原子力潜水艦とは何か、その仕組みは? 豪州の軍事的野心を解説

演習中の米海軍攻撃型潜水艦「ジョン・ウォーナー」。前方でイルカが跳ねている/U.S. Navy photo courtesy of Huntington Ingalls Industries by ChrisOxley/Released

2021.09.25 Sat posted at 12:00 JST

香港(CNN) オーストラリアはこのほど、原子力潜水艦の開発に着手することで米英両国と合意した。オーストラリアの潜水艦は米英の最新艦によく似たものになると予想される。

米海軍と英王立海軍は、攻撃型潜水艦と弾道ミサイル潜水艦という2種類の潜水艦を保有する。いずれも動力源は原子炉で、水を高圧蒸気に変えてタービンを回すことで推進する。

ただ、攻撃型潜水艦と弾道ミサイル潜水艦(後者は「ブーマー」と呼ばれることが多い)は大きく異なる目的に使われる。オーストラリアが契約するのは原子力を動力源とする攻撃型潜水艦であって、核弾頭搭載弾道ミサイルで核武装したブーマーではない。

以下では2つの潜水艦の違いを説明する。

攻撃型潜水艦

オーストラリアが導入を目指す攻撃型潜水艦は米英潜水艦隊の柱となる万能艦だ。

米海軍の概要書の冒頭では、攻撃型潜水艦の開発目的について「敵の潜水艦や水上艦の捜索および破壊、トマホーク巡航ミサイルや特殊作戦部隊(SOF)による陸上への戦力投射、情報・監視・偵察(ISR)任務の実行、戦闘群の作戦の支援、機雷戦への関与」と説明している。

米国が保有する攻撃型潜水艦53隻には3つの級(クラス)がある。最新型は19隻を数えるバージニア級となる。

全長約114メートル、排水量8000トンのバージニア級はトマホーク巡航ミサイルや魚雷を数十発装備する。時速46キロを超えるスピードで航行し、無限に潜航し続けることが可能。潜航時間の制約となるのは乗組員132人への物資補給の必要性のみだ。

フロリダ州ポートカナべラルを後にする米海軍攻撃型原潜「インディアナ」=2018年

CNNは2015年にバージニア級潜水艦「ジョン・ウォーナー」を取材した際、その内部を見学した。

この潜水艦は潜望鏡すら持たず、フォトニクスマスト(高精度の赤外線カメラを含む高度な電子機器)を使って戦場を監視する。情報は司令室の大型スクリーンに表示され、ジョイスティックで全ての画面を操作する。

英国のアスチュート級4隻は米国の潜水艦よりさらに高速で、潜航しながら時速56キロ以上を出せる。米国のものと同様、トマホーク巡航ミサイルを搭載している。

英王立海軍のウェブサイトによると、「トマホーク4は同ミサイルの最新型となる。以前のトマホークを上回る射程(1600キロを優に超える)を有し、飛行中に新たな目標に向けて方角を調整したり、母艦となる潜水艦に戦場の画像を送信したりできる」という。

オーストラリアが求めているのは、こうした火力と航続時間だ。同国は北部沖の海域を敵海軍の脅威から保護するとともに、南シナ海へ海軍力を投射して米国と共に中国の影響力をそぎ、「航行の自由」を守ることを目指している。

弾道ミサイル潜水艦

米英のブーマーには、複数の核弾頭を積んだトライデント弾道ミサイルが搭載されている。その任務は本質的に、ほとんどの時間を潜航しながら数カ月連続で海中にとどまり、敵の核攻撃に対して報復攻撃を実施する備えをしておくことにある。

弾道ミサイル潜水艦は水中での静粛性が高く、発見は極めて難しい。抑止力の要となる存在であり、米英の敵国が核による第1撃を実施した場合、確実に恐ろしい代償を支払うことになる。

クライド湾に向けて航行する英国のアスチュート級潜水艦=2020年

米国の弾道ミサイル潜水艦はそれぞれトライデントを20基(英国の潜水艦は16基)搭載しており、1基あたりの弾頭数は8発(英潜水艦は3発)に上る。射程距離は7400キロ超、核弾頭の出力は100~475キロトンとなっている。

米国は弾道ミサイル潜水艦を14隻、英国は4隻保有する。オーストラリアが契約するのはこのタイプではない。


米海軍の弾道ミサイル潜水艦「ペンシルベニア」/Spec. 2nd Class Amanda R. Gray/U.S. Navy

オーストラリアが原潜を配備するのはいつ?

原子力潜水艦の開発と配備には多くの時間が必要で、数十年かかる可能性もある。15日に発表された米英豪3カ国の合意では、どのような建造方法がオーストラリアにとって最適かを検討する期間を1年半しかもうけていない。

オーストラリアのモリソン首相は、新型潜水艦の配備は40年になる可能性があるとの見方を示した。

ただ、米海軍潜水艦の元指揮官で、現在は新アメリカ安全保障センター(CNAS)の研究員を務めるトーマス・シュガート氏によると、オーストラリアはインド太平洋地域における安全保障の状況を踏まえ、もっと早い時期の配備を望んでいる可能性もあるという。

「インド太平洋地域における軍事バランスの後退を考えると、遅くとも40年には配備したいところだ。一方で、たとえ切迫したスピード感で動き、既存の設計や供給業者を多く使ったとしても、約10年以内に配備されるとは考えにくい」(シュガート氏)

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