yが記録しているだけでも年間約70頭。けがをした動物は道路から離れて死ぬことも多いため、実際の数はもっと多いだろうとヒルティ氏は話す。
一方、野生生物の横断歩道と道路わきのフェンスを設置した区間では、車にひかれて死ぬ動物が激減した。約88キロの区間に道路下の歩道41本と道路上の歩道7本が整備されたバンフ国立公園の場合、野生生物と車の衝突は80%以上減り、ヘラジカとシカに限れば96%以上減少した。
横断歩道は動物を助けるだけでなく、「人間にとっての安全性も高まる」と語るのは、バンフ国立公園を管理するカナダ公園局のジェシー・ウィッティントン氏。
横断歩道の効果を検証しているウィッティントン氏は、カメラを設置して動物たちが横断歩道を使う様子を観察。ハイイログマやオオカミに装着した発信機でも、横断歩道が長距離を移動する助けになっていることが確認された。
動物たちはすぐに横断歩道の使い方を学習するわけではない。しかし道路沿いに設置したフェンスをつたって横断歩道にたどり着き、やがてクマやオオカミが横断歩道の使い方を覚えて、その知識を次世代に伝えていた。
96年以来、カナダ公園局は、動物たちが横断歩道を使う場面を18万7000回観測した。「横断歩道が機能している証し」とウィッティントン氏は胸を張る。
Y2Yのヒルティ氏は、「私たちのやり方が継続的に採用されることを心から願う。そうすれば人間と自然の両方が繁栄できる」と語り、野生生物の横断歩道が世界中で標準になってほしいと話している。
野生生物のための「横断歩道」 カナダ