廃タイヤに入ったヤドカリ脱出できず、「幽霊漁業」の実態解明 弘前大研究

ヤドカリが廃タイヤに入り込んで出られなくなってしまう現象に関する調査結果が発表された/Adobe Stock

2021.11.01 Mon posted at 15:12 JST

(CNN) 海洋に投棄されたタイヤの中に、ヤドカリが入り込んで脱出できなくなっている――。弘前大学の研究者が行った調査で、そんな「ゴーストフィッシング(幽霊漁業)」の実態を解明した。

餌や隠れ場所を求めてタイヤの内側に入り込んだヤドカリは、内部構造に阻まれて脱出できないまま死んでいた。人間が捨てた漁網などの廃棄物に海洋生物が絡まるこの現象がゴーストフィッシングと呼ばれる。

弘前大学の曽我部篤准教授は、2012年に陸奥湾で行った調査でこの現象に気づいた。陸奥湾沿岸のヨウジウオをモニタリングする過程で、廃タイヤの内側に大量の巻き貝の殻やヤドカリが存在することを発見したという。

曽我部氏はCNNの電子メール取材に応じ、タイヤの中に入り込んだヤドカリは、タイヤの反り返った内部構造のために脱出できなくなり、やがて死んだと思われると指摘。それを自身で証明したかったと述べている。

この調査で見つかったヤドカリの殻は、ひどく破損していた。閉じ込められたヤドカリたちの間で共食いや殻の奪い合いが起きていたことがうかがえると研究者は指摘する。

研究チームは水槽と海中で、ヤドカリがタイヤから脱出できるかどうか調べる実験を行った。海底に廃タイヤを設置し、侵入したヤドカリを月1回採取して調べた結果、タイヤの中に閉じ込められたヤドカリは1年間で1300匹近くに上った(ヤドカリは1回のみ実験に使用した後、採取場所の近くに放された)。

タイヤから脱出できたヤドカリは、1匹もいなかった。

曽我部氏は今回の研究について、タイヤの化学物質や物理特性だけでなく、タイヤの形状も海洋生物に悪影響を与え得ることが示されたと解説している。

ヤドカリは食物連鎖の中で、死骸をあさって海底をきれいにするなど重要な枠割を果たしている

海洋科学に詳しいオーストラリア・タスマニア大学講師のジェニファー・ラバーズ氏によると、ヤドカリは海岸の土壌をかき回して循環させ、ヤシの木のような植物の繁殖や再生を手助けしている。海中では生物の死骸をあさって海底をきれいにする役割を果たす。

さらに、魚やウミドリの食物連鎖の最下層にあって、安定した食糧源を提供している。

米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)によれば、タイヤは約6~10年の寿命を終えると、一部はリサイクルされたり用途を変えたりして使われるものもあるが、多くは水中に投棄される。

オランダ公開大学の17年の報告によれば、海洋のマイクロプラスチックの最大で10%は廃タイヤが原因だった。

ヤドカリは海岸でも、ペットボトルなどの容器による汚染の犠牲になっている。ラバーズ氏が19年にオーストラリア領のココス(キーリング)諸島で行った調査では、ヤドカリがプラスチック容器を殻と勘違いしていることが判明。1平方メートルごとに1~2匹のヤドカリが、プラスチック容器に閉じ込められていた。

ラバーズ氏は弘前大学の研究について、この問題が当初考えていたよりも広範に及んでいることを物語ると指摘する。

ウミガメのような生物が、廃棄された漁網や釣り糸に絡まることもある。メキシコ沖では18年、300匹以上のウミガメが死んでいるのが見つかった。

「海岸の飲料ボトルだけでなく、車のタイヤを含むさまざまな種類のごみが、我々の予想していなかったさまざまな生息地で、もっと多くの種に影響を及ぼしているようだ」とラバーズ氏は警鐘を鳴らしている。

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