米議事堂襲撃、16日の公聴会での8つのポイント

米連邦議会議事堂襲撃事件を巡る今月3度目の公聴会が開かれた/Drew Angerer/Pool/AP

2022.06.17 Fri posted at 18:30 JST

(CNN) 昨年1月6日に発生した米連邦議会議事堂襲撃事件を調査する下院の特別委員会は16日、今月3度目となる公聴会を開催した。今回詳述されたのは、当時のトランプ大統領がどのようにペンス副大統領に圧力をかけて自らの計画に引き入れ、大統領選の結果を覆させようとしたかだ。さらにペンス氏がそれを拒否したことで、どのように自らの命を危険にさらしたかも明らかになった。2021年1月6日に起きた事件の現場では、暴徒らがペンス氏を縛り首にするよう求める声を上げていた。

公聴会に出席した2人の証人は、ペンス氏が選挙結果を覆す権限を有していないことを本人に助言した人物だった。1人はペンス氏の元弁護士のグレッグ・ジェーコブ氏。もう1人は引退した共和党の連邦裁判所判事のJ・マイケル・ルッティグ氏だ。

一方、委員会が調査したところによると、保守派でトランプ氏の弁護士のジョン・イーストマン氏は、ペンス氏が一方的に選挙結果の認証を阻止できるとの法理論を提示していた。この理論はホワイトハウスの弁護士らによって完全に否定されていたが、トランプ氏はこれを採用した。

公聴会の要点を以下にまとめる。

トランプ氏、計画は違法と告げられるも断行

多くの事実が明らかになったが、おそらく最も重要なのは次の点だ。トランプ氏はペンス氏に選挙結果を覆させる1月6日の自身の計画が違法であることを再三告げられていたにもかかわらず、それをとにかく実行に移そうとした。

証人によれば、ペンス氏本人と計画を企てた弁護士はトランプ氏に対し、計画が違憲であり連邦法に違反していると直接伝えていた。委員会のメンバーは、ここにトランプ氏の汚れた思惑が表れていると主張。起訴に持っていくための土台になり得ると指摘する。

16日に再生された動画の中でペンス氏の首席補佐官を務めたマーク・ショート氏が宣誓証言したところによれば、ペンス氏は「何度も」トランプ氏に対し、自分には選挙結果を覆す法律上もしくは憲法上の権限がないと告げていた。ペンス氏が議長を務めた1月6日の議会合同会議では、選挙人投票の集計が行われていた。

計画を考案し、トランプ氏に勧めたイーストマン氏でさえ、トランプ氏の前で計画の履行にはペンス氏が連邦法を破る必要があると認めている。ペンス氏の上級法律顧問のジェーコブ氏が明らかにした。

さまざまな政治的立場をとる法学者らも、イーストマン氏の計画は不合理だとの認識で一致している。


米連邦議会議事堂襲撃事件を巡る今月3度目の公聴会が開かれた/Drew Angerer/Pool/AP

ペンス氏への圧力と議事堂襲撃を結び付ける委員会

委員会は、ペンス氏に圧力をかけるトランプ氏の運動と1月6日の暴力とを結び付けるべく、ペンス氏の側近の証言やトランプ氏の公式声明、議事堂に侵入した暴徒のコメントを合わせて公開した。

最も説得力のある証拠のいくつかは、暴徒ら自身からもたらされた。

彼らの多くは、トランプ氏による集会での(不正確な)主張を聞いていた。つまり選挙は自分に不利になるように操作されており、選挙人投票を認証する立場のペンス氏にはそれについて何らかの行動を取る権限があるという主張だ。議事堂への襲撃が始まった時、彼らはペンス氏を巡るトランプ氏のコメントを口にしていた。

さらに多くの暴徒が、ペンス氏を批判するトランプ氏のツイートをリアルタイムで目にしていた。その中でトランプ氏は、ペンス氏には「勇気がなく、するべきことをしなかった」と述べている。

16日の公聴会でこれを強調する目的は、暴力の責任をトランプ氏に負わせることにある。襲撃事件直後は共和党指導部の多数がそうした結論に同意していた。しかし1年半が過ぎ、多くの共和党議員はトランプ氏を非難するのに尻込みしている。そうした状況を変えたいというのが委員会の狙いだ。

委員会はトランプ政権でホワイトハウスの弁護士を務めていたエリック・ハーシュマン氏の宣誓証言動画を流した。その中で同氏は、イーストマン氏との間で副大統領が選挙結果を覆せるとの主張について言葉を交わしたと説明。もしそんなことを実行すれば「街で暴動が起きる」と警告したハーシュマン氏に対し、イーストマン氏は「過去にも我が国の歴史には暴力が存在してきた。民主主義や共和国を守る目的で」という趣旨の返答をしたという。

また、当時ホワイトハウスの副報道官だったサラ・マシューズ氏は宣誓証言の動画で、トランプ氏のツイートが状況の激化につながったと述べた。

「彼が火に油を注いでいたような感じだった」(マシューズ氏)

