偽の「住民投票」を前に住民が多数脱出 ロシア占領下の南部ヘルソン

破壊された家/CNN

2022.04.27 Wed posted at 19:26 JST

ウクライナ・クリビーリフ(CNN) ウクライナ南部の地方部では一日中、野原や川を越えて移動する人の流れが絶えず、夜になるとその人数は膨れ上がる。徒歩や自転車、手押し車で移動する人の姿が目立つ。

避難者らはロシアに占領された故郷ヘルソンから脱出しようと必死で、市外に逃れるためなら危険を伴っても、どんな道を通ることもいとわない。

そこから100マイル(約160キロ)あまり離れたゼレンスキー大統領の故郷クリビーリフでは、地元当局者が移動してきた人々を歓迎していた。

ある男性とその息子は、2人の妻で母親だった女性が爆弾で背骨や背中を負傷して死亡したと話す。

比較的安全なこの場所でも、後に残してきた家族がロシアに狙われるかもしれないとの恐怖心から、父子は身元を公表したがらなかった。

「もしロシア人が私たちとわかれば、ヘルソンに残された人を全員射殺するだろう」。息子はCNNにそう語り、「徒歩で川を越えて逃げてきた」と明かした。


クリビーリフに避難した人々が寄付された服を見る/CNN

ヘルソンは戦争開始当初、侵攻するロシア軍によって真っ先に占領された。同市周辺の占領地域ではこの1週間、ロシアによる第2段階の攻勢だけでなく、27日に迫った住民投票に対しても恐れが広がっている。

ウクライナ側はこの投票について、「ヘルソン人民共和国」と呼ばれる新機構への住民の支持を示そうとするロシアの企てだと指摘する。現地では「偽の住民投票」との見方が広がっている。新機構はウクライナ東部ドンバス地方にある同様の機構と似たものになるとみられている(ロシア政府はプーチン大統領が独立を承認した後、これらの自称「共和国」に軍を派遣し、ウクライナでの戦争を開始した)。

地元や国の複数の当局者はCNNに対し、投票は27日に予定されていると語った。

オレクサンドル・ビルクル氏はウクライナ軍が約7000人の前線からの避難を支援したと語る

ただその前日になり、ロシアの支援を受ける当局者がヘルソンの「新政府」の顔ぶれを発表したことから、観測筋の間では、こうした新人事を優先して住民投票が延期された可能性もあると指摘されている。

差し迫る投票や、それによりロシアの支配が強化される可能性を恐れ、多くの住民は急いで脱出した。

クリビーリフの軍事行政当局トップを務めるオレクサンドル・ビルクル氏はCNNに対し、ウクライナ軍は100マイルに及ぶ前線の一帯から約7000人を避難させることに成功したと語った。

「人々は占領下で暮らすことを望んでいない。そんなことは不可能だ」(ビルクル氏)

ヘルソンを脱出するルートや周辺の村には危険が潜む。

この1週間、いったん脱出に成功したヘルソン住民が再度ロシア軍に妨害され、長い車列(地元住民は数百台に上ると推定する)が占領下の町スニフリッカに向かうことを余儀なくされた。

ヘルソン住民が撮影し、CNNが確認した別の動画には、同市の北東からクリビーリフに向かう別の道路で長い車列が立ち往生している様子が映っている。

当局者によると、キリスト教東方正教会のイースター(復活祭)に当たる先週末、避難のペースは上がっていた。それが26日、ロシアの検問所が占領地域からの通過を許可しなくなったことを受け、ペースが鈍化。死に物狂いの避難者の中には、車を捨てて野原を徒歩で歩く人もいたという。

安全上の理由から匿名を希望したヘルソン出身の母親はCNNに対し、投票前に「できる限り早く」2人の息子と娘1人を連れ出したと語った。住民投票後には18~60歳の男性が徴兵されるとの恐れがあるという。

「私たちは完全な占領下にある。食料もお金も何もない。ロシア人は住民投票を行って子どもたちを連行するはず。私の息子は18歳で、使い捨ての兵士として連れて行かれるだろう」。この女性は2回脱出を試みた。1回目はロシア軍が避難車列に向けて発砲したという。

一方、クリビーリフにある活気あふれたホールでは食料や医薬品が配給され、避難者は寄付された服も手に入る。この安全な空間の中で、避難者らが占領の恐怖と残虐さについて口を開いた。

ヘルソン州の村に妻と子どもを迎えに行ったという首都キーウ(キエフ)在住のミハイロさんは、村に入った後、数日にわたってロシア兵から拷問を受けた。

キーウ在住のミハイロさんは、ヘルソン州の村から妻と子どもたちを連れ出しにいったところ、捕らえられて殴られたと語った

ミハイロさんによると、兵士らは従軍経験のあるウクライナ人男性を探しており、建設業界で働くミハイロさんの荒れた手を見て軍人だと勘違いした。

ミハイロさんは地下で拷問を受けたと証言し、負傷を裏付ける医療記録をCNNに見せてくれた。

自身を殴った2人のうち、「1人が銃を取り出した」とミハイロさん。「本物だった。撃鉄が起きているのを見た。銃弾2発が発射され、コンクリートの壁に当たった」と語る。

「模擬処刑」の後、今度は別の兵士2人が入室してきた。

「彼らは口数が少なく、酔っていた。1人はボクサーだったようで、同じ部位を何度も殴られた。肋骨(ろっこつ)を6本折られ、肺が破裂した」

自分から軍事情報を聞き出せると信じて疑わない兵士らに与えた答えを振り返るとき、ミハイロさんは思わず笑い声になった。村と隣の街の間には少なくとも150の検問所がある、クリビーリフの南の農村部にはほとんど道がなく、ただ泥と野原が無限に広がるばかりだと、答えたという。数日後、両親が来てミハイロさんは解放された。

ヘルソンから脱出する理由は住民投票ばかりではない。ヘルソンの北と東に広がる農村地帯にロシア軍が進撃したことも、住民の北への移住を加速させている。

CNN取材班はヘルソンの南の村やその周辺で、2日間にわたり砲撃の影響を目の当たりにした。地元住民らは2カ月目に入った戦争の間、これまで誇りを持ってとどまっていた村から逃げ出さざるを得なくなっている。

コチュベイブカ村では74歳の母親の避難を手伝っていた男性が車を止め、自身の集落ではこの2時間の間に砲撃が激しくなったと明らかにした。

「村に残りたかったが、グラートロケット弾で状況が変わった」と語り、この攻撃で女性1人が負傷したと証言した。

かつて牧歌的な雰囲気だったウクライナ南部の地方部はいまや避難ルートになり、ゆったりとした時間が流れる生活は一変した。ロシアの侵攻の結果、住民が数十年前から知っていた風景はものの数時間で変えてしまった。

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