世界の頂点に立つ小さな空港 米アンカレジ

アラスカの州チュガック山脈を背景に、「世界最高の立地」を誇るアンカレジ国際空港がある

2022.03.20 Sun posted at 13:18 JST

(CNN) 雪に覆われた米アラスカの州チュガック山脈を背景に、わずか30万人が暮らす都市アンカレジ。ここに世界最高の立地条件を誇る空港がある。

標準的な世界地図で見ると、アラスカは遠く離れた場所にあるように見えるかもしれない。だが頭の中で地球を回転させれば、アラスカが文字通り世界の頂点にあることがわかる。

テッド・スティーブンス・アンカレジ国際空港は、ニューヨークと東京の中間に位置し、9割の工業先進国から9時間半ほどで到着する貨物ハブ空港だ。


アラスカの州チュガック山脈を背景に、「世界最高の立地」を誇るアンカレジ国際空港がある/Shutterstock

現在、世界30カ国以上がロシアの航空機による自国領空の通過を禁止し、ロシアも同様の禁止措置を講じている。ウクライナやベラルーシの領空も閉鎖された今、アンカレジは戦略的に重要な場所であることが証明されるだろう。

ストップオーバーの街

アンカレジ空港は1951年に完成し、冷戦によってソ連上空の飛行が厳しく制限されていた40年間、欧州から東アジアへ向かう旅客便の中継地として親しまれた。

90年代に入り国際関係の緊張が緩和されると、航空会社は広大なロシア上空を通過する最も直接的で経済的なルートを採用できるようになり、コスト削減、飛行時間の短縮、運賃の引き下げが可能となった。

これによりアンカレジ空港は、貨物輸送の主要拠点として、また季節ごとに旅客便を運航する小規模空港としての役割を担うようになった。現在の年間旅客数は約500万人。較対象として、ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港の2019年の旅客数はおよそ1億1000万人だった。

だが、20年初めに新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が発生すると、アンカレジは医療物資の国際輸送で重要な役割を果たし、再び世界から脚光を浴びるようになった。また短期間ではあるが、世界で最も発着便数の多い空港になった。

世界の旅客輸送量が9割以上減少する中、「貨物輸送能力への需要が高まっている」と、当時の空港長ジム・スツェスニアック氏は20年4月にCNN Travelに語っている。その主な理由は、「北米における新型コロナに必要な物資の多くが、アジアで生産されているため」だった。

スツェスニアック氏は「飛行機は飛行距離を短くするために(地球の)上空を飛ぶ。アンカレジの利点は、貨物を満載に積んだ飛行機が、燃料を半分しか積まなくて済むことだ。飛行機はアンカレジに乗り入れ、燃料を補給し、目的地に向かう」と説明している。

記録的な航空貨物量

パンデミックの最中、1日当たり約130機の貨物用ワイドボディー機がアンカレジ空港を利用したため、駐車スペースを確保するために空港内の新しいエリアを使用しなければならない状況だったという。

20年には、先ごろウクライナで破壊されたばかりの重量ベースで世界最大の航空機「アントノフ225ムリーヤ」も受け入れていた。

だが今年、アンカレジ空港を利用するワイドボディー機の数は1日当たり115機が「新基準」になったと、同空港の事業部門運営マネジャー、トゥルーディ・ワッセル氏は3月初めにCNNに語っている。これは貨物便の乗組員が宿泊するホテルの部屋数で言うと、1晩当たり約300室に相当するという。

米物流大手UPSとフェデックスのハブ空港であるアンカレジ空港は、サプライチェーン(供給網)の強化により、2年連続で航空貨物の取扱量が過去最高を記録している。取扱量は21年単独で約360万トン。アンカレジに住む約10人に1人は空港関連の職業に就いているという。

ワッセル氏はCNNに対し、ロシア領空が再び飛行禁止となった今、アンカレジ空港を利用する必要に迫られた航空会社を受け入れる準備ができていると説明。「我々は、航空会社からアンカレジを経由する要請があった場合にいつでも対応できるよう、インフラの確保に向けて作業を進めている」と述べた。

これは、運航上のあらゆるニーズに対応するということだ。「例えば、航空会社はただ燃料の補給や、乗務員の交代といったテクニカルストップのためだけに経由するのか」とワッセル氏は問う。

同空港のグランドハンドリングのスタッフは、航空会社のニーズによるが、1時間40分ほどで作業を終えることができるという。アンカレジを経由する航空会社が、テクニカルストップ以外のサービスを必要とするかについては、「まだ分からない」と同氏は話している。

1965年ごろのアンカレジ国際空港の様子

航続距離の改善

航空会社はロシア領空の飛行を回避するため、不経済な迂回(うかい)ルートを余儀なくされている。これによって飛行時間が長引き、人員、燃料、メンテナンスの面でコストを増大させている。

だが、アンカレジ空港の旅客数が冷戦時代の水準に戻ることはなさそうだ。フライト追跡サービスを提供する「フライトレーダー24」のコミュニケーションディレクター、イアン・ペチェニック氏は、1990年代初めにソ連が崩壊して以来、民間航空機の航続距離は劇的に改善されたと説明する。

ペチェニック氏はCNNに対し、「現在、飛行機が出発地から目的地まで止まることなく移動できるのは見事だ」と語っている。

今のところ、フライトレーダー24が指摘した中で最も極端な迂回ルートは、羽田発ロンドン行きの日本航空43便だ。

ペチェニック氏によると、同便の飛行時間はこれまでの12時間12分から15時間15分になった。「ロシア上空を西に向かって飛行する代わりに、東に向かい、アラスカ、カナダ北部、グリーンランド、アイスランド上空を飛行する北回りで英国に向かう」と説明した。

ペチェニック氏はまた、日本とドイツを結ぶ路線でも大きく迂回を迫られていると指摘。「これらの路線は、飛行ルートの方角を変更せず、ルートを南に移動した」 として、「飛行時間は数時間長くなるが、地図上ではそれほど極端な変更ではない」と話している。

発着枠と運航スケジュール

現在の状況がいつまで続くかは誰にも分からないが、向こう数週間から数カ月の間、航空会社は新ルートと運航スケジュールの模索に向けて懸命に取り組むことになるだろう。

これは単に経済的な問題だけではない。航空会社が綿密に計画した飛行経路と運航スケジュールが混乱に陥っていることから、空港における発着枠の争奪戦でもあるのだ。

もはやストップオーバーが技術的に必要でなくなったとはいえ、アンカレジの戦略的立地は依然として魅力的な要素である。

地政学的な状況が劇的に変化する以前、新規参入の長距離航空会社ノーザン・パシフィック航空はすでに、アンカレジを拠点に米国とアジアを結ぶ国際線の就航を計画していたが、政府の承認はまだ得られていない。

「混雑しているのは空港ではなく空域だ」とペチェニック氏は指摘している。「通常ロシア上空を通過する飛行機の多くが南下しているため、トルコやルーマニア、東欧上空の航空交通量が増えている」と説明した。

ペチェニック氏は航路が近い将来、以下のようになると予測する。「航空機の飛行場所の圧縮が進むだろう。例えば、フィンエアーのビジネスモデルは、東アジアに到達するための近道としてロシア上空を経由することが前提だったが、それが不可能な場合、飛行機はどちらの方角に向かうだろうか」

これからは、ノルウェーを経由してカナダやアラスカを通る極地ルートが「最も興味深いものになるかもしれない」とペチェニック氏は話している。

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