アイルランド漁師、ロシア海軍に方針転換強いる 砲艦外交ならぬ漁船外交

アイルランド南端の漁村キャッスルタウンベアが国際外交で注目を集める出来事があった/Lewis Whyld/CNN

2022.02.02 Wed posted at 06:57 JST

アイルランド・キャッスルタウンベア(CNN) アイルランド南端の漁村キャッスルタウンベアは先週末、安堵(あんど)のため息に包まれた。地元漁師らがアイルランド沖で実施予定のロシア海軍の演習によって生計が脅かされる可能性があると訴えたところ、ロシア政府が場所の変更を決めたためだ。

ロシアの方針転換が報じられた後、地元の漁業生産者団体のトップ、パトリック・マーフィー氏は1月29日夕のCNNの取材に「本当に驚きだ。ちっぽけな年老いた我々が国際外交に影響を与えるとは思わなかった」と語った。

ウクライナ国境で危機が続くなか、ロシアと西側諸国の間では緊張がくすぶり続けている。

ロシア軍はアイルランド沿岸から約240キロ離れた同国の排他的経済水域(EEZ)内で演習を実施する計画だった。アイルランドの漁師によると、大西洋の一部であるこの海域は生活にとって極めて重要だという。

アイルランド運輸省は先週の通知で、これらの演習には「艦砲の使用やロケットの発射」が含まれると指摘し、「演習区域で深刻な安全上のリスクが生じる」可能性に言及した。

当初の予定では演習は2月上旬に実施されることになっており、キャッスルタウンベアの住民からは、その危険性に関して「不安」「心配だ」という声が漏れていた。

マーフィー氏は先週、漁師らの主張を訴えるためロシアのフィラトフ駐アイルランド大使と面会。ロシア側に対して海軍の活動に関係なく漁に出る予定だと伝えた。

地元の漁業生産者団体のトップ、パトリック・マーフィー氏

砲艦外交ならぬ「漁船外交」は世界中のメディアで大々的に取り上げられたが、ロシアに抗議しても無駄だろうとの見方が大半だった。

ロシア大使館の報道官によると、フィラトフ氏は当初、漁師らに「関係者全員を危険にさらしかねない挑発的な行動は控えるよう」促していた。

しかしロシアは29日夕、アイルランド政府や漁師からの訴えを受け、「善意の印」として演習の場所を移動すると発表。「漁業活動を妨げないようにする目的だ」と述べた。

アイルランドのコベニー外相兼国防相は同日夕のツイートでこの発表を歓迎。アイルランドの政府当局者は同日、CNNに対し、発表前の48時間あまりにわたってロシアと懸命の交渉を行ったことを明かした。

だが、29日夜に本当のお祭り騒ぎの舞台となったのは、モスクワからもダブリンからも遠く離れたキャッスルタウンベアだった。

マーフィー氏は、自分たち漁師が国際的な問題提起を行ったことがきっかけとなり、ロシア政府の翻意を促すことができたとの見方を示す。

漁師のアラン・カールトン氏

「ロシアが数人の漁師の言うことに耳を傾けるとは思いもよらないだろう。単純で小さな会話に物事を変える力があることを示しているのではないか。これは大きなことだ。言葉の力は銃の力にはるかに勝る。とてもうれしい」(マーフィー氏)

別の漁師のアラン・カールトン氏は方針転換の発表前、CNNの取材に「実弾発射が魚や海洋生物に打撃を与えないか心配。私たちの海では誰にも実弾を発射してほしくない。ここは私たちの裏庭であり、生活と生計の場だから」と語っていた。

いま、同氏はロシアの件を「おかしな夢」だったと呼んでいる。

カールトン氏は32年間、この海域で漁を行ってきた。少数のチームと一緒に海に出てエビやアンコウ、カレイなどの魚を捕る。10代で家業に携わるようになって以来、漁業の衰退を目の当たりにしてきた。

「私たちは皆人間だから、誰だって生計を立てたい。誰もが住宅ローンを抱えていて、返済の必要がある。魚を追いかけて生計を立てること。私たちが望むのはそれだけだ」(カールトン氏)

アイルランドの漁師が「漁船外交」

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