欧州の小国リトアニア、台湾を巡り中国と渡り合う

リトアニア首都に開設された台湾代表事務所に飾られる台湾とリトアニアの旗/Janis Laizans/Reuters

2022.02.04 Fri posted at 15:30 JST

(CNN) 興味深い争いが東欧の小国リトアニアと中国の間でこの数カ月起きている。リトアニアは人口300万人弱、かたや中国は間もなく米国をしのぐ可能性がある経済を有する超大国だ。

すべては昨年始まった。リトアニアが数カ月の間に2回も中国の目を突いたのだ。

最初は、東欧や中欧の17カ国が中国との関係性を深める「17+1」と呼ばれるグループからリトアニアが脱退したことだった。その後リトアニアは他の構成国にも脱退を呼びかけた。中国は「一帯一路」と呼ばれるインフラプロジェクトをはじめ、この地域に数多くのビジネス上の権益を持っている。これを考えれば、中国にとって欧州からの反発はどんな形でも望ましいものではない。

次は昨年11月だ。リトアニアは欧州で初めて、台湾に「台湾」の名前で事実上の大使館を開くことを認めた。欧州や米国における同様の事務所は、台湾が首都とする「台北」の名を使い、中国からの独立を暗示する呼び名を避けてきた。台湾の外交部(外務省)はリトアニア首都ビリニュスでの台湾代表事務所の開設について、「台湾とリトアニアの新しい、前途ある道を開くことになる」と述べた。

中国はこの動きに怒りを示し、「一つの中国」原則を侮辱するものだと捉えている。一つの中国原則とは、台湾を独立した主権領域ではなく中国の一部と主張するものだが、内戦以降70年以上、中国と台湾は別々に統治されている。中国との外交関係を希望する国は、この原則を外交上認識する必要がある。

リトアニアは、新しい台湾の事務所は公式な外交的地位を持たず、一つの中国原則に反するものではないと説明する。だが、中国はすぐにリトアニアとの外交関係を格下げして応酬した。リトアニアは中国が自国へのリトアニア製品の流入を妨げ、実質的に貿易障壁を作り出していると主張している。中国政府はこうした主張を繰り返し否定し、中国の「核心的利益」を損ない、二国間関係を厳しい凍結状態に追い込んだのはリトアニアの方だと批判している。

こうした動きに対し、台湾は中国に輸出されるはずだったリトアニアの製品――ラム酒の瓶2万400本を含む――を買い上げ、中国からの圧力に直面するリトアニア支援のために同国の産業に数億ドルの投資をすると約束した。

この争いは欧州連合(EU)も巻き込む形となり、EUは加盟国のリトアニアを支持している。EUは中国によるリトアニアの扱いを、EUの他の加盟国への脅威とみなしてる。そうした各国の多くは中国とより深い経済的つながりがあり、それをさらに深化させたいと考えている。

1月27日には、EUは世界貿易機関(WTO)に中国を提訴。中国のリトアニアに対する差別的な貿易慣行を非難し、そうした慣行は欧州単一市場からの他の輸出品にも打撃を与えているとした。

WTOへの提訴は、EUの中国に対するより強硬な姿勢の始まりに過ぎない可能性がある。こうした行為が今後、中国からの貿易戦争という形の報復を招くのか、または中国の対欧州投資の中止という形で表れてくるのかはまだ定かではない。

昨年11月18日に撮影されたリトアニアの台湾代表事務所のロビー

「中国は教訓を学ぶ必要がある」

1990年、リトアニアはソビエト連邦の構成国で最初にモスクワの共産党からの独立を宣言した。その後はEUと北大西洋条約機構(NATO)に加盟したが、それはまさに社会主義国の拡大に対するチェックの役割を担う機構だった。

この文脈から見れば、台湾に対する敵意を含め、自国の領域に敵意を示す――同様に欧州の小国に対して貿易を武器として使う――中国のような国は、ソビエト時代の生活を記憶する国々にとって自然と警戒心を抱かせる存在となる。

リトアニアのクビリュス元首相はCNNに対し「中国は教訓を学ぶ必要がある。なぜなら、これまで彼らが我々の価値観やルールに沿わない方法で振る舞うことが許されていたのは、単に彼らがとても金持ちだったからだ」と語る。

「より大きなEU加盟国が、これについて自分事として立ち上がっていただろうとは思わない。もしかしたらこれはリトアニアが起点となって他国に広がり、やがては欧州が我々の基準に満たない国に対して団結して立ち向かうという流れになるのかもしれない」(クビリュス氏)

リトアニア当局が他国よりもこうした姿勢を取りやすかった理由の一つは、輸出先に占める中国の割合が小さいことだ。貿易データを視覚化する経済複雑性観測所によれば、リトアニアの輸出先のうち、中国は近年最も輸出が伸びている国の一つであるものの、その割合はロシア(13.1%)や米国(3.64%)に比べるとわずか1.18%にとどまっている。

リトアニアにとって、強硬路線の姿勢は道徳上の使命を果たす以上の意味を持っている。当局者はCNNに対し、中国に対抗することで、ロシアに対してメッセージを発することを期待していると語る。