証言前に宣誓を行うG・ジェーコブ氏(左)とJ・M・ルッティグ氏

ペンス氏への危険が現実のものに

委員会はペンス氏が実際に危険な状態に陥っていた点を強調。その責任はトランプ氏にあるとした。

当時、暴徒らはペンス氏から12メートルほどのところまで到達。名指しで脅迫の言葉を発し、選挙結果を覆さなかったことに対する怒りをあらわにしていた。彼らが信じていたのはトランプ氏の虚偽の言説で、それによればペンス氏は選挙人投票でのバイデン氏の勝利を無効にできることになっていた。

委員会が公開した新たな動画には、暴力が繰り広げられる中で地下の掩蔽壕(えんぺいごう)に避難するペンス氏の姿が映っている。

選挙結果転覆に固執するイーストマン氏

公聴会では、イーストマン氏がいかに繰り返しペンス氏に対して選挙結果の転覆を試みるよう迫っていたかも明らかになった。ホワイトハウスの弁護士やペンス氏のチームからの強い抵抗に遭おうとも、その姿勢は変わらなかった。

議事堂襲撃後も、イーストマン氏は選挙結果の確定を阻止しようと努めた。そうした行動は多くの面でトランプ氏にも重なる。トランプ氏もまたペンス氏の拒絶を受け入れず、演説やツイッターで同氏を厳しく非難した。

宣誓証言の動画では、複数のホワイトハウス当局者が1月6日以前の時点でイーストマン氏の言説をいかに「ばからしい」ものと考えていたかを説明。ジェーコブ氏はイーストマン氏の計画について、「まさしく狂気の沙汰」との見方を示した。

襲撃後、大統領恩赦についてジュリアーニ弁護士にメール

委員会が16日に明らかにしたところによると、イーストマン氏は議事堂襲撃から数日後、トランプ氏の元弁護士のルディ・ジュリアーニ氏に電子メールを送り、大統領恩赦の対象者リストに加えてもらえるよう求めていた。

イーストマン氏が最終的に恩赦を受けることはなかった。また大統領選の結果を覆そうとする中で果たした自身の役割について、委員会の質問に答えることも拒否。宣誓証言では再三にわたり黙秘権を主張した。

委員会は公聴会の中で、イーストマン氏による恩赦の要求や度重なる黙秘権の主張に言及。自らの行動が犯罪になり得ると理解していたことをうかがわせると指摘した。

引退した判事のルッティグ氏は、ペンス氏の非公式のアドバイザーも務める

スター不在の公聴会

16日の公聴会には花形となるべき1人の人物の姿がなかった。ペンス前副大統領その人だ。

委員会はペンス氏をヒーローに位置付けた。同氏がトランプ氏の圧力に屈していたなら、米国の民主主義は混乱状態に陥っていただろうというのがその理由だ。

今年に入り、委員会のベニー・トンプソン委員長はペンス氏自身に証言を求める意向を示唆していた。ただペンス氏が委員会の前、とりわけ公開の場に姿を現すという見通しは、常々控えめに言っても大きな賭けととらえられていた。

16日の公聴会にはペンス氏の元顧問2人が出席。前出のショート氏は非公開の場所でカメラ越しに証言した。これはペンス氏が自身の代わりに側近が当時の状況を共有するのを特に阻止しようとはしていない姿勢の現れと言える。

憲法講義の場と化す一幕も

引退した連邦判事のルッティグ氏の証言は、これまでのものと趣が異なった。長く、とりとめのない内容で、話題は「選挙人集計法」の歴史といった問題にまで及んだ。

同氏のコメントは基本的に、ゴールデンタイムに視聴したい内容とは対極にあった。ただその論点により、イーストマン氏とトランプ氏が推し進めた法律上の計画がいかに根拠のないものだったかが示された。さらにトランプ氏が1月6日以前からそれについて告げられていたことも明らかにした。

これらの論点は委員会にとって絶対不可欠なものだった。委員会は訴訟を通じて、トランプ氏の選挙結果転覆の取り組みを暴力と結びつけようとしている。

危険にさらされる米国民主主義

ジェーコブ氏はトランプ氏の計画について、「我が国の民主主義におけるあらゆるものと正反対のところに位置する」と強調。実現していれば国家をかつてないほどの憲法上の危機へと叩き込んでいただろうと語った。

ルッティグ氏は、トランプ氏が「米国の民主主義に対する明白かつ現在の危険」をもたらしていると指摘。この結論に至ったのは、トランプ氏とその同調者らが今なお2020年の大統領選にまつわる虚偽の発言をしているからだと説明した。彼らが推薦する候補者もこうした虚偽を広めており、撤回する兆しは見られないと述べた。

委員会は法制に関する立案を進めることで旧来の選挙法を明確化する方針を表明。トランプ氏とイーストマン氏が利用しようとした抜け穴をふさいで、権力の移譲を保護するとした。

こうした法案の一部を通過させることには党派を超えた関心が寄せられているが、実際に法律として成立させるのに十分な支持が得られるかどうかはいまだ不透明だ。中間選挙が迫る中、時間は無くなりつつあるかもしれない。

ペンス氏の間近に到達、米議会に侵入した暴徒

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