トランプ氏とロシアの関係調査の発端、米特別検察官による捜査の最新展開を解説

ダーラム特別検察官(左)が、トランプ氏のいわゆる「ロシア疑惑」の出所を調べている/Dept. of Justice/Getty Images

2022.02.19 Sat posted at 18:00 JST

(CNN) 米連邦捜査局(FBI)によるドナルド・トランプ氏とロシアの関係の調査が始まった発端について捜査を進めるジョン・ダーラム特別検察官が、先週末に裁判所に謎めいた書面を提出し、右派の怒りに火をつけた。

提出された新たな書面は、2016年大統領選で民主党候補のヒラリー・クリントン陣営の弁護士を務めたマイケル・サスマン被告に対する訴追内容を肉付けするものだった。サスマン被告はFBI幹部との会合で、当時候補者だったトランプ氏とロシアのつながりについて、幹部にうそをついた疑いがかけられている。ダーラム氏は書面の中で、サスマン氏の仲間がトランプ政権のホワイトハウスに探りを入れるために、政府のデータベースを「悪用した」と示唆した。

これを受けトランプ氏を支持するメディアは報道の嵐となり、共和党議員やトランプ氏本人も怒りを爆発させた。それらは歪曲(わいきょく)や誤った主張、誤情報であふれたものとなった。

サスマン被告の弁護士は14日に反論を提出し、ダーラム氏は重要な事実について誤っていると主張。データは適切に取得されたものであり、トランプ政権が始まる以前のものだったと述べた。また、ダーラム氏が右派メディアに向けて故意に誤った話をしたとも批判した。

本件に関係したサイバー分野の研究者は、自分たちは非政治的な行為者であり、発見したデータから国家安全保障上示唆されることに懸念を抱いていたと述べている。また、ダーラム氏が自分たちの電子メールから都合のいいものを選び出し、自分たちがトランプ氏とロシアについて根拠のない話を作り上げたように見せているとも話す。

5年以上前に始まった本件の最新の展開を以下で解説する。

ダーラム氏が新たに提示した内容は?

ダーラム氏は以前、サスマン被告が16年にトランプ氏にダメージを与えようと、サイバーセキュリティーの研究者やデータサイエンティストと協力していたと指摘していた。サスマン被告がトランプ氏とロシアのつながりでスキャンダルを掘り起こし、メディアや米当局に売り込むことで、捜査が始まることを期待していたとされる(サスマン被告はFBI幹部に対する虚偽の陳述で訴追されているが、罪状を否認している。裁判は今年、事実審理に入る予定)。

ダーラム氏は、こうした研究者が「DNSルックアップ」と通常呼ばれる、ドメイン・ネーム・システムのデータを調べていたと述べた。これは電話帳で電話番号を探す行為に似たもので、コンピューターがサーバーとつながる準備ができるときにログ(記録)が作られる。ただ、このルックアップ自体が何らかの会話の存在を証明するものではない。ダーラム氏は、サイバー分野の研究者が連邦政府との契約を通じて、膨大なDNSデータにアクセスできたと主張している。

サスマン被告の仲間は、警戒に値する可能性のある、トランプ氏からロシアへのつながりを見つけたと考えた。そして、それは安全保障上の脅威を探すという政府との契約の範囲内のものだったと述べている。

あるデータセットは、トランプ氏一族が経営するトランプ・オーガニゼーションと、モスクワ最大の民間銀行であるアルファ銀行のつながりを示している可能性があった。別のDNSルックアップは、ロシア製スマートフォンがトランプタワーとホワイトハウスで使われた可能性を示唆していた。ダーラム氏は最近裁判所に提出した書面で、このデータがトランプ氏の在職期間中のものであるとの印象を与えた。現在、この点が激しく争われている。

サスマン被告はデータで何をした?

ダーラム氏は以前、サスマン被告が16年9月にFBI幹部と会い、トランプ氏とアルファ銀行の関係の可能性について情報を渡したと明らかにした。サスマン被告は17年2月に米中央情報局(CIA)当局者とも会った。ダーラム氏は最近裁判所に提出した書面で、ここで話された内容について新たな知見を示した。

ダーラム氏によると、サスマン被告はCIA当局者との会合で「こうした(DNS)ルックアップは、トランプ氏やその仲間が珍しいロシア製のものとみられる無線電話機をホワイトハウス近辺や他の場所で使っていることを証明するものだと主張した」という。

サスマン被告の弁護士は、これはサスマン氏がCIAに伝えた内容とは異なっており、ダーラム氏もそれをわかっていると主張する。また、この会合はトランプ氏就任後に開かれ、選挙運動にダメージを与える試みにはなりようがないとも強調した。

弁護士は裁判所への提出書面で「特別検察官は、(CIAに)提供されたデータがトランプ氏就任以前の期間、つまりバラク・オバマ氏が大統領だった時期に関するものだけだったことを十分認識している」と述べた。

FBI幹部に対する虚偽の陳述で訴追されたサスマン被告=2021年9月

トランプ氏と支持者からの反応は?

