ロシア、新司令官任命で立て直し図る プーチン氏の勝利宣言に間に合うのか

ロシア軍が撤退したウクライナ首都郊外に残る焼け焦げた車両と同軍の装備品/Mykhaylo Palinchak/SOPA Images/LightRocket/Getty Images

2022.04.13 Wed posted at 06:56 JST

ウクライナ・リビウ(CNN) ロシアのプーチン大統領はこのほど、ウクライナでの戦争を統括する司令官を新たに起用した。ロシア軍の指揮官らは戦争が新たな局面を迎え、ドンバス地方に残るウクライナ支配地域の制圧に注力するときが来たと示唆している。

ウクライナ国民はその脅しを言葉通りに受け止めている様子だ。東部のドネツク、ルハンスク両州では、地元当局者が地域住民に避難を促し、民間人が国内のより安全な地域に避難できるよう人道回廊を開設した。

ハルキウ州北東部では、バルビンコベとロゾバで当局が避難を進めている。ウクライナ中東部の中心都市ドニプロでは、フィラトフ市長が女性や子ども、高齢者に避難を要請した。

「ドンバスの状況は徐々に激化しつつある。4月は激戦になる」と市長は最近述べ、「だから大きなお願いだ。私が繰り返し言っているように、逃げられる人は逃げてほしい。これは何より、重要インフラの仕事に関わっていない女性や子ども、高齢者に当てはまる」と呼び掛けた。

それでは、ロシアは東部で新たに猛攻勢を仕掛けることができるのだろうか。米マクサー・テクノロジーズが収集・分析した最新の衛星画像には、長さ約13キロに及ぶ軍の車列がウクライナ東部の町を南下し、ハルキウ市東郊に向かう様子が映っている。

ウクライナ内務省のデニセンコ顧問は9日の全国テレビで、ハルキウは「ほぼ一日中砲撃にさらされている」と説明。ロシア軍はハルキウ州でイジュームの方角から攻勢をかけることが予想されると述べた。

軍事の専門家や西側当局者からは、ロシア軍の指揮官らは1945年のナチス・ドイツ撃破を祝う5月9日の戦勝記念日までに一定の結果を出すプレッシャーを感じているとの観測も出ている。ただ、米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」は新たな分析で、ドンバス地方での局面打開に必要な戦力を集中投入する能力がロシアにあるか疑問視した。

ISWの分析では「ロシア軍がドンバスに展開する大規模かつ戦闘可能な機械化部隊を数カ月以内に集めるのは難しいだろう」「大きな損失を被った部隊を一部再建し、散発的に攻勢作戦に投入する状況が続くとみられる。戦果は限定的で、大きな代償を伴う」としている。

軍事アナリストや観測筋の間では、ロシア軍は特に首都キーウ(キエフ)と北部の防衛に当たるウクライナ軍から痛手を受けており、再編に苦慮するかもしれないとの指摘が上がる。

ロシアのプーチン大統領(左)とアレクサンドル・ドゥボルニコフ大将

侵攻前、ロシアは約120個の大隊戦術グループをウクライナ周辺に配置していた。欧州当局者の1人によると、そのうち約4分の1は死傷者の続出や装備品の破壊で「実質的に作戦投入不可能」な状態にあるという。一方、米国防総省当局者は8日、これとはやや異なる推計を示し、現在のロシア軍は2月24日の侵攻開始前に集められた「利用可能とみられる戦力の85%未満」に減っていると述べた。

こうした米国防総省の推計について、ISWは「ロシア軍の現在の戦闘能力を意図せず過大視している」と指摘する。

ISWによると、「キーウ周辺から撤退したロシアの大隊戦術群グループ数十個が持つ戦闘能力は、部隊数や人員の総数から想定される戦力のごく一部にとどまる可能性が高い。ウクライナで戦うロシア部隊は恐ろしいほどの損失を被った」という。

残虐行為の過去を持つ司令官

欧米の当局者によれば、ロシアはウクライナでの軍事作戦を統括する戦域司令官に、南部軍管区司令官を務める将官アレクサンドル・ドゥボルニコフ氏(60)を指名した。

ドゥボルニコフ氏はシリアでのロシアの軍事作戦の初代司令官を務めた人物。プーチン氏は2015年9月、シリアのアサド政権を支援する目的で同国に軍を派遣した。

ドゥボルニコフ氏がシリアで指揮を執った15年9月から16年6月にかけ、ロシア軍機は反体制派支配下のアレッポを包囲するアサド政権や同盟勢力を支援し、人口密集地を爆撃して多数の民間人犠牲者を出した。アレッポは16年12月にシリア軍の手に落ちた。

00~03年には、ドゥボルニコフ氏は長期に及んだ北コーカサス地方での鎮圧作戦に参加した。中でも第2次チェチェン戦争では、チェチェンの中心都市グロズヌイが壊滅状態に追い込まれた。

ロシアはウクライナの一部で同様の手荒い手法を用いており、主要都市のマンションを攻撃したほか、港湾都市マリウポリの大部分を破壊した。

ドゥボルニコフ氏は16年3月、軍功が評価され大統領府から「ロシア連邦英雄」の称号を授与された。

ロシア軍の車列がハルキウ市東郊に向かう様子を捉えた衛星画像

ロシアがウクライナでの戦争を率いる新たな総司令官を指名したのは、ロシア軍の妨げとなっているもう一つの問題、つまり調整不足を改善する狙いもあるとみられる。

「ロシアは南部軍管区司令官を務める将官アレクサンドル・ドゥボルニコフ氏をウクライナでの作戦の総司令官に据えることで、侵攻初期の段階で悩みの種となっていた問題の一つを解決しようと試みているもようだ」とISWは指摘。

「だが、こうした指揮系統の簡素化により指揮面の問題がすべて解決することはなさそうだ。ロシア軍は今後も当面、一貫性ある効率的な指揮統制体制の構築に苦慮しつづける公算が大きい」としている。

とはいえ、東部で戦うウクライナ軍にとって今後数週間は決して楽なものではない。ISWは「(ロシア軍は)それでも前進を遂げ、ウクライナ軍を陥れるか疲弊させるかして、ドネツク、ルハンスク両州を確保できる状況にもっていく可能性が高い」「ただ、ロシアのこれまでの作戦と同様、こうした攻勢が目標達成前にピークを迎える可能性も同じくらいある」と指摘する。

ウクライナ大統領府のポドリャク顧問は10日の会見で、ウクライナは激しい戦闘への準備ができていると語った。

「大規模戦闘のための準備はできている」とポドリャク氏は述べ、「特にドンバスでの戦闘に勝たねばならない。そうすればより強力な交渉の立場が得られ、特定の条件を課すことができるようになる。(ウクライナとロシアの)大統領同士が会談するのはその後だ。実現には2週間、あるいは3週間かかるかもしれない」としている。

これが楽観的すぎるシナリオかどうかは、今後数週間で明らかになるだろう。ただ、このシナリオは軍事上の分析だけでなく、交渉の立場のようなものも提示する。プーチン氏はいますぐ協議に臨むか、さもなければ数週間後には立場が著しく弱まっているリスクがあるということだ。

本稿はCNNのネーサン・ホッジ記者の分析記事です。

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