黒海の小島スネーク島、ウクライナ戦争で重要な役割

今回の戦争を象徴する戦場の一つとなったスネーク島。戦略的にも極めて重要な島だ/Maxar Technologies/Reuters

2022.05.14 Sat posted at 19:00 JST

(CNN) 黒海に浮かぶ小島スネーク島。岩と草地からなる面積わずか0.18平方キロの島で、淡水はない(蛇もいない)が、ウクライナとロシアの紛争で象徴的な重要性を帯びるようになった。

ウクライナ語で「ズミイヌイ・オストリフ」と呼ばれる同島はウクライナの沖合およそ48キロ、ボスポラス海峡や地中海に通じる海上交通路の近くに位置する。

ロシアがスネーク島の領有権を主張したことは一度もない。同島はロシア本土から遠く離れており、ロシアが2014年に併合したクリミア半島からの距離も290キロを超える。地理的にも歴史的にも、ロシアが自国の領土と主張するのは不可能だ。

だが、歴史がどうであれスネーク島には戦略的な価値があり、ロシアは明らかに同島を簡単に奪取できると考えていた。ウクライナは戦前から同島の脆弱(ぜいじゃく)性を認識しており、ゼレンスキー大統領は昨年、島の重要性を強調するため有権者のいない同島を空路で訪問した際、「この島は我が国の他の領土と同じくウクライナの土地だ。われわれは全力で防衛する」と語った。

ロシアは2月下旬の戦争初日にスネーク島の制圧を試みた。今や有名となったウクライナの守備隊とロシア海軍の間のやり取りがあったのはこの時だ。投降を命じられた島の少数の守備隊が無線で「ロシアの軍艦、くたばれ」と言い返し、ウクライナの抵抗を象徴する言葉になった。

島への攻撃を捉えたとみられるウクライナ軍公開のドローン動画

だが、スネーク島には象徴的な重要性にとどまらない役割がある。ロシアによる支配の既成事実化を許せば、ウクライナはオデーサ港と他地域を結ぶ海上交通路の自由を保証できなくなる。ウクライナの豊富な農産物の大半はオデーサを通じて世界市場に輸出される。

ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は13日、スネーク島を押さえた者がウクライナ南部の制海権と一定の制空権を握ることになると指摘。「この島を掌握した者は、ウクライナ南沖のあらゆる方向に向かう民間船の動きをいつでも阻止できる」とも述べた。

それゆえ、ウクライナはたとえ直ちに島を奪還できなくても、ロシアの支配を許さない姿勢を鮮明にしているのだ。

ここ10日間に実施した一連の攻撃では、ウクライナ軍のドローン(無人機)などの兵器が、島でのプレゼンス強化を試みるロシア軍を攻撃した。

12日の衛星画像には、同島唯一の埠頭(ふとう)の近くで沈没した揚陸艦が写っているほか、ウクライナは付近の哨戒艇2隻も攻撃したと主張している。

白い煙が立ち上るスネーク島の衛星画像

また先週末の別の衛星画像には、同島から立ち上る2筋の煙が捉えられていた。うち一つはロシアの海兵隊員を運んできたMi8ヘリから出た煙と見られており、ウクライナ軍が公表したドローン動画によると、ミサイル攻撃の標的となったもようだ。ウクライナ軍はこのほか、島に設置された対空設備が攻撃を受ける映像も公開した。

オデーサの地方軍政当局は12日、ロシアの支援艦「フセボロド・ボブロフ」が炎上し、スネーク島一帯からセバストポリにえい航されたと主張。CNNはこの主張を検証できておらず、ロシアは同島周辺での損害発生を否定している。

それでは、なぜロシアはスネーク島の支配維持にこれほど力を注いでいるのだろうか。それは同島が電子戦能力や対艦能力を搭載した不沈空母になりうる潜在力を秘めているからに他ならない。ウクライナ国防省は12日、ロシアは黒海北西部、とくにオデーサ方面におけるウクライナの海上能力などを封じるため、同島の陣地の強化を試みているとの見解を示した。

ブダノフ氏はまた、ロシアがモルドバにある分離派支配地域トランスニストリア(沿ドニエストル)でのプレゼンスを強化したい場合にも、スネーク島は有用になりうると指摘した。トランスニストリアは親ロシア政府の支配下にあり、ロシア兵1500人あまりが駐留する。

実はスネーク島をめぐる争いは以前にもあったが、それはあくまで法廷での争いだった。ルーマニアとウクライナは長年、同島や炭化水素資源埋蔵の可能性がある周辺海底をめぐり領土争いを続けていたが、国際司法裁判所が2009年に同島の地位について判断を示し、両国の排他的経済水域(EEZ)の境界を画定した。

今回の場合、スネーク島の運命が法廷で決まる可能性は極めて低いとみられる。

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