「食料も水も電気も医療もない」、子ども病院攻撃のマリウポリで深まる窮状 ウクライナ

負傷した妊婦の女性を運ぶウクライナの救急隊員とボランティア=9日、ウクライナ・マリウポリ/Evgeniy Maloletka/AP

2022.03.11 Fri posted at 12:18 JST

ウクライナ・キエフ(CNN) 負傷した妊婦が担架に乗せられ、くすぶり続ける産科・小児科病院のがれきの中を運ばれていく。顔は血の気を失っていたが、片手は子どもを守るようにお腹に当てていた。建物はこの側の窓が全部吹き飛ばされているように見える。至る所にがれきが散乱していた。

ウクライナ南東部マリウポリ市当局によれば、この写真は9日にロシアが空爆した市内の産科・小児科病院の現場で撮影された。市は10日、この空爆によって子どもや女性、医師など17人が負傷し、子どもを含む3人が死亡したと語った。

マリウポリは何日も前からロシア軍が包囲。脱出できなくなった住民は地下シェルターへの避難を余儀なくされ、雪を溶かして水を確保しているが、食料は残り少なくなっている。今や妊婦や新生児、子どもたちのための病院でさえも、安全な場所ではなくなった。

9日にロシア軍の攻撃で被害に遭った子どもの医療施設はマリウポリの病院だけではない。首都キエフ西部ジトーミルの市長によれば、同地でも火力発電所や民間の建物がロシアに空爆され、2つの病院の窓が吹き飛ばされたという。全員が防空壕(ごう)に避難していたため死傷者はなかったと市長は話している。

戦時国際法では、民間人を標的にしてはならず、人道活動を担う医療従事者や医療用車両、病院などを攻撃してはならないと規定している。

しかし過去2週間の間、ロシア軍は繰り返しウクライナの医療施設を攻撃しており、そうした施設が組織的に標的にされているとの見方が強まった。ただしロシア側はそれを否定している。

世界保健機関(WHO)によると、ウクライナでこれまでに確認された医療施設に対する攻撃は24回に上る。

WHOは10日、「こうした攻撃で少なくとも12人が死亡、17人が負傷した。負傷者のうち少なくとも8人、死者のうち2人は医療従事者だったことが確認された。攻撃は2月24日~3月8日の間に発生した」と説明。「WHOはこうした攻撃を強く非難する。医療に対する攻撃は国際法に抵触し、生命を危険にさらす。たとえ紛争時においても、基本的人権である医療の神聖性と安全性は守らなければならない」と強調した。

爆撃を受けた病院にはウクライナの救急隊員らが対応にあたった

ウクライナ南部ミコライウにいるCNNスタッフは、空爆警報のサイレンが鳴り響く中、病気の子どもたちを含む患者が、病院の地下の防空壕に避難する現場を目の当たりにした。

大きな包帯を巻いた12歳のスタス君はその時、病院で父親が自分に付き添っていないことを知らなかった。父親はスタス君の母親と姉妹を埋葬していた。「僕が近所の家の地下室にいた時に、僕がいた側の屋根に爆弾が当たった。僕たちはおばあちゃんの家まで走った。そこにも爆弾が当たって、僕の腕が折れた。お父さんと近所の人が僕をここに連れてきた。僕は2日間、意識がなかった」。スタス君はそう語った。

ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は9日深夜のビデオ演説で、マリウポリの病院空爆を「残虐行為」「ウクライナ人に対するジェノサイド(集団殺害)の証拠」と非難した。

一方、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は10日、空爆したマリウポリの病院は過激派「アゾフ連隊」の拠点だったと根拠を示さないまま主張し、患者や看護師は全員が退避したと語った。ロシア国防省報道官はその後の記者会見で、ロシアによる産科病院爆撃を全面的に否定して、これは「挑発」だと述べた。

ラブロフ外相は、この攻撃については国連安全保障理事会で数日前に予告したと説明している。アゾフ連隊はウクライナ軍に組み込まれているが、かつては独立した超国家主義の民兵組織だった。

爆撃を受けた病院の外に立つ女性=9日、ウクライナ・マリウポリ

赤十字国際委員会(ICRC)は10日、マリウポリの状況について「ますます悲惨で絶望的」になりつつあると指摘。「何十万もの人たちが、食料も、水も、暖房も、電気も、医療もない」状況に追い込まれ、「暴力からの解放と人道支援を緊急に必要としている」と訴えた。

「商店や薬局は全て4~5日前に略奪された。まだ食べ物が残っている人もいるが、あとどれくらい持つのか分からない」。ICRCのサーシャ・ボルコフ氏は9日に収録されたインタビューでそう伝えている。

マリウポリでは多くの人が、子どもに食べさせるものがないと訴えているという。「人々が食べ物をめぐって互いを攻撃し始めた。ガソリンを抜き取るために他人の車を壊し始めた」(ボルコフ氏)

AP通信のカメラマンが撮影した写真には、9日にマリウポリ市内で遺体が集団埋葬される様子が写っている。一部は遺体袋に入っていたが、毛布にくるまれただけの遺体も多い様子だった。

市長側近は9日、ロシア軍の侵攻が始まって以来、マリウポリでは少なくとも1300人の民間人が殺害されたと述べた。CNNではこの犠牲者数について確認できていない。

マリウポリとボルノバーハは完全に封鎖された状態となっている。ウクライナは、ロシア軍が停戦合意に違反したと訴えている。

ウクライナ政府は10日、国内の複数カ所で避難回廊を開くと発表した。現地時間の午前10時現在、市民を安全な地域へ脱出させるための回廊について、ロシアや国際人道支援団体との合意が成立したのかどうかは分かっていない。

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