ロシアの攻勢揺るがすウクライナ、戦況は新たな局面へ

最近の戦闘で破壊された装甲兵員輸送車の上に立つウクライナ軍の兵士=26日、ハリコフ/Efrem Lukatsky/AP

2022.03.28 Mon posted at 19:57 JST

(CNN) キエフ国際空港に最初の弾道ミサイルが撃ち込まれてから1カ月あまり、ロシア軍の動きはウクライナの執拗(しつよう)な抵抗によって混乱と崩壊に瀕(ひん)している。この数日では、複数の前線で活発化したウクライナの反撃にも遭っている。

ロシア軍は数の上ではかなり優位だが、圧倒的とは言えない。ロシアの装甲部隊は西側諸国が供与した対戦車兵器やトルコ製のドローンに苦戦している。ウクライナの防空部隊は予想以上の能力を発揮し、さらに数千発のアメリカ製ミサイル「スティンガー」で防備を固めている。

不十分な後方支援、疑問の残る戦術、次第に明らかになるロシア大隊戦術グループの士気の低下。こうした状況により、ウクライナ軍は複数の地域でロシアの進軍を抑え、反撃に転じている。

CNNが衛星画像やSNSコンテンツ、両国の公式声明などを分析した結果、戦争は新たな局面に移行しつつあることがうかがえる。それは消耗戦だ。ロシア軍の長く伸びた戦列にウクライナが切り込む中、ロシアは支配地域を広げるどころか失い始め、物資補給に大きな問題を抱えることになるかもしれない。

ロシアはその埋め合わせとして、大砲や複数のロケット発射システムからミサイル攻撃や間接射撃を多用していると思われる。キエフ北部や西部では、ロシア軍は進軍を試みずに防御に徹し、ウクライナ部隊の勢力が手薄なイルピンやマカリウなどの地域を砲撃しているとみられる。

この2週間、ウクライナ西部のリビウから中部のジトーミル、南部のミコライウに至るまで、燃料貯蔵所や軍補給所、軍用飛行場を中心にロシア軍のミサイル攻撃が激化している。


ロシアの誘導ミサイルが燃料貯蔵施設に当たり、火災を消す消防士ら=27日、リビウ/State Service of Ukraine for Emergency

攻勢に転じたウクライナ

これまでウクライナ軍は攻勢に出ることにおおむね慎重な姿勢を見せていたが、国家安全保障防衛会議のダニロフ書記は25日、「我々は一部地域で反撃に転じている。こうした反撃は間違いなく生産的だ」と述べた。

こうした反撃は限定的かつ局地的ではあるが、ウクライナ南部や中部、北東部の前線で展開されている。

米シンクタンクの戦争研究所は最新の評価報告で、これらを「慎重かつ効果的に行われており、ウクライナ軍は能力の範囲内で、戦術的または作戦的に重要な地域の小規模なエリアを奪還している」と分析している。

ヘルソン国際空港から立ち上る黒煙。衛星写真を拡大すると、複数のヘリコプターから火の手が上がっているのがわかる=15日

南部

中でもとくに大がかりなのは、おそらくロシアが制圧する街ヘルソンへの進撃だろう。ウクライナ軍はオデッサ攻撃の足掛かりとなるミコライウの制圧を試みたロシア軍に抵抗し、その後ヘルソンの空港にあったロシア司令部に壊滅的なミサイル攻撃を展開して(この攻撃でロシア人将官1人が死亡したとウクライナは報じている)街の北部を奪還した。これは民間人の抵抗運動と同様、ロシア部隊に精神的ダメージを与えた。

27日、ヘルソン東部のカホフカでは大規模な群衆の街頭デモが発生し、ロシアの占拠に抗議した。地元ジャーナリストのオレフ・バトゥーリン氏がCNNに語ったところでは、この地域はいまもロシア軍が支配しているという。ヘルソンと東の拠点を結ぶ橋に程近いため、カホフカは重要な場所だ。この橋にアクセスできなければ、クリミアとその境界をつなぐ陸路の確保は難しくなる。

バトゥーリン氏の話では、ロシア軍が集中しているタウリスクやノーバ・カホフカといった近隣の街周辺でも激しい戦闘が続いているという。

ここでの戦いの行方が、南部でのロシア軍の動きを大きく左右することになるかもしれない。


Sources: The Institute for the Study of War with AEI’s Critical Threats Project (Russian-occupied areas and advances); LandScan HD for Ukraine, Oak Ridge National Laboratory (population) Graphic: Renée Rigdon, CNN

北東部

意外かもしれないが、ウクライナの部隊はロシアとの国境に近いハリコフやスムイの周辺地域も奪還した。ロシア国境からわずか30マイル(約48キロ)のハリコフは、侵攻初日からほぼ毎日のように攻撃を受けているが、いまだウクライナの手中にある。

