トルコ製ドローン「バイラクタルTB2」、ウクライナの抵抗の象徴に

展示会でデモ飛行を行うトルコ製ドローン「バイラクタルTB2」/Muhammed Enes Yildirim/Anadolu Agency/Getty Images

2022.04.14 Thu posted at 06:54 JST

トルコ・イスタンブール(CNN) 「あのぴかぴかの戦車は火だるまに。バイラクタル、それは新しい熱狂」――。そんな歌詞の歌がウクライナで人気を博している。同国の抵抗を象徴するシンボルの一つになっているドローン(無人機)にささげられたものだ。

「バイラクタル」の人気はすさまじく、ウクライナ人がこのトルコ製ドローンにちなんだ名前をペットにつけるほどだ。先月には首都キーウ(キエフ)の市長が、市内の動物園で生まれたばかりのキツネザルを「バイラクタル」と命名。外務省はキーウの警察犬訓練センターにいる子犬「バイラクタル」の写真をツイートした。

欧米やウクライナの当局者は、トルコの「バイラクタルTB2」がロシアの攻撃への抵抗に貢献していると称賛する。報道によると、英国のウォレス国防相は先月議員らに対し、同機がロシアの「火砲や補給線」に「弾薬を撃ち込んでいる」と指摘し、ロシアの進軍を遅らせ妨害するために「非常に重要」との見方を示した。

中高度長期耐久型(MALE)ドローンの一種であるTB2は、すでに長年にわたって実戦運用されてきた。トルコ軍は2014年からイラク北部とトルコで同機を使用。近年では、リビアやナゴルノ・カラバフの紛争で戦況を変えるのに一役買ったと評価されていた。ただ、ロシアの軍事目標を攻撃する映像がウクライナ軍によって公開され拡散したことで、同機は再び脚光を浴びている。

海軍分析センターのロシア研究部門で非常勤上級研究員を務めるサミュエル・ベンデット氏は、バイラクタルの成功の要因は「ロシア軍を狙う能力」のみにとどまらず、「広報戦略の勝利」でもあると語る。

ベンデット氏によると、バイラクタルは期待通りの性能を発揮したものの、「無敵ではない」という。オープンソースの証拠からは、一部は撃墜された可能性があることがうかがえる。

バイラクタルは「ウクライナ軍と民間人が非常にうまく進めているSNS作戦の一部だ」と同氏は指摘。バイラクタルによる攻撃の動画が拡散したことで、「大きな士気高揚と素晴らしい戦術的勝利」につながっているとの見方を示す。

TB2や他の無人航空機(UAV)の開発により、トルコはドローン業界の勢力図で米国や中国、イスラエルと並ぶ位置に躍り出た。

ロシア、ウクライナ両国と防衛・経済面で緊密なトルコは、おそらく最も有名な輸出品の一つとなったバイラクタルを宣伝することに慎重な姿勢を見せる。トルコのドローン売却はウクライナ侵攻前からロシアにとって大きないら立ちの種となっており、ロシア大統領府のペスコフ報道官は昨年後半、トルコのドローンが地域の不安定化を招くと警告した。

トルコ高官は8日の記者会見で、ウクライナへのドローン売却についてロシアから繰り返し抗議を受けたと説明。「ロシアからは以前も今も抗議があるが、我々はすでに返答済みだ。これらは民間企業の製品であり、購入は戦争前に行われていた」と述べた。

ウクライナは19年、TB2を購入した最初の国となり、これまでに少なくとも36機を発注した。先月には、国防相が新たな納品の到着を明らかにした。

バイカル・テクノロジーの最高技術責任者(CTO)セルチュク・バイラクタル氏は、政治よりも自社の技術について熱心に語る。同氏はロシアとウクライナの重要な仲介役として浮上したトルコのエルドアン大統領の娘婿でもある。

バイラクタル氏は自身の名を冠したドローンにささげられた歌を聴いたことがあり、ウクライナのSNSで流行していることも知っているが、ウクライナ情勢に言及するときは慎重に言葉を選んだ。

展示会でデモ飛行を行うトルコ製ドローン「バイラクタルTB2」

「(バイラクタルTB2は)抵抗のシンボルの一つであり、人々に希望を与えていると思う」。マサチューセッツ工科大学(MIT)出の技術者であるバイラクタル氏は先週、同社のドローン生産施設を取材するまれな機会を得たCNNにこう語った。

「ウクライナ人は違法な占領に抵抗して国土を守っている。独立を望むなら、立ち上がって抵抗できるようにしなくてはならない。これこそ勇敢なウクライナ国民と指導者が行っていることだ。それと同時に、技術や自前の防衛能力も必要になる。ただ、いまは人々の命が危険にさらされている状況であり、それを技術と比べるようなことはしたくない」(バイラクタル氏)

社内にはトルコ初の無人戦闘機である「クズルエルマ」(赤いリンゴ)も展示されていた。同機は先日生産ラインに乗ったばかりで、機体の名称は理想、すなわち到達したいと思う目標を象徴するトルコ神話の表現にちなむ。バイラクタル氏によると、飛行開始は来年になる予定だ。

業界の専門家によると、費用などの要因がこれらのドローンを魅力的な存在にしている。

トルコ経済外交政策センター(EDAM)の国防研究責任者、カン・カサポグル博士は「バイラクタルTB2は価格と戦闘効率のバランスがほぼ完璧で、単価も手頃だ」と指摘する。

同社は価格に関する情報を公表していない。

カサボグル氏によると、このドローンは武器取引で重要な基準となる実戦経験を満たしているという。

バイカル・テクノロジーは少なくとも19カ国と契約しており、その大半は過去1年半のうちに締結された。買い手の一つがポーランドで、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)の加盟国でこのUAVを注文した唯一の国となった。

トルコの国営通信社によると、同国の防衛・航空宇宙産業は昨年、30億ドル(約3770億ドル)以上の輸出を記録した。

バイカルの最高経営責任者(CEO)でセルチュク氏の弟であるハルク・バイラクタル氏は1月、アナトリア通信に対し、「トルコと戦略的関係にある国への防衛・航空輸出を強化することが重要だ。防衛輸出は経済的利益をもたらすだけでなく、輸出先の国と戦略的関係を築くための適切な基礎にもなる」と語った。

セルチュク・バイラクタル氏にとって、これは単なる家業や生涯をかけた工学の追究にとどまらず、国の独立と技術的自立を確保するための取り組みでもある。

「私が20代だったとき、サッカーやバクラバ(トルコの伝統菓子)、ケバブでトルコが世界一になると言う人はいても、世界的に有名なニッチ技術を開発するとは誰も予想できなかった」(同氏)

ウクライナが使用、トルコの無人機「バイラクタルTB2」

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