最新空母進水も関係なし、中国で懸念すべき「船」とは

中国の3隻目の空母「福建」/Li Tang/VCG/Getty Images

2022.07.01 Fri posted at 06:59 JST

韓国ソウル(CNN) 中国は先ごろ、3隻目となる最新空母を進水させ、海軍の野望を大々的に発表した。

現時点で中国史上最大にして最新鋭、かつ最強の空母「福建」は、世界最大の海軍を目指す中国の軍備拡張の頂点に輝く排水量8万トンの至宝だ。

専門家も言うように、「電磁式カタパルト」などの搭載された最新戦闘システムからも中国が急速に米国との差を縮めていることが分かる。今後はより多くの弾薬を積んだ、より多くの戦闘機を、より迅速に発艦させることができるようになるだろう。

それだけでも、仮想敵国を躊躇(ちゅうちょ)させるには十分だ。日本との東シナ海問題、東南アジア諸国との南シナ海問題で中国が侵略行為をエスカレートし、台湾にも再三にわたって嫌がらせをしている事実を考えればなおさらだ。台湾に関しては、中国は侵攻も辞さないと断言している。

中国がライバル国へのメッセージとして福建を鳴り物入りで送り出したのは明らかだが、誇大宣伝をうのみにするのは早いと専門家は警戒している。

第一に、米海軍の元大佐で、米太平洋軍統合情報センターの作戦責任者を務めたこともあるカール・シュスター氏によれば、福建が就役するまでにはあと3~4年はかかりそうだ。就役した場合でも、あの大きさでは簡単に標的にされるだろう。これほど象徴的な艦船が沈没すれば、中国にとっては軍事的惨事であることはもちろん、士気の低下にもつながることは、どんな敵でも十分承知しているだろう。

また単純な事実として、空母というものは見た目にはインパクトがあるものの、専門家の間で近い将来起こりうる可能性が高いといわれる紛争にとっては必ずしも最適だとは限らない。その例が東シナ海や南シナ海での衝突、台湾の侵略だ。

専門家は、とりわけ福建に関しては、たしかに中国最大の船かもしれないが、おそらく現時点では米海軍司令官にとって最大の問題ではないと言う。

以下、間違いなく米海軍の支配に最大の脅威をもたらす中国所有の4タイプの「船舶」をみてみよう。


055型駆逐艦=2021年10月、西太平洋/Sun Zifa/China News Service/Getty Images

055型駆逐艦

2017年に進水した1万3000トンのステルス誘導ミサイル駆逐艦は、世界最強の水上戦闘艦ともっぱらの評判だ。

北大西洋条約機構(NATO)の基準では巡洋艦に該当するほど大きな055型は、対艦ミサイルから地上攻撃用の長距離ミサイルに至るまで、あらゆるミサイルを発射できる垂直発射筒を112基搭載している。

米シンクタンク「ランド研究所」の上級アナリスト、ティモシー・ヒース氏は18年、CNNに、「とくにこの船は洗練されたデザインで、ステルス機能、レーダー、広いミサイル庫を備えている。日米韓の大半の駆逐艦よりも大型で強力だ」と語った。中国は当時、055型を1日に2隻、進水させた。目覚ましい造船能力の証しだった。

米議会調査局が今年3月に公表した報告書によれば、少なくとも10隻の055型がすでに進水済み、または建造中だと思われる。

台湾問題をめぐって緊張が高まる中、5隻の現役055型のうち、2番目に就役した「拉薩(ラサ)」が軍事演習のために日本海に配備された。このニュースは先ごろ、中国の国営英字紙グローバル・タイムズで大きく取り上げられた。

「台湾問題をめぐって日米が繰り返し中国を挑発する中、この軍艦は運用能力をすべて実現し、台湾海峡で想定される仮想敵国の干渉を抑制できることを証明した」とグローバル・タイムズ紙は報じた。

055型の潜在力は、4月にソーシャルメディアに投稿された映像でも強調された。映像にはミサイル発射の様子が映っていたが、海軍アナリストのH・I・サットン氏によれば、「空母キラー」と呼ばれることも多い超音速対艦弾道ミサイルYJ―21だった。

グローバル・タイムズ紙はこの映像を受け流し、ミサイルは中国の防衛戦略の一環だと述べた。

「米国は台湾問題などで中国を軍事的に挑発しなければ、ミサイルを懸念する必要もない」(グローバル・タイムズ紙)

039型潜水艦

元級潜水艦とも呼ばれるこの潜水艦はほぼ無音のディーゼル・エレクトリック方式で、米軍の作戦立案者が対処に苦しむような能力を備えている。

米国防総省が21年に議会に提出した中国の軍事力に関する報告書によると、中国はすでに17隻の39A/B型潜水艦を建造済みで、今後3年以内に合計25隻にまで増産する計画だ。

「039型は恐るべき『多層防衛』」を中国近海にもたらし、米軍を遠洋に「足止めする能力を開発しているとみられる」とシュスター氏は語った。

南シナ海で演習を行う空母「遼寧」など中国の艦船や潜水艦

この潜水艦は非大気依存推進(AIP)を搭載している。すなわち、ディーゼルエンジンの燃焼に必要な空気を取り込むために何度も水面に浮上する必要がなく、バッテリーで稼働できるのだ。

米軍士官のマイケル・ウォーカー氏とオースティン・クルツ氏は18年、米海軍協会が発行する雑誌「Proceedings」の記事で、「バッテリー運転時のAIP搭載潜水艦はほぼ無音で、シャフトベアリングやプロペラ、船体周辺の水流のノイズしか聞こえない」と記した。

