死亡したISIS指導者、目立たぬ存在も暗い過去

過激派組織イラク・シリア・イスラム国(ISIS)のアブイブラヒム・ハシミ・クライシ指導者/Rewards For Justice/US Department of State

2022.02.04 Fri posted at 14:50 JST

(CNN) シリア北西部で3日朝、勢力を回復する途上にあった過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の指導者が、米軍による急襲作戦中に死亡した。

米国防総省の高官によると、アブイブラヒム・ハシミ・クライシ指導者は、作戦開始時に爆弾を起爆し、自身の家族とともに自殺した。

クライシ指導者は、ISISの創設者だったアブバクル・バグダディ容疑者が死亡した後、2019年に後継者の地位に就いた。同指導者が組織を引き継いだ際、最大で英国よりも広大だった支配領域は、その多くが消失。観測筋の間でカリフ領なきカリフとの異名をとった同指導者は、組織の再起を模索していた。

ここ数カ月の間、同指導者はシリアやイラク、レバノンの様々な地域でISISの復興を指揮。イラクでは、ISISに関連した暴力沙汰が増加傾向にあると報告されていた。

またシリア北東部に位置するクルド人支配地域では、ISISは同組織の構成員の解放を目指し、数日間にわたって脱獄作戦を仕掛け、子どもたちを含む数百人の収容者が死亡。衝突によってクルド人戦闘員も数十人死亡した。

そうした中でも、クライシ指導者は前任のバグダディ容疑者と同様、目立たない存在として自身を保っていた。米国は「正義への報酬プログラム」において同指導者の情報に対し、1000万ドル(約11億5000万円)の報奨金を提供。組織の中での同指導者の経歴もまた不明瞭だが、ISISの収監者とのインタビューで集められた情報からは、バグダディ容疑者の最側近グループの一員として、暗い過去を持つ男の姿が浮かび上がってくる。

「正義への報酬プログラム」によるとクライシ指導者は、「イスラム国」へと変貌(へんぼう)する以前の組織「イラクのアルカイダ」で「宗教学者」となった。14年には同国北西部に暮らす少数宗派ヤジディ教徒の拉致、虐殺、人身売買を推し進め、正当化することに助力したという。

作戦の進行を確認するバイデン米大統領やハリス副大統領、国家安全保障チームのメンバー

ヤジディ教徒のコミュニティーの多くは、一部のアナリストがクライシ指導者の出身地と考えているイラク北部の町タルアファルに近い地域で暮らしている。14年にISISがタルアファルやモスルを掌握した後、同教徒の女性や子ども数千人を奴隷化し、男性数千人を殺害した。国連はこれをジェノサイド(集団殺害)と呼んでいる。

テロといった主要国際犯罪の調査や証拠収集に当たるNGO「国際正義説明責任委員会」は、クライシ指導者が「イスラム国によるヤジディ教徒の女性や子どもたちの奴隷取引において、重要な立案者の1人」と指摘。

同団体のネルマ・イェラチッチ副代表は、「彼は個人的に、捕らわれていた女性たちを奴隷化し、レイプした」と述べている。

対テロ専門家のダニエレ・ライネリ氏はクライシ指導者について、「2010年以来の期間を、ほとんど注目されることなくやり過ごしてきた副官」だと指摘。だがISISの高位者たちが戦場で捕まったり死んだりすると、グループ内の理論的指導者の1人となったと説明した。

サウジ国営テレビ局アルアラビーヤによる18年のインタビューで、イラクで拘束されていたISISの幹部はクライシ指導者を「バグダディの取り巻きグループの中で最も目立っている」と述べている。

ISISはクライシ指導者の死を今も認めておらず、後任を誰が務めるかについても分かっていない。バグダディ容疑者の側近たちで逃げているとみられる人物はほとんど残っていない。

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