黒人の胎児を描いた医学イラストが拡散、書籍に掲載される運びに

黒人の胎児を描いた医学イラストがSNSで拡散した/Chidiebere Ibe

2022.01.29 Sat posted at 18:25 JST

(CNN) 昨年12月、子宮内の黒人胎児の姿を描いたイラストが拡散し、SNSでは多くの人が「黒い肌の胎児や妊婦の描写を見たのは初めて」というコメントを寄せた。

イラストを作成したのは、ナイジェリア人の1年目の医学生チディーベレ・イベさん(25)。これほどの注目度は驚きだったといい、今回の絵は「医学イラストの多様性を提唱するために私が描いた絵の一つに過ぎない」と話す。

この絵がきっかけとなり、医学イラストにおける多様性の表現の欠如について議論が巻き起こった。こうした絵は通常、病態や処置方法を示す目的で教科書や科学誌に掲載される。

イベさんは「未来のアフリカ人神経外科医協会」のクリエイティブ・ディレクターを務める。このたび、各種の症状が黒い肌の上でどのように見えるかを示したハンドブックの第2版にイラストの一部を掲載する招待を受けた。

同書は2020年に初版が刊行された。共著者を務めたロンドンの医学生、マローン・ムクウェンデさんはイベさんのイラストについて「医学の世界に平然と存在していて、私たちが気付いていないかもしれない偏見の一部を明るみに出した。私たちの頭の中で無意識の偏見が育たないようにするには、医療における多様性の表現が欠かせない」と指摘する。

イベさんはナイジェリアで化学の学位を取得し、現在はウクライナで医学を学ぶ。医学イラストは20年に描き始めたばかりだが、すでに人体構造に加え、皮膚疾患の白斑や口唇(こうしん)ヘルペス、胸部感染症、脊椎(せきつい)損傷などの症状を描いたイラストを制作した。描かれているのはいずれも黒人だ。

チディーベレ・イベさん

黒人の皮膚症状はイラストがないため、医学生による診断が難しくなっているとイベさんは指摘する。ムクウェンデさんは2人で力を合わせれば、多様性ある医学の教科書とはどうあるべきかを示した「世界への青写真」を作成できると語り、同書が「多様な肌の色の表現を調べる定番の教科書」として知られるようになればと期待を示した。

多様性の表現に「大きなギャップ」

米カリフォルニア大サンフランシスコ校皮膚科のジェナ・レスター助教はイベさんのイラストを「素晴らしい」と絶賛する。

レスター氏は同大の「スキン・オブ・カラー」プログラムの責任者を務める。黒人やアジア系、中南米系、先住民の人々が自分たちの症状を理解し、より安心して治療を受けられる場を提供するのが目的だ。

レスター氏が皮膚科の世界に存在する「大きなギャップ」に気付いたのは学生時代のこと。講師の1人が授業で、一部の症状は黒い肌では見え方が異なると説明したものの、実際にどう見えるかは教えてくれなかった。


イベさんは2020年から医学イラストに取り組み、様々な症状や解剖学的構造を描いている。対象はどれも黒人だ/Chidiebere Ibe

「全体的に多様性の表現を増やすことが重要だと思う」「若い人は自分たちがこのような形で表現されているのを見て触発され、科学の分野に進んだり、医師や看護師などになったりするかもしれないから」(レスター氏)

こうした多様性の欠如は複数の研究で示されている。豪ウーロンゴン大学の研究チームが14年の研究で解剖学の教科書におけるジェンダーバイアスを調査したところ、08~13年に教科書17冊に掲載された性別を特定可能な画像6000枚あまりのうち、大多数は白人のもので、女性のものは3分の1ほどに過ぎなかった。

新型コロナで医療格差が浮き彫りに

欧米の一部の国では、新型コロナウイルス禍により有色人種に偏った影響が出ている。米疾病対策センター(CDC)の研究では、米国の人種的・民族的少数派は白人に比べ、新型コロナで入院や救急治療に至る割合が高いことが判明した。

レスター氏は「新型コロナ感染症は山積する格差の問題を浮き彫りにした。これをきっかけに、皮膚科などの分野に潜む格差とその表れ方について考えるようになった」と語る。

イベさんは子どもの先天性欠損についての教科書に取り組んでいる。挿絵には黒人の皮膚のイラストを使うという

レスター氏が共同執筆した論文は20年5月の英皮膚科専門誌に掲載された。これによると、新型コロナの皮膚症状について説明した科学論文は「必ずといっていいほど、明るい色の肌の患者の臨床画像を掲載しており」、暗い肌での症状の写真は掲載されていなかった。このため、皮膚科医や市民が新型コロナウイルスの症状を特定するのが困難になっている可能性があるという。

そのうえ、暗い肌の人に対しては一部の医療機器の有効性が落ちるという問題もある。光とセンサーで血液の色を感知して酸素濃度を測定するパルスオキシメーターは、コロナ禍で使用が増えたが、肌の色が暗いと正確な測定値が得られないことが分かっている。暗い肌の人向けに調整されていない場合、肌の色が光の吸収の仕方に影響を与える可能性がある。

「肌の状態だけの問題ではない」とイベさん。「重要なのは、あらゆる人にその人にふさわしい価値を与えること。黒人、白人、アジア人の分け隔てなく、誰もが私たちにふさわしい平等な医療を受けられるようにしよう」と話している。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。