米国防総省の報告書によれば、中国はこの非常に静粛性の高い潜水艦に対艦巡航ミサイルを搭載したものを増産しようと励んでいる。

039型を使った攻撃としては、目標船体の船尾または後部に向かって「航跡追尾」魚雷を発射するという方法が考えられる。魚雷は目標船体の航跡を追跡した後、推進部や操縦部の付近で爆発する。

水上艦は音波を頼りに潜水艦や魚雷を探知するため、航跡追尾魚雷はとくに探知が難しい。

中国の潜水艦の進歩が明るみになったが、米海軍は対潜水艦能力で問題を抱えている。

海軍作戦部長を務めるマイケル・ギルデイ大将は5月、対潜水艦防衛システムが「技術的に機能しなかった」ことを理由に、米海軍艦隊でも最新型の沿海域戦闘艦(LCS)9隻の解体を希望していると議会に語った。


山東省の港に停泊したフェリー/Tang Ke/VCG/Getty Images

商用フェリー

破壊的な海軍能力を考えるとき、ぱっと商船が頭に思い浮かぶことはまずないだろう。だが、中国の力はまさにここにある。

中国が台湾を侵略するためには、数十万人から成る侵攻部隊を輸送しなければならないだろう。中には100万人以上の兵士が必要になると分析するアナリストもいる。

様々なアナリストや米政府の報告書は、人民解放軍(PLA)海軍の艦隊だけではこの任務を遂行できないと結論づけている。

だが中国には、瞬時に軍用に転用可能な民間輸送船が大量にある。すでにそれを想定して設計されている可能性もあると言われている。

「中国最大の造船会社は15年、軍民共用化の目的で、中国最大級のロールオン・ロールオフ船(RORO船)を建造したと公表した。中国トップの輸送業者のひとつも同様に軍民共用開発を理念に掲げていると言われる」。米海軍の元潜水艦司令官で、現在は米シンクタンク「新アメリカ安全保障センター」で研究員を務めるトーマス・シュガルト氏は21年に軍事ウェブサイト「War on the Rocks」のエッセーでこう書いた。

さらにシュガルト氏は、黄海や南シナ海で運航する民間輸送会社はすでにPLAの補助部隊に編制されていると付け加えた。

シュガルト氏いわく、数字を打ち込んでみたところ驚異的な結果になったという。同氏の推定によれば、民間の輸送船を活用した場合、中国の排水トン数は110万トンも増えることになる。これは中国の強襲揚陸艦をすべて足した数字のほぼ3倍だ。シュガルト氏によれば、仮に香港のRORO船も駆り出された場合、中国はさらに37万トンの海上輸送能力を得ることになる。

武力で台湾を占領するには十分だろうか。

その点はなんとも言い難い。だがシュガルト氏は、ひとつの問いに対する答えは出ていると言う。

「中国軍がどれほどの輸送(船)を抱えているのか。予想よりもはるかに多いことはほぼ間違いない」(シュガルト氏)

ウィットサン礁周辺に停泊する中国船=2021年

海上民兵

軍事立案者が警戒するべき民間船舶は、輸送船だけではない。

中国は領海問題における思惑を実行するために、商用漁船とみられる100隻以上の船を集めて海上民兵を設立したことでも専門家から非難されている。

戦略国際問題研究所(CSIS)によれば、海上民兵を構成する船は少なくとも122隻、最大で174隻に上るとみられる。中国政府は海上民兵について存在すら否定している。

だが実際の数字はさらに大きい可能性もある。21年初頭、南シナ海のウィットサン礁周辺に200隻の中国漁船が集結した際、様々な専門家が海上民兵の関与を疑った。中国とフィリピンはいずれもこの海域の主権を主張しているが、フィリピンは中国船の存在を「明らかな挑発行為」と称した。

「人民軍の海上民兵は漁業などしない」とシュスター氏も昨年CNNに語った。「彼らは自動小銃を積載し、船体を強化している。至近距離では非常に危険な存在だ。そのうえ最高速度は18~22ノット前後と、世界の漁船の90%を振り切るほどのスピードだ」

CSISのアジア海洋透明性イニシアチブが昨年11月に公表した報告書によると、海上民兵は大きく2つのグループに分かれる。プロの民兵と、補助金制度を通じて中国軍に雇われた実際の漁船だ。

CSISの報告書によれば、プロの民兵は外国軍の軍事演習の邪魔をしたり、外国漁船を阻止したりといった活動を率先して行い、補助金を受けた漁師は数の上で圧力をかけているという。

世界最大規模の漁船数を抱える中国には、予備艦隊が大勢控えているというわけだ。

あらためて空母「福建」を考える

とはいえ、だからといって福建の進水が大事件でないというわけではない。

米国同様、空母はまもなくPLA海軍の要となるだろう。さらに近代中国軍の能力を象徴する存在にもなるとシュスター氏は言う。

「福建の進水は、直近の限定された影響よりも潜在能力で判断するべきだ。中国はすでに3隻の空母を進水し、そのうち2隻は完全に就役している状態だ。米海軍はその間、新しい艦艇1隻の就役に手こずっている」(シュスター氏)

ここでシュスター氏が言及しているのは、17年の就役以来トラブルに見舞われている米海軍の空母「ジェラルド・R・フォード」だ。すでにその時点で3年遅れだった。

この大型空母はいまだ配備されていないが、今秋には実現すると期待されている。

その間、中国は一歩先を進んでいる。

「彼らは米国や同盟国よりもずっと早いペースで海軍を増強している。不完全だが、基盤としては十分だ」(シュスター氏)

最新空母「福建」が進水 中国

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。