戦争で親を失い負傷したウクライナの12歳少女、ロシアが情報戦に利用

マリウポリから徒歩で逃げる際に地雷で負傷したキラ・オベディンスキーさん/Courtesy Oleksander Obedinsky

2022.04.18 Mon posted at 17:05 JST

(CNN) ロシア軍がウクライナで戦争を始めるまで、キラ・オベディンスキーさんは明るく、誰からも愛される12歳の少女だった。しかし親を失い、けがをして、ロシアに占拠された南東部マリウポリの病院で一人ぼっちになった今、ロシア政府の情報戦争に意図せず利用される存在になっている。

母親はキラさんがまだ幼い頃に亡くなった。水球のウクライナ代表チーム主将だった父のイエウヘン・オベディンスキーさんは3月17日、ロシア軍がマリウポリに侵攻する中で銃撃されて死亡した。

数日後、キラさんと父の交際相手だった女性は近隣の人たちと一緒に徒歩でマリウポリから脱出しようとした。しかしキラさんは地雷の爆発で負傷して、親ロシア派の分離独立勢力が支配するドネツク地方の病院に搬送された。

キラさんの祖父オレクサンデルさんは、もう2度と孫に会えなくなることを恐れている。ドネツク地方で独立を宣言した政府からの電話では、ドネツクまで孫を迎えに来るよう促されたが、戦争の中でそれは不可能だった。

病院に電話すると、キラさんはいずれロシアの児童養護施設に送られると告げられた。

ロシア政府は、ウクライナ人少なくとも6万人を助けてロシアに避難させたと発表している。一方ウクライナ政府は、約4万人が意思に反してロシアに連行されたと述べ、拉致・強制連行と形容していた。

戦争前のキラさん

国連難民高等弁務官事務所によると、ロシア軍がウクライナ侵攻を開始した2月24日以来、ウクライナ難民43万3000人以上がロシアに到達した。

ウクライナ当局者は、ウクライナの領土に通じる安全な避難ルートがロシア軍に封鎖され、何千人もの人がロシア領に強制連行されて、意思に反してロシアのへき地に送られたとしている。

ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領はCNNの取材に対し、ロシア軍がマリウポリから避難する人をロシアに強制連行していると訴え、「数千人、数万人が強制的にロシア連邦の方へ避難させられた。居所は分からない。書類の痕跡は残さなかった」と説明。「その中には数千人の子どもがいる。彼らがどうなったのか知りたい。元気にしているのか。残念ながら、それに関する情報は何もない」と語った。

一方ロシア側は、強制連行されたという主張は虚偽だとして非難、人々をロシアに「避難」させる取り組みをウクライナが妨害したと主張している。

しかしCNNが取材したウクライナの人たちは多くが、ロシアへ行くか、死ぬかの二者択一を迫られたと証言。マリウポリの住民やその家族を含む10人の取材では多くが、ロシア軍とドネツク人民共和国(DPR)の兵士が防空壕(ごう)にやって来て、即刻退去するよう命じたと話している。

自分たちがどこへ連れて行かれるのかは、誰も知らなかった。5人はその後ロシアへ送られ、3人は脱出できた。

祖父とともに写真に納まるキラさん。戦争以前に撮影

ウクライナや米国のほか、独立系の人権団体の報告でも、ロシア軍や分離独立勢力の部隊はウクライナの民間人数万人をいわゆる「選別キャンプ」に送って身体検査を行い、スマートフォンや身分証などを没収した上で、ロシアに送り込んでいるとされる。

オレクサンデルさんによると、孫娘のキラさんも身分証を取り上げられ、ロシアで新しい身分証を支給される予定だという。

ウクライナの衝突の残虐性を繰り返し否定しているロシアのメディアは、キラさんが幸せそうな様子で祖父との電話が許されることもあると話す映像を流した。

ロシアのテレビ番組の司会者はこの映像を、キラさんが拉致されていない「証拠」と位置づけ、拉致されたという主張は「ウクライナの虚偽」だと訴えた。

オレクサンデルさんはキラさんから、泣かないでほしいと告げる音声メッセージを受け取ったという。しかしロシアの戦争で家族を失い、自由を失い、家を失った少女は、自分の涙を抑えることはできなかった。

「ずいぶん長いこと会ってないね」とキラさんはつぶやいた。「泣きたい」

「泣きたい」 親失った12歳のウクライナ少女が祖父に電話

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