翼なしで飛ぶような速さ、世界最速の列車10選

1:上海マグレブ レール上を磁気浮上(マグレブ)技術を使用して乗客輸送する営業運転で世界をリード/Costfoto/Barcroft Media/Getty Images

2022.01.31 Mon posted at 06:57 JST

(CNN) 世界が気候変動に直面する中、多くの旅行者にとって短距離フライトはもはや魅力的な移動手段ではなくなってきた。北欧から始まった飛行機の利用を恥だと考える「フリーグスカム(飛び恥)現象」は、旅行者に航空路線への依存度を減らすよう促している。

反証がない限り、高速鉄道は最大1100キロメートルまでの移動において、飛行機に代わる最も効果的な手段である。都市間を時速290キロ以上のスピードで移動する高速鉄道は、スピードと利便性を兼ね備えた魅力的な交通手段だ。

鉄道は大人数を高速で輸送できるため、まだ実績がなく座席数も少ない「ハイパーループ」のような次世代型の高速輸送システムよりもはるかに効率的だ。

欧州やアジアでは1980年代以降、日本の新幹線やフランスの高速鉄道TGVに代表されるような新型の高速鉄道に数千億ドルが投じられてきた。

中国はこの10年間で、国土のほぼ隅々にまで達する3万8000キロの新鉄道網を構築し、紛れもなく世界を先導する立場となった。

スペイン、ドイツ、イタリア、ベルギー、英国は、欧州の鉄道網を拡大しており、2030年代までには他国もこれに追随すると予想されている。

2018年には、アフリカ大陸初の高速鉄道「アル・ボラク」線がモロッコで開通し、エジプトも2020年代末までに高速鉄道を開業する計画だ。

そのほか世界では、韓国、サウジアラビア、台湾が高速鉄道路線を開設済みだ。またインド、タイ、ロシア、米国などをはじめ、主要都市間を時速250キロ以上で駆け抜ける新型鉄道の建設に取り組む国が増えている。

では2022年、世界最速の列車で旅ができるのはどこの国だろうか?

1:上海マグレブ


1:上海マグレブ レール上を磁気浮上(マグレブ)技術を使用して乗客輸送する営業運転で世界をリード/Costfoto/Barcroft Media/Getty Images

世界最速の公共列車はユニークでもあり、レール上を車輪ではなく磁気浮上(マグレブ)技術を使用して乗客を輸送する。列車は上海浦東国際空港と市中心部の竜陽路駅を結び、30キロの道のりをわずか7分半で走り抜ける。

ドイツの技術をベースに開発された列車は高架線に沿って走行し、強力な磁石が摩擦のない非常に滑らかな乗り心地を実現した。

中国は10年以上にわたる定期運行の経験を生かし、時速600キロの磁気浮上式鉄道を独自に開発した。また同国は、上海―杭州間を含む磁気浮上式鉄道の鉄道網構築という野心的な計画を掲げている。

2:CR400「復興号」(中国)


2:CR400「復興号」(中国) 営業最高時速350キロで走行する。試験走行時には時速420キロに到達することに成功した/Chogo/Xinhua/Getty Images

世界最長の高速鉄道網を誇る中国では現在、世界最速の定期列車も運行している。

営業最高時速350キロで走行するCR400「復興号」は、試験走行時には時速420キロに到達することに成功した。復興号は、急成長する中国の鉄道技術産業を誇示する形で、欧州や日本の技術を取り入れて開発された前世代の高速列車から進化させた列車だ。

最大16両編成で、最大乗客数は1200人。座席エンターテインメントやスマートガラス・ディスプレー、ワイヤレス機器充電、スマートキャビンなどの斬新な機能を備えるほか、極端な気象条件や自動運転に対応した車両(自動運転の高速列車は世界唯一)もある。

現在、最速のCR400型は主要路線である北京―上海―香港路線、北京―ハルビン路線に投入されている。

3:ICE3(ドイツ)


3:ICE3(ドイツ) 通常の運転速度は時速300キロだが、遅延時には時速330キロまで速度を上げることが許可されている/Philipp von Ditfurth/picture alliance/dpa/Getty Images

世界的に有名なドイツの高速鉄道インターシティ・エクスプレス(ICE)には、さまざまな路線で運行中のいくつかの高速車両の種類がある。

その中で最も速いのが1999年に登場した時速330キロのICE3。ケルン―フランクフルト間(180キロ)を結ぶ高速列車として開発され、両都市間の移動時間は2002年に2時間半からわずか62分に短縮された。

通常の運転速度は時速300キロだが、遅延時には時速330キロまで速度を上げることが許可されている。試験走行では最高時速368キロを記録した。ICE3の性能の鍵を握るのは、8両編成の車両に配された16個の電気モーターで、1万1000馬力ものエネルギーを出力する。

ICE3はドイツ全土で運行されるほか、ドイツの主要都市とパリ、アムステルダム、ブリュッセルを結ぶ国際列車もある。

またドイツのシーメンスの高速列車ヴェラロ・シリーズはICE3の設計をベースとしており、スペイン、ロシア、トルコ、中国に販売され、高速鉄道ユーロスターの第2世代車としても導入されている。