オーストリア欧州安全保障政策研究所(AIES)の代表ベリナ・チャカロバ氏は、リトアニアは「NATO加盟以降、常にロシアからの圧力にさらされている。リトアニアは、中国やロシアの独裁体制に誰も屈しはしないというEU加盟国内の前例を作ろうとしている」と語る。

リトアニアの当局者はCNNに、中国に立ち向かうことで、独裁体制を押し返すEUの前例を作ることになるかもしれないと語る。リトアニアのある外交高官は、欧州により効果的な抑圧への対抗措置を持たせることが戦いの大詰めになると語った。

EUは最近、ある法的メカニズムを提案した。それはEUが経済的な脅しに対して「組織化された、一様な方法」で対抗することを可能にし、「状況ごとに応じた、相応な対応」を講じるものだ。関税や輸入制限、EU内部市場へのアクセス制限といった手段を含みうるものとなる。

だがEUに加盟する多くの小国は、他の加盟国――特に中国と大規模な貿易をしている国――がいざとなったときにこれを支持するのかどうか、懐疑的な考えを内々に抱いている。

中国との強固な経済関係は「戦略的自立」を目指すEUの運動の重要な柱となっている。戦略的自立とはEUが使う用語で、EUが地政学上のパワーとして米国の影響からの独立色を強めることを意味する。この考え方は、欧州が中国と経済的に連携することで、米中間で押しつぶされることなく、両国間の架け橋として動くことができるというものだ。

フランスをはじめとする大国の加盟国は、この戦略的自立を強力に支持している。欧州の政治家は中国によるウイグル族イスラム教徒に対する扱い、香港の民主主義抑圧、台湾に向けた敵意に不快感を募らせているが、お金の話になると中国を遠ざける準備が十分できていない国が多数の状況にある。

チャカロバ氏は、「リトアニアは中国を論争に引き込むことで、欧州における米国の立場を強めようとするとともに、EUやその主要加盟国(ドイツとフランス)に中国との二国間関係から生じる将来的なリスクや危険性を警告しようしている」との見方を示す。

詰まるところ、リトアニアはこうした国々に声を上げさせたいと考えている。だが、そううまくいくだろうか。

台湾代表事務所が入るビルの外観

微妙なバランス

リトアニア国内では、同国の強硬路線が既に結果を生んでいると考える人もいる。当局者はフランスが他国と並んでリトアニアを支持し、中国に状況の緩和を求めているという事実を指摘する。これは特に今重要で、フランスはEUの持ち回り制の議長国を担当し、また大統領選のさなかにある。先月にはスロベニアも台湾との貿易を強化すると発表した。

EUの執行機関である欧州委員会のある高官はCNNに、EUの立場としては、リトアニアは一つの中国原則に反しておらず、もし中国が敵対的姿勢を続けるならば一つの中国原則に反している証拠を示す必要があるというものだと説明する。リトアニア当局者はこうした状況を勝利だと位置付ける。

だが、誰もがこの戦略が大きな成功を収めていると考えているわけではない。リトアニア国内でさえ、そう考えない人がいる。

リトアニアのナウセーダ大統領は台湾代表事務所の開設を支持する一方で、その名称は不必要に挑発的で、リトアニアは今、その「結果」への対応を迫られているとの考えを示す。

中国はこれに対し、過ちを認めるのはいいスタートだとしつつ、リトアニアはまだ一つの中国原則に反した状態にあるとの認識に立つ。

EUは最近、地政学的な問題で団結した行動をとるようになっている。苦い陰口をたたかれた数年を経て、英国の離脱や新型コロナウイルスの世界的流行の経験からEUの首脳が学んだのは、共通利益の分野における団結とは、リトアニアのような小国でも、世界で最も金と力がある国の一つに立ち向かうためにEUのメカニズムを利用できることを意味するという点かもしれない。

ただ、リトアニアの姿勢やそれと同調する姿勢をとるEUが、中国から譲歩を引き出せるかどうかはまた別の問題だ。歯に衣着せぬ国家主義的な中国国営のタブロイド紙「環球時報」の社説は最近、リトアニアが関係回復のために取るべき一連の措置を並べ、「彼らがどんな策を用いようと、中国は原則の問題で少しも譲歩するつもりはない」と警告した。

だが、専門家が一致するのは、たとえ可能性がわずかであっても、この件で中国から譲歩を引き出せる可能性がある方法は、欧州諸国が共同戦線を張ることだ。

長年の人権活動家で英国を拠点とする団体「香港ウォッチ」の運営責任者、ベネディクト・ロジャーズ氏は「中国が分断統治にたけ、各国を他国と争わうように仕向ける能力がある一方で、各国が団結して中国に対抗して立ち上がれば、中国のいじめ戦術の効力は弱まり、中国への圧力がより大きな影響力を持ちうる」と語る。

この争いは小さなものに見えるかもしれないが、ここで問題となっているのは、EUが中国との経済関係と、加盟国に対する義務や道徳上の価値観との折り合いをつける方法を探そうとしてきた何年にも渡る取り組みだ。そのバランスがあとどれほど持つのか、それが問題となる。

本稿はCNNのルーク・マギー記者による分析記事です。

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