(CNN) 米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「パーサビアランス」がとらえた画像を通して、科学者たちは数十億年前の火星の姿を明らかにしようとしている。
サイエンス誌に7日掲載された画像の分析結果によると、パーサビアランスが探索しているジェゼロ・クレーターは37億年前、静かな湖だった。湖に流れ込む小さな川は時に激しい鉄砲水を引き起こし、その威力ははるか上流にある大きな岩を湖まで運んでくるほど強かったという。
クレーター内にある岩層の露出部分の画像からこうした科学的分析が行われるのは初めて。この露出部分は軌道上を周回する探査機からも撮影されており、地球でみられる扇形の河川デルタに似た地形であることが確認できていたが、今回のパーサビアランスの画像はデルタ地形の存在を示す決定的な証拠となっている。
ジェゼロ・クレーターの「デルタ・スカープ」の合成画像。急ながけのある大地と底の部分が両方写り、興味深い地質学的特徴が捉えられている/MSSS/ASU/CNES/LANL/JPL-Caltech/NASA
研究論文の共著者でフロリダ大学の宇宙生物学者、エイミー・ウィリアムズ氏は、パーサビアランスの画像により火星の水循環についてはるかに多くの知見が得られると指摘。かつて存在した水によりデルタが形成されたに違いないということは軌道上からの画像で分かっていたが、今回の画像を通じ、極めて近い距離から当該の岩石を視認できるようになったと語った。たとえるなら本の表紙をただ眺めるのではなく、中身を読む段階に入ったようなものだという。
画像に写る堆積(たいせき)物の層が傾斜して見えるのは、それらが流水によって形成されたためである公算が大きい。層が水平であれば、風など他の要因で作られたものだと考えられる。
露出した岩層の最上部の層には、大型の岩が複数存在する。大きなものは直径1メートルで、数トンの重さがあるとみられる。堆積した層の最上部にあるのを考慮すれば、これらの岩は元々はクレーターの外から来たに違いない。科学者らはクレーターの縁の基岩だった岩か、そうでなければ湖の40マイル(約64キロ)以上上流から運ばれてきたものだとみている。
1秒間に9メートルの速さで流れる鉄砲水なら、これらの岩を運んでこれた可能性がある。
論文著者でマサチューセッツ工科大学(MIT)の惑星科学教授を務めるベンジャミン・ウェイス氏によると、そうした鉄砲水は特別な事象で、現地の水文学やあるいは火星における地域気候に根本的な変化が起きたことを示唆する可能性もあるという。
巨大な石が何層もの薄い傾いた堆積層の上に存在するということは、湖がもともとはほぼ静かな状態だったこと、そして干上がる前に鉄砲水に襲われていたことも示す。数十億年の時を費やして、干上がった湖底とデルタ地帯は風に浸食されていった。
同氏は、ジェゼロ・クレーターが地球同様に生物の居住が可能だった環境から現在の荒涼とした地形へと変化した点に言及。露出部分の岩石から、こうした変化の過程をたどれる可能性があると述べた。火星でそのような場所はほかに見つかっていないという。
温暖湿潤だった火星の気候が寒冷乾燥へと変化した理由は、依然として明らかになっていない。