4:TGV(フランス)


4:TGV(フランス) パリからリヨン、マルセイユ、ボルドー、ナント、ストラスブール、リール、ブリュッセル、ロンドンまで高速鉄道網が拡大し、路線によっては最高時速320キロで運行する列車もある。/Thomas Coex/AFP/Getty Images

フランスは、2007年4月3日に時速574.8キロという、在来線鉄道としては驚異的な世界最高速度の記録を達成し、長年保持し続けている。この速度は秒速150メートルで、世界的に高速鉄道技術のパイオニアとして知られるTGVの通常時の最高時速の2倍近くに相当する。

欧州初の高速専用鉄道網は、現在でも最もよく知られ、かつ成功しており、フランス国外にも鉄道網を拡大している。フランスの鉄道業界は第2次世界大戦以降、従来の鉄道の可能性の限界を徐々に押し広げ、1955年(時速331キロ)、1981年(時速380キロ)、1990年(時速515.3キロ)に既存の記録を打ち破った。

現在、パリからリヨン、マルセイユ、ボルドー、ナント、ストラスブール、リール、ブリュッセル、ロンドンまで高速鉄道網が拡大し、路線によっては最高時速320キロで運行する列車もある。過去40年間、鉄道網の拡大とともに、列車は何世代にもわたって進化を遂げてきた。

1980年代にオレンジ色が象徴的だったTGVは、ドイツ、スイス、スペインなどの近隣諸国への乗り入れが可能な、より高度で大人数を収容できる列車「デュープレックス」に取って代わられた。

また、高速鉄道は輸出面でも大きな成功を収めている。過去30年間でスペイン、韓国、台湾、モロッコ、イタリア、米国にTGVの技術が輸出された。

5:JR東日本E5系(日本) 多くの新幹線は最高時速300キロで運行しているが、E5系は東北新幹線で最高時速320キロで運転。高速でのトンネル進入時に発生するソニックブーム(衝撃音)低減のため、先頭車両の先端は長い

5:JR東日本E5系(日本)

日本は1964年、新幹線という新たな高速鉄道のコンセプトを世界に広め、今でも新幹線の速度、座席数、安全性の限界を押し広げ、世界のリーダーであり続けている。

現在、多くの新幹線は最高時速300キロで運行しているが、JR東日本の新幹線E5系は、東京から新青森を結ぶ東北新幹線において最高時速320キロで運転している。

E5系は座席数が731席、誘導電動機を32基搭載し、出力1万2900馬力という圧倒的なパワーを誇る。車両は軽量アルミ合金製で、高速でカーブを曲がることができる「アクティブサスペンション」を装備している。

また、高速でトンネルに進入する際に発生するソニックブーム(衝撃音)を低減するため、先頭車両の先端が長く設計されている。

E5系は2011年に登場し、計59編成製造された。16年には北海道新幹線も開業し同車両が使われている。北海道新幹線は、津軽海峡の海底下にある全長54キロの青函トンネルを通じ、本州と北海道を結んでいる。

6:アル・ボラク(モロッコ)


6:アル・ボラク(モロッコ) タンジールとケニトラを結ぶ区間を最高時速320キロで走る/Duffour/Andia/Universal Images Group Editorial/Getty Images

18年11月、モロッコの港町タンジールとカサブランカを結ぶアフリカ初、そして現時点でアフリカ唯一の専用高速鉄道が開通した。

イスラムの預言者を運んだ神話上の生物にちなんで「アル・ボラク」と名付けられた。モロッコは総延長1500キロの高速鉄道網の建設を計画しており、開通区間はその第1段階となる。

車両はフランスの2階建てTGV、ユーロ・デュープレックスの派生製品が導入され、タンジールとケニトラを結ぶ186キロの新線区を最高時速320キロで走る。

総額20億ドル(約2300億円)の同プロジェクトには、ラバト―カサブランカ間の既存137キロ区間の高速化も含まれており、最終的な所要時間を4時間45分からわずか2時間10分に短縮する計画だ。

また、カサブランカまでの新線建設が実現すれば、所要時間はわずか90分に短縮される見通し。

アル・ボラクはアフリカにおける鉄道の最高速度記録も保持している。2017年の運行前試験では、アルストム製の12編成のうち1つが新線で時速357キロに達し、アフリカ大陸を走る次に速い列車の2倍以上の速さを記録している。

7:AVE S-103(スペイン)


7:AVE S-103(スペイン) AVEは通常の営業運転で最高時速310キロ。2006年7月にはスペイン記録となる時速404キロを記録したこともある/Oriol Paris/Moment Editorial/Flickr Vision/Getty Images

フランスからTGVの技術輸入を行ったスペインは、1992年に高速鉄道を開業した。それ以来、独自の超高速列車を開発し、マドリードからセビリア、マラガ、バレンシア、ガリシア、バルセロナまで、欧州最長の長距離専用路線網を構築している。

