難民に対する「選択的思いやり」、ウクライナ戦争が見せつけた欧州の現実

欧州各国はウクライナ難民を従来の難民よりも積極的に受け入れているとみられる/Omar Marques/Getty Images Europe/Getty Images

2022.03.17 Thu posted at 20:30 JST

アラブ首長国連邦アブダビ(CNN) ロシアのウクライナ侵攻を受け、西側諸国は前例のない協調と連帯の姿勢を示した。政府も企業も個人も一丸となって対ロシア制裁やボイコット運動を行い、欧州は大量の難民の流入に門戸を開いた。

だが欧州のウクライナ難民に対する姿勢は、中東からの難民に対する姿勢との違いを際立たせている。

ウクライナの難民危機は深刻な状況にある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ロシア軍の侵攻が始まって以来、300万人以上がウクライナから避難した。これと比較すると、シリア内戦が始まってから2年近くたった2013年、100万人がシリアを脱出するまでには半年を要した。

この2つの戦争は、違う時期に、異なる大陸で発生した。だが紛争を逃れたシリア人と異なり、ウクライナ人は欧州ではるかに温かい出迎えを受けている。

米シンクタンク、カーネギー国際平和基金のH・A・ヘリヤー氏は言う。「彼らは欧州政府によって比較的簡単に受け入れられている。ロシア侵攻に対する窮状が圧倒的な連帯感につながっている」

マーティン・グリフィス国連事務次長(人道問題担当)はCNNの取材に対し、難民受け入れの優先順位には「ショッキングな違い」があると述べる一方、近隣国が大量の難民を受け入れるのは異例ではないと付け加え、トルコのシリア難民やパキスタンのアフガニスタン難民を例に挙げた。

デンマークは欧州の中でも特に厳格な反移民政策で知られる。政府はウクライナ難民を歓迎し、全ての難民を平等に扱うと言いながら、一方で一部のシリア難民に対しては、今も衝突が続くシリアに帰国するよう促している。

ロシアによる侵攻以降、ウクライナからは300万人以上の人々が国外へ逃れた

フランスでは大統領選に出馬を表明した極右のエリック・ゼムール氏が今月8日、BFM TVに対し、欧州からの難民に対するルールと、アラブのイスラム諸国からの難民に対するルールの違いは容認できると述べ、「アラブやイスラムの移民は私たちから遠すぎて、文化変容や同化が難しいことは誰でも知っている」と語った。

ブルガリアのボイコ・ボリソフ首相はロシア軍のウクライナ侵攻が始まった数日後、欧州の国はウクライナからの移民に不安を感じないと述べ、「これは今までの難民とは違う。今まではどうしたらいいのか分からなかった。不確かな過去を持っていて、テロリストなのか(どうかも)分からない」と発言していた。

難民に対するこの待遇の差は、ウクライナが受け入れ国に近いこと、さらにはロシアがこの戦争を通じて欧州の安全保障を脅かしているという西側の認識に起因するのかもしれないとヘリヤー氏は解説する。

「それでももっと生々しい、民族的な反応を過小評価することはできない」と同氏は述べ、欧州がウクライナ難民に目を向けているのは単純に、ウクライナ人が白人で、キリスト教を受け継いでいるという理由もあると言い添えた。

人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのジュディス・サンダーランド氏は「同情心や連帯感は、見た目や宗教が自分たちと同じ人たちだけでなく、助けを必要とする人全員に行き渡らなければならない」と訴える。

国連の21年の報告書によると、シリアからの避難を余儀なくされた約700万人のうち、約100万人が欧州に住み、このうち70%はドイツとスウェーデンが受け入れている。

UNHCRは、300万人のウクライナ難民が欧州各国で無条件に受け入れられていると指摘、「世界中で避難を強いられたほかの8400万人にも、同じ連帯、同情、支援が広がることを望む」と訴えた。

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