トランプ氏とその支持者はダーラム氏の主張を額面通り、またはそれ以上に受け取っている。この提出書面で、トランプ氏が影の政府(ディープステート)による同氏の選挙運動やホワイトハウスを偵察する陰謀の犠牲者だったことが証明されたと誤った主張を展開。トランプ氏は驚くべきことに、関与した人間はその行為で死刑に値すると示唆した。

トランプ氏はうそに満ちた報道発表で、ダーラム氏は「私の選挙運動と大統領職が偵察されていたという争いようのない事実を明らかにした」と誤って述べた。トランプ氏支持者で元国防総省当局者のカシュ・パテル氏は、クリントン陣営が「トランプ大統領とロシアのつながりをでっちあげる犯罪的な企てを練り上げようと(サスマン被告の所属法律事務所だった)パーキンス・クイの弁護士らに直接資金を提供し、指示していた」ことをダーラム氏が証明したと誤った主張をした。

フォックス・ビジネスの司会者マリア・バルティロモ氏は、クリントン陣営が「トランプ氏の大統領就任前及び在職期間中に」トランプ氏の偵察に金を払っていたと述べた。ただ、ダーラム氏は誰かがトランプ氏の電話を調べていたとは一切言っていない。バルティロモ氏を含めフォックスの司会者やゲストの多くはダーラム氏の提出書面について誇張したり歪曲したりしている。

サスマン被告は右派による過熱ぶりは偶然ではないとの見解を示す。サスマン被告の弁護士は反論書面で「特別検察官は不公正で偏見のあるメディア報道をたきつけようとする取り組みに成功しているようにみえる」と述べ、保守系メディアのニューヨークポストやブライトバートなどの記事を引用した。

トランプ氏とロシアに関するデータは正確だったのか?

トランプ・オーガニゼーションとアルファ銀行の間にあると主張された接触について、両社とも裏のつながりの存在や16年の選挙での共謀を否定した。

司法省の監察官によると、FBIはその基礎となるデータを調査し、不適切なサイバー上のつながりはないと結論付けた。超党派の上院情報委員会は18年の報告書でFBIの結論を受け入れた。ただ、「通常ではない活動」でトランプ・オーガニゼーションとアルファ銀行が矛盾した説明をしたとも指摘した。

ロシア製電話については、ダーラム氏はトランプ氏の仲間がホワイトハウス付近でこの機器を使ったとの主張を「支持するものは何も見つけられなかった」と述べた。だが、サスマン被告や前述の研究者らは、この説明は誤認を生むものだと主張。自分たちが見つけた奇妙なデータはトランプタワーと、別の機会にオバマ政権時代のホワイトハウスで見つけたものであり、15年のロシアによるハッキング後、安全保障上の脅威を探している中での出来事だったと述べた。

この長い話の続きはどうなる?

法律の専門家は、サスマン被告を訴えるダーラム氏の根拠の強さに疑念を示している。FBIに対してついたとされるうそに関する証人は1人しかおらず、この証人はその状況について異なる説明をしている。サスマン被告は事実審理に入る前に、証拠不十分を理由に判事に訴えの却下を求める方針。その点に関する被告の最初の弁論は18日に予定されている。

ダーラム氏がサスマン被告をCIAとの会合に関する犯罪で訴追できる5年の時効は過ぎたように見える。サスマン被告はCIAに渡した情報について、疑う理由は何もなかったと主張している。ダーラム氏による捜査は継続中で、他の誰かを訴追したり、より大掛かりな反トランプ氏の陰謀の存在を主張できる証拠をダーラム氏が握っているかどうかはわからない。

皮肉にも、この長く続く展開で、多くの重要なプレーヤーが立場の逆転を目の当たりにしている。

左派の内部では、ロバート・マラー特別検察官による捜査がトランプ政権を引きずり下ろし、トランプ氏やその家族を刑務所送りにするとの考えが広がっていた。だが今は、トランプ氏やその支持者が息を弾ませてダーラム氏の調査を誇大に宣伝し、進展があるたびに民主党幹部に対する衝撃的な起訴が迫っている証拠だと歓迎する状況になっている。

本稿はCNNのマーシャル・コーエン記者による分析記事です。

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