AVEはスペイン高速鉄道の略で、スペイン語で鳥を意味し、通常の営業運転での最高時速310キロ。車両はS―102タルゴとS―103ヴェラロで、後者はドイツのICE3の仲間でより強力な車両となる。

最高速度が時速350キロ、座席数404席のS―103は、スペイン製のS―102タルゴと共にスペインの2大都市間を運行している。

2006年7月には、S―103が時速404キロという鉄道のスペイン国内最高速度を記録。当時、改造されていない商用旅客列車としては世界記録であった。

スペインの鉄道は何十年もの間、低速と長時間にわたる遅延で有名だったが、この30年間でAVEは国内の長距離移動を一変させ、再び国内を網羅する鉄道網を拡大。この進化はさらに続くとみられている。

8:KTX(韓国) KTXは最高時速330キロで運行可能だが、通常の制限速度は時速305キロ。フランスのTGVの技術をベースにした初代KTX―Iは、ソウル―釜山間の所要時間を4時間以上から2時間15分へと半減させた

8:KTX(韓国)

韓国は04年以降、高速鉄道網を急速に拡大した。地形が複雑なゆえに所要時間が長く、競争力のない従来の路線を回避する形で作られた。

04年にソウル―釜山間で開通したKTXは最高時速330キロで運行可能だが、通常の制限速度は時速305キロとなっている。フランスのTGVの技術をベースにした初代KTX―Iは、ソウル―釜山間の所要時間を4時間以上から2時間15分へと半減させた。

韓国は、フランス、日本、中国と並び、時速420キロ以上で走行可能な列車を開発した世界4カ国のうちの1つである。13年には新世代のHEMU―430Xプロトタイプが最高時速421.4キロを記録し、第2世代のKTX HSR-350xが記録した時速352.4キロという韓国の鉄道最高速度を更新した。

最新車両では国産技術を採用し、高い気密性を備えた車両や3層構造のガラスを導入することで、騒音を低減し数多いトンネルにおける不快感を解消した。

主要路線では毎時最大2便運行し、最大20両編成のKTXは、年間数億人の乗客を輸送する高速大量輸送システムである。KTXは、ソウルと南部の光州、木浦、麗水、北東部の江陵を結んでいる。ソウル―江陵線は18年冬季オリンピック開催都市の平昌に乗り入れるために建設された。

9:トレニタリアETR1000(イタリア)


9:トレニタリアETR1000(イタリア) イタリアの国鉄高速列車「フレッチャロッサ(赤い矢)」の営業最高速度は時速360キロ/Alessandro Rota/Getty Images

イタリアの国鉄高速列車「フレッチャロッサ(赤い矢)」は、民間の新たなライバルに対抗する形で2017年に導入された。

設計上の最高速度は時速400キロ、矢のような流線型のデザイン、出力1万馬力など、列車が持つ性能は赤い矢の名に恥じない。

営業最高速度は時速360キロだが、16年の試験走行では時速394キロに到達した車両もある。

列車の全長は200メートル、座数はスタンダード、ビジネス、プレミアム、エグゼクティブの4クラスで計457席。エグゼクティブクラスはわずか10席で、座席はリクライニング式アームチェアを採用した。

同列車はイタリアをT字型に貫く高速鉄道網を運行しており、北部のトリノ、ミラノ、ベネチアとボローニャ、フィレンツェ、ローマ、ナポリを結んでいる。

通常の営業速度は最高時速300キロだが、それでも国内の都市間移動に革命を起こした。ミラノ―ローマ間などの主要路線では鉄道のシェアを大きく伸ばし、イタリアのナショナルフラッグキャリアであったアリタリア航空の経営破綻(はたん)の一端となった。

過去2年間にわたる大規模な試験走行を経て、フレッチャロッサは2022年にミラノ―パリ間の運行を開始し、フランスのTGVと対決することになる。

またフレッチャロッサはスペインにも納入される。マドリードを起点とする高速路線で、スペインのAVEやウィゴーと競合する。

10:ハラマイン高速鉄道(サウジアラビア)


10:ハラマイン高速鉄道(サウジアラビア) サウジアラビアのハラマイン高速鉄道(HHR)は、メッカとメディナの2つの聖都を最高時速300キロで結ぶ/Bandar Aldandani/AFP/Getty Images

うだるような暑さと砂嵐は、高速鉄道にとって理想的な環境とは言い難い。だが、サウジアラビアのハラマイン高速鉄道(HHR)は、メッカとメディナの2つの聖都を最高時速300キロで結んでいる。

スペインのタルゴ35編成を最高気温50度に上る砂漠地帯を走るために特別に改造した車両は、450キロの道のりをわずか2時間で走破する。

HHRの各列車は13両編成、座席数は417席で、年間6000万人の乗客を輸送することが可能だ。この輸送力は、毎年200万人以上のイスラム教徒がメッカの聖地を訪れるハッジ(大巡礼)の際に試される。

18年に開業以来、HHRは2つの聖都間の移動手段として人気を博している。同区間を車で移動すると最大10時間かかることを考えれば、HHRが人気なのは当然だ。

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