親を失いロシアが情報戦に利用 ウクライナ少女、困難乗り越え祖父と再会

マリウポリから徒歩で逃げる際に地雷で負傷したキラ・オベディンスキーさん/Courtesy Oleksander Obedinsky

2022.04.29 Fri posted at 16:44 JST

ウクライナ・キーウ(CNN) ウクライナの戦争で親を失い、3月に親ロシア派が支配する東部のドネツク地方に連れて行かれたマリウポリの少女が、大きな困難を乗り越えて祖父と再会を果たし、首都キーウ(キエフ)にたどり着いた。

祖父と再会を果たしたのはキラ・オベディンスキーさん(12)。27日にCNNの取材に応じ、自身の経験を振り返った。

看護師によると、キラさんが地雷の破片を浴びて負った顔や首、両脚の傷は回復に向かっているという。しかし顔面の傷や内気な様子は心と身体に負った傷の深さを物語っていた。


マリウポリから徒歩で逃げる際に地雷で負傷したキラ・オベディンスキーさん/Courtesy Oleksander Obedinsky

キラさんは生後2週間で母親をなくし、父は今年3月、ロシア軍がマリウポリを砲撃する中で死亡した。

父の死の数日後、マリウポリから避難しようとしたキラさんは、地雷の爆発によって負傷。ロシア語を話す兵士によって、ドネツク地方の病院に搬送された。

キラさんは「(ロシア)軍が走ってきて、2台の車を止めると、私たちをマンフシュへ連れて行き、出血していたので病院に運んだ。それからドネツクの別の病院へ私たちを連れて行った」と振り返る。

祖父のオレクサンデル・オベディンスキーさんによると、キラさんが入院した病院からは、キラさんはいずれロシアの児童養護施設に送ると告げられ、もう二度と孫娘には会えないかもしれないと思ったという。

1カ月以上ぶりの再会は、ウクライナとロシアの交渉を通じて実現した。

祖父のオレクサンデルさんはドネツクまで訪れキラさんと再会した

ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、病院を訪れてキラさんに面会し、タブレット端末のiPadをプレゼントした。

オレクサンデルさんはゼレンスキー大統領に感謝の気持ちを伝え、「(再会がかなうとは)誰も信じなかった」とCNNに語った。

キラさんを取り戻すのは簡単ではなかった。メディアでキラさんの窮状が報じられると、ウクライナ政府は、合意に基づきオレクサンデルさんがキラさんを迎えにドネツクを訪問できることになったと告げた。

オレクサンデルさんは直ちに出発した。指示された通り、列車でポーランドに行ってトルコ行きの航空便に搭乗し、便を乗り継いでロシアのモスクワに到着。そこから列車でロシア南部のロストフに向かい、車でドネツクに入って、ついにキラさんと再会した。4日間の行程だった。

何度も固く抱き合った2人は、同じ行程をたどって無事、キエフに戻った。


祖父とともに写真に納まるキラさん。戦争以前に撮影/Courtesy Oleksander Obedinsky

オレクサンデルさんによると、キラさんと再会できたのは23日。3月10日に会って以来だった。ウクライナ政府の助けがなければ、2人とも安全は保証されなかっただろうと話している。

キラさんはドネツク滞在中、ロシア国営メディアのインタビューを受け、祖父と電話ができたとうれしそうに話す様子が放送された。ロシアのテレビ局によると、この映像は、キラさんが拉致されたのではないことを裏付ける「証拠」だった。

しかしキラさん本人が語る状況は大きく異なっていた。CNNの取材に対してキラさんは「ひどい病院だった」と振り返り、「食事はひどかったし、看護師は怒鳴り散らしていた」と語る。

身体に刺さった破片を取り除く処置を受けた時の痛みについては「夜間に救急車でドネツクに搬送され、耳に刺さった破片を夜間に取り除かれた。耳の中で処置されるのを感じて私は悲鳴を上げ、ものすごく泣いた。顔も、首も、両脚も」と振り返った。

ロシア軍に包囲されたマリウポリでの出来事についても証言した。キラさんによると、砲撃が続き、爆発音が鳴り響く中、父の交際相手だった女性の自宅で身を潜めていたという。

戦争前のキラさん

自分たちの家は3月16日に砲撃されて一家は地下室に閉じ込められ、近所の人ががれきの中から助け出してくれたという。父は姿を現さなかった。キラさんは父の交際相手の女性やその子どもと一緒に別の地下室に避難し、3日後にマリウポリからの脱出を試みた。

避難する途中で地雷につまずいたのは、キラさんの友人だった。友人は両耳から血を流し、家族の友人の飼い犬が爆風の大半を浴びた。一行は命は助かったものの、破片を浴びて負傷した。

そこへ爆発音を聞いたロシア軍が到着し、一行を車に乗せるとマンフシュの病院に搬送して応急手当てを受けさせ、そこから救急車でドネツクの別の病院に運んだ。ここで一行は離れ離れになり、キラさんは1人になった。

キラさんは今、キーウの病院で新しいiPadを使ってゲームを楽しみ、音楽再生アプリをダウンロードしたいと何気なく話す。

キラさんは世界中の注目を集めたことで、大統領が動き、祖父との再会を果たすことができた。

しかしゼレンスキー大統領にとってキラさんは、ロシアが支配する地域に強制連行されたとする大勢の子どもたちの1人にすぎない。ロシア側は強制連行の事実はないと否定している。

ゼレンスキー大統領はキラさんと面会した26日、「子どもたちは我々の未来だ。我々は、ウクライナの子どもを全て取り戻すまで戦う」と強調した。

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