北京への渡航、かつてないほど困難に ゼロコロナ対策強化で

新型コロナウイルスの検査を行う看護師/STRINGER/REUTERS

2022.05.03 Tue posted at 17:21 JST

中国・昆明(CNN) 中国首都の北京市では現在、新型コロナウイルスの感染対策として一部でロックダウン(都市封鎖)が行われているが、首都の全面封鎖にもつながりかねない。だが、住民2100万人を対象とした検査、学校や一部ショッピングモールの閉鎖など、政府が規制を強化する中、筆者は北京に行こうとしている。

その週に出航する東京発北京行きの直行便は皆無だった。運航している最短ルートは中国南部、北京からおよそ1600マイル(2600キロ)離れた雲南省の昆明行きだった。そこで21日間の隔離を受けることになるが、隔離を受けたとしても北京への立ち入りが認められる保証はない。

厳格な水際対策、即座のロックダウン、集団検査といった中国政府の戦略は、パンデミック(世界的大流行)初期には有効な感染対策だった。だが感染力の高いオミクロン株はさらに難問を突き付けている。

昨年12月中旬以降、中国の1日の平均感染者数は2桁から2万人以上に急増した。CNNの計算では、少なくとも国内27都市で部分的または全面的なロックダウンが敷かれ、約1億8000万人の生活に支障が及んでいる。

中国最大級の金融都市である上海では、最も厳格な措置がいくつか実施され、2500万人の住民は1カ月以上も居住区域から出られずにいる。取り締まりの厳しい中国のインターネットにも募る不満があふれかえっている。

食料が不足し、医療サービスも受けられず、陽性判定者は劣悪な環境の仮設隔離施設に入れられる。こうした状況に対して沸き起こる怒りを政府は必死になって抑え込もうとしている。権威主義の中国では珍しい光景である抗議デモまで勃発し、市民と警察の衝突が繰り広げられている。

上海と比べると、北京の感染者数は依然として少ない。先月29日の感染報告件数は34件で、今回の感染の波で報告された総数は228件にのぼる。

だが中国は楽観視することなく、政治の中心地でのウイルス拡大阻止を図っている。

中国への渡航

今回の中国行きは、今年2月に世界一厳格なコロナ対策の中で開催された冬季オリンピック(五輪)の時よりも困難だった。当時は遮蔽(しゃへい)物や隔離期間、定期的な検査など徹底した管理体制を敷いて、役員やメディアや選手を中国の一般大衆から切り離していた。

現在では中国入国にあたり、政府公認の診療所で出発の7日前に1回、次いで出発前48時間以内に2回、合わせて3回分のPCR検査の陰性証明を提出しなければならなかった。

機内ではフライトアテンダントが全員防護服を着ていた。昆明空港の職員も同様だった。着陸後、乗客は全員ただちに検査を受けるよう指示された。鼻咽頭(いんとう)ぬぐい液での検査は涙が出た。

検査のために列を作る会社員=4月28日

筆者が乗った便の乗客はほとんどが中国のパスポートを持っていたようだ。

外国人はごく限られたケースしか入国が認められない。特に米中関係の悪化により、米国人ジャーナリストが中国の入国ビザを取得するのは極めて困難だ。昨年11月に行われたバイデン大統領と習近平(シーチンピン)国家主席の会談を受け、両国は双方のジャーナリストに対するビザ規制を緩和することで合意した。筆者も年明け、何度も面接を受けた末にビザが下りた。

だがそれでも筆者が米国籍のパスポートを手渡すと、入国管理局の職員は数分間ページをめくったあと、「警察」の文字が書かれた防護服の集団を呼んだ。どうやらあの便で脇に呼ばれたのは筆者だけのようだった。

その後別室に案内されて尋問を受けた。職業や私生活について長々と尋問を受けた末、ようやく入国管理と税関に進むことが許可された。

入国管理をパスしたあと、隔離用のホテルに向かうバスを待つ間、隣に並んでいた男性に話しかけた。男性は上海出身で、この30年は日本に住んでいるという。パンデミックが発生してからは一度も帰省していなかったが、入国後に21日間の隔離を受けてでも上海に住む年老いた母親を訪ねようと決心したという。上海は数週間にわたるロックダウンの真っ最中。男性に残された道は唯ひとつ、雲南に飛んで状況が回復するまで待機するしかなかった。