ウクライナ軍は一部の遠隔地域も奪還したとみられる。ハリコフ州のシネグボフ知事は26日、市の東部で「複数の集落が解放された」と主張した。

CNNが分析した長尺の動画には、超国家主義集団のアゾフ連隊の部隊がハリコフ付近の村に進撃し、ロシア兵を大勢捕虜として捕らえる様子が映っていた。捕虜の一部はひどく負傷している様子だった。別の動画には、ウクライナが掌握したハリコフ南部の村々の様子が映っていた。

ロシアは1週間にわたってハリコフ南部のイジュームを制圧しようと試みているが、ウククライナは激しい被害を受けた街で今も抵抗を続けている。

地元職員のマクシム・ストレルニク氏は27日、「現在イジュームの状況は混乱を極めている。激しい戦闘が続いている」と述べた。

それでも北東部では、CNNが位置情報を確認した動画や画像には、ウクライナ軍はスムイ市から48キロほど離れたトロスティアネツを奪還する様子が映し出され、T80戦車や歩兵戦闘車など損傷したロシア軍の装備が置き去りにされている。

ウクライナ第93旅団はトロスティアネツにいる兵士たちの画像をフェイスブックに投稿し、ロシア軍は「武器や装備、弾薬を置いて」逃走したと述べた。

キエフ周辺

キエフ東部ではここ数日、ウクライナ軍がルキヤニウカやルドニツクといった村を中心に、ウクライナ軍が首都から70キロほどの農村地帯を奪還している。このままの状態を維持できれば、すでに長く伸びたロシアの供給網をさらに混乱させ、ロシアの前線部隊を切り離すことも可能だろう。

だがロシアも防戦に回るばかりではない。ロシア軍は今もキエフ北部の街チェルニヒウを包囲し、週末には近隣の街スラブティッチに侵攻した。ソーシャルメディアの動画には、数百人のウクライナ市民が抗議活動を繰り広げる中、街の中心部を制圧するロシア軍が音響閃光(せんこう)弾や自動小銃を宙に発射する姿が映っている。

またロシア軍は依然として、北部からキエフ郊外を砲撃する軍事力を備えている。

侵攻開始前にウクライナ東部ドンバス地方の境界に向けて進むロシア軍の車列=23日

ロシア側の発言の変化

地上戦が行き詰る中、ロシア当局者はウクライナ各都市の包囲には裏の目的があると主張している。その目的とは、ウクライナ軍の動きを封じて、分離派が支配するドンバス地方への兵力投入を防ぐことだという。

ロシア軍参謀本部のルドスコイ第1参謀次長は25日、ウクライナ各都市の制圧と軍事施設の破壊により「ウクライナ軍の動きを封じただけでなく、ドンバスでの軍備強化を妨げることが可能になる」と発言した。

プーチン大統領は2月24日に特別軍事作戦を公表した際に、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州からなるドンバス地域をウクライナの攻撃から守ることが目的だと述べた。

ルドスコイ氏もこの発言を繰り返すかのように、「作戦の第1段階の主な任務はおおむね完了した」と述べた。ロシア側がウクライナの都市襲撃を意図したことはないと強調し、都市襲撃の可能性は排除できないものの、「我が軍と資力は主要目的、つまりドンバスの完全解放に集中させる」と付け加えた。

だがルドスコイ氏はプーチン大統領のより野心的な目標、いわゆるウクライナの「非軍事化と非ナチ化」についても言及した。

手元の証拠からも、ロシア軍がドンバス周辺に進軍していることがうかがえる。だがロシア軍の大部分はマリウポリの過酷な包囲で身動きが取れない状態だ。マリウポリで被った損失により、南東部の他の地域への兵力投入にも支障が出るだろう。

戦争研究所は、ルドスコイ氏の発言は「ロシアが目的を縮小し、ドネツク、ルガンスク両州の支配に満足することを示している可能性もある。だが、こうした解釈は誤っている可能性が高い」と述べた。

「ウクライナ全土でロシア軍による大規模な攻撃作戦が見られないのは、ロシア政府が戦争目的の変更や東部への兵力集中を決断したというよりも、むしろロシア軍が攻撃を行う十分な戦闘能力を発揮できずにいる状況を表している可能性が高い」

ウクライナ軍司令部もやはり懐疑的なようで、現在ロシア軍は再編成と失った戦力の補充を強化しているとの見解を示している。

これらの全てが示唆しているのは、さらに多くの血が流れるとみられる戦争の第2幕が開けようとしているということだ。ロシア軍は巡航ミサイルや弾道ミサイルの使用を増やしながら、停滞する地上作戦の活性化を図ろうとしている。

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