インドが目指す高速鉄道革命、進展のスピードは各駅停車

ニューデリーの駅を出るインドの準高速列車バンデバラト・エクスプレス/Sanjeev Verma/Hindustan Times/Getty Images

2022.04.23 Sat posted at 14:03 JST

(CNN) 乗客ですし詰めになったムンバイの通勤電車からダージリン・ヒマラヤ鉄道で運行する驚きの「トイ・トレイン」まで、鉄道はインドで最も注目に値する特徴の一つであり、これなくして同国が今日のような経済大国に進化していたとは考えにくい。

しかし国の発展に伴い、インドの鉄道には一段のプレッシャーがかかるようになっている。時代の流れに乗り、移動時間を短縮し、貨物の最大積載量を増やしつつ、拡大する国内産業に資することが求められているのだ。

従来の鉄道網(一部は大英帝国の時代までさかのぼる)は、これまではインドの役に立ってきたかもしれないが、次第に時代遅れになりつつある。特に隣国であり、地域の覇権を争うライバルでもある中国の急速な発展ぶりと比較すると、どうしても見劣りしてしまう。

インド鉄道(IR)の鉄道網の総延長距離は12万6510キロで、世界第4位の規模を誇る。1日あたり1万9000本の列車を運行し、約8000の駅をカバーしている。そして機関車両1万2700両以上、旅客車両7万6000両、貨物車両約300万両を所有する。

インドで最初に鉄道の建設が提案されたのは1832年で、世界初の公共用鉄道である英国のストックトン・アンド・ダーリントン鉄道の開通からわずか7年後のことだ。

そして、53年4月にようやくボンベイ(現在のムンバイ)とターネーを結ぶグレート・インディアン・ペニンシュラ鉄道の最初の区間が開業した。この2都市を結ぶインド初の高速旅客鉄道が、ムンバイ・アーメダバード間を結ぶ新幹線の一環として、向こう10年以内に開業する予定だ。

速度は遅くとも望みは高く

2019年から20年にかけて、インド鉄道はのべ80億人以上の乗客と、計12億トンの貨物を輸送した。同社は140万人もの従業員を抱えるインド最大の雇用主であり、世界最大の非軍事組織の一つでもある。

鉄道会社に限れば、従業員数でインド鉄道をしのぐのは従業員数200万人の中国の国有鉄道、中国国家鉄路集団のみだ。

しかし、欧州や中国、日本、韓国の鉄道と比較すると、インド鉄道の平均速度は残念ながら依然として非常に遅い。一部の特急列車は時速160キロかそれをわずかに上回る速度で走行可能だが、国内の長距離急行列車の平均時速はわずか50キロで、普通の旅客列車や通勤電車に至っては時速32キロがやっとだ。

貨物列車の平均時速は約24キロで、最高速度も一般に55~75キロにすぎず、列車が輸送能力を増やさないと、今後30年間に混雑がさらに悪化することが予想される。

近代的な内装の準高速列車テジャス・エクスプレスは2017年に運行を開始した

現在、鉄道網全体の16%を占める7つの幹線が、鉄道輸送全体の41%を担っている。またインド鉄道の鉄道網の約4分の1が乗車率100~150%で運行されており、どこかで鉄道網が寸断されるとその影響が全国に波及する恐れがある。

そこでインドは3つの対策に取り組んでいる。第1に主要都市間を結ぶ新世代の高速旅客鉄道の建設、第2に総延長数千キロで大容量の貨物専用鉄道(DFC)の建設、そして第3に24年までに既存の鉄道網の100%電化を目指している。

これは非常に野心的な戦略だが、最初のDFCはすでに稼働しており、電化作業も急ピッチで進んでいる。DFCは総延長5750キロの3区間を最初の2区間に追加する計画で、今年完成の予定だ。

鍵は高速化

しかし日本や中国と同様に、インドも高速鉄道こそ走行時間を短縮し、輸送力を向上させ、経済活動の加速するための鍵と考えている。

21年に発表された野心的な国家鉄道計画は、インド北部、西部、南部の全ての主要都市を高速鉄道で結ぶことを想定しており、互いに300~700キロ離れた人口100万人以上の都市が優先されている。

すでにインドは日本から、西部のムンバイからアーメダバードまでの約508キロを結ぶ最初の路線の建設を支援するための技術、技術者、資金の協力を得ている。

17年にインドのモディ首相と当時の安倍晋三首相がムンバイ・アーメダバード間の高速鉄道建設プロジェクトを発表した際、当初は今年8月15日のインド独立75周年までに新幹線が開通することが期待されていたが、多くの課題や遅延により、完成は少なくとも28年まで先送りされた。

高速鉄道のルートをめぐる論争や、農地が失われることに対する農家や地元の政治家らの反対により、マハーラーシュトラ州での土地の買収やルートの調査に大幅な遅れが生じた。

ムンバイの鉄道駅で長距離列車の窓から外を見る乗客

高架橋

土地の買収や潜在的に危険な既存の道路や鉄道との接点を最小限に抑えるため、総工費150億ドル(約1兆8300億円)のムンバイ・アーメダバード間の高速鉄道は、9割以上が高架となる。この決定により総工費は13億ドル(約1600億円)増加した。

ムンバイの北にある21キロの区間は地下で、そのうち7キロは海底トンネルだ。また、この路線の11の駅が高架駅で、インド鉄道の既存の路線への乗り換えも容易にする。

日本のE5系新幹線をベースにした10両編成の高速鉄道車両が最高時速320キロで走行し、現在7時間を要するムンバイ・アーメダバード間の移動時間が最速のサービスでわずか2時間強にまで短縮される。

各列車の座席定員は1300席で、母親用の多目的ルームや重い荷物を収納するためのコンパートメントを備える。最低運賃はわずか250インドルピー(約400円)で、起点から終点まで乗車すると約3000ルピー(約4800円)かかる。

しかし、インド鉄道の不安定な財政状態がこの楽観的な状況に暗い影を落としている。生産性の持続的な低下により、過去6年間、同社のコストは収益の2倍以上の速さで増加している。

最近、職員の賃金を倍に増やしたことにより会社の財政状態はさらに悪化する一方、年金拠出金が事業経費の実に71%を占めている。職員の数は減少しているが、最近の採用活動では6月までに新たに14万人の職員増員を目指している。

コスト、混雑、そして新しい高級インフラへの多額の投資の必要性というインド鉄道が抱える問題は、他の大半の企業に比べて規模はやや大きいものの、決してインド鉄道特有の問題というわけではない。

インド政府は、同国の最重要鉄道プロジェクトが完成し、約束されたさまざまなメリットを国民に提供する様子を見届けようと躍起になるだろう。それは経済回復を促進するためだけでなく、インドも世界クラスの21世紀型鉄道輸送を提供できることを競合国に見せつけるためでもある。

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