中国の国家衛生健康委員会は4月29日、上海で「ゼロコロナ」政策による効果が見え始めたとし、中国全土の感染者数も減少傾向にあると述べた。

ホテルでの21日間の隔離

バスの車内は満席で、荷物は通路に山積みにされていた。車窓から人口660万人の昆明市の夜景が流れていく。明るい照明がビルや高速道路を照らしていた。

バスに揺られること2~3時間、温泉リゾートを改装した隔離施設に到着した。防護服を着た職員の案内で部屋へ向かった。

翌朝になって、窓から絶景が望めることに気が付いた。緑の木々と山々が、地平線の向こうに点々と広がっている。雲南省の省都である昆明は人気の観光地だ。景勝地として、また茶葉の生産地としても名高い。

部屋にはバルコニーがあったが、外に出ることはできなかった。だが景色が見えるのはありがたい。なにより窓を開けて新鮮な空気を吸えるのはうれしい。隔離施設の中には、窓の開閉が禁止されているところもある。

ドアを開けることができるのは検診と食料の受け取りのみ。検温は1日2回、検査も定期的に行われる。時には1日2回検査を受けることもあった。

中国・昆明で隔離を受けているセリーナ・ウォン記者

食事のデリバリーはできないが、隔離費用には1日3食の食事が含まれている。ただし、どのホテルに案内されるかによって変わってくる。しかも隔離施設は選べない。

食事はプラスチック容器に入ったものが1日3回、ドアの前に置かれた椅子に届けられた。ご飯と米、スープ、肉と野菜の炒め物というのが定番だった。間食には東京から持参した軽食を食べた。隔離施設の食事がお粗末だという話を聞いていたが、幸い筆者のホテルでは食事は気にならなかった。

客室には冷蔵庫も電子レンジもなく、ランドリーサービスも提供されなかった。支給されるタオルは21日間を通して1枚だけ。筆者はエクササイズ用にヨガマットと縄跳び、ウェートトレーニングの道具を持参していた。気温はカ氏85度(セ氏30度)と暑かったにもかかわらず、感染が広がるのを懸念して、ホテルのエアコンは作動していなかった。

この先も陰性判定が続いたとしても、北京にはたどり着けないかもしれない。北京で全面的なロックダウンが敷かれれば、フライトは全便欠航になるだろう。

今回の感染拡大の前でさえ、中国国内の「感染リスクが高い」地域から来た人々は北京市内の政府隔離施設でさらに14日間の隔離を義務付けられていた。幸い雲南は今のところ危険地域には該当していない。感染リスクの低い地域から来た国内訪問者は、少なくとも7日間自宅待機して健康状態を監視される。

中国当局は、ゼロコロナ政策のおかげで中国では感染死者数の増加を防ぐことができたとし、高齢者や子どもなど脆弱(ぜいじゃく)な人々へのワクチン接種の時間を稼ぐためだとして、政策を強化している。

国家衛生健康委員会の李斌副主任は29日、「コロナ対策がなかったら大人数が感染して重篤患者や死者が増加し、医療制度のひっ迫を引き起こすだろう」と語った。

だが批判的な人々は、ゼロコロナ政策は科学よりも政治のためだと言う。

習主席は直々に「ゼロコロナ」にお墨付きを出し、政府関係者もしばしば感染死亡率の低さを引き合いに出して、中国の制度が欧米より優れていると主張してきた。だが欧米ではワクチン接種率の上昇に合わせて規制が緩和されている。

だが中国では一向に変化の兆しが見えず、人々は次第に疲弊している。

パンデミックも3年目に突入したが、中国はいまだコロナとの共存を拒んでいる。代償がどれだけ大きかろうと、1人の感染者も許されない。

中国入国の厳しさは、記者が